森保一監督の「原点と魅力」オフト氏とともにプロへ導いた恩師・今西和男氏が語る

今西和男氏(左)とハンス・オフト氏

【The インタビュー~本音を激白~(23)】森保ジャパンが2022年カタールW杯、今夏の東京五輪へ向けて21年の活動をスタートさせた。五輪後はW杯アジア最終予選を控えており、兼任の森保一監督(52)にとっては重要な年になる。連載「The インタビュー」第23回では、指揮官の恩師である今西和男氏(80)を直撃。長崎日大高時代は無名だった森保監督をマツダ(現J1広島)に引っ張ったキッカケや大きく成長した愛弟子への期待などを熱く語った。

――そもそも森保氏との出会いは

今西氏(以下今西)春休みに広島で高校生の大会があって、恩師の下田(規貴=きよし)先生(長崎日大高サッカー部元監督)がね、「森保という選手はどうか?」と言われたのが最初だった。

――プレーを見たときの印象

今西 技術はしっかりしているが、スピード、強さ、高さがなかった。ただ姿勢が良くて、ボールを持ったときにすぐ上を向く。当時、日本は(不規則にボールが変化しやすい)土のグラウンドが多かったから、そういう選手は日本で見かけなかった。それに運動量も多い。だけどね、当時のサッカー界はドリブル、パス、シュートの3つか、ヘディングが強いとか、この4つのどれかがないと認められない時代。周りにはそこまで評価されていなかった。

――それでもマツダ(現広島)で採用した

今西 日本人にはない周囲を見る姿勢がいい。ひょっとするとモノになるかもしれないと思って(当時マツダコーチで後の日本代表監督)ハンス・オフトと改めて長崎まで見に行った。オフトも納得したが、入社当初はフィジカルが未熟だったこともあり、オフトのときは試合に使ってもらえなかった。

――その後は定位置をつかんだ

今西 オフトの後に連れてきた(元イングランド代表MF)ビル・フォルケス・コーチ(故人)は「こういう選手はモノになる」と。マツダでレギュラーになって、今度はオフトが日本代表監督になって森保を呼んだ。彼の運動量、全体を見れる姿勢、それにサッカーに取り組むひたむきな姿勢を買っていた。高校当時はどこのチームも目をつけなかったけど、日本代表選手まで成長してくれたのはうれしい。

――森保監督の素晴らしさはどこか

今西 勉強は嫌いでサッカー一筋だったけど、とにかく人の話をよく聞く。自分が成長するために何が必要か、貪欲だった。特に努力したのは、チームの全体の流れを見る力。森保自身もスピードがなく、運動量があってもそこまでフィジカルが強いわけではないのを知っていた。短所を受け入れた上で特長を最大限生かそうと頑張っていたのが印象的だった。

――現在は東京五輪代表とA代表を指揮する

今西 コーチに1個上の横内(昭展氏=53)がいる。現役時代、森保と左サイドでコンビを組んでいた選手で、2人は気が合って当時からいわゆる“ツーカー”という言葉がピッタリだった。そういう意味で指導者としても互いにアシストしながら息の合った仕事ができていると思う。いい組み合わせじゃないか。

――監督としての“愛弟子”はどう見る

今西 彼はスポーツ選手として突出した能力を持っていたわけではない。共通した戦術、考え方でやっていく大切さをわかっていると思う。ただ、代表はクラブと違って合同で練習する時間が限られる。今は基本的な戦術などは共有する部分が増えているが、多くの時間が取れないのはつらいでしょうね。

――東京五輪では金メダルを目指している

今西 日本でやるのはプラスでもあり、マイナスでもある。たくさんの人が応援してくれる一方で、勝たないといけない使命もある。選手たちも勝つためにチームがまとまらねばという意識は持っていると思うが、それを実践するにはそれなりの時間が必要。でも今はチームが集まって練習をできないハンディもある。それに特に若い選手だと個人として活躍したい意識と、チームとして戦うところのギャップも生じかねない。そこを森保が、どううまくやるかがポイントになる。

――2022年カタールW杯への期待

今西 若い世代のレベルは確実に高くなっている。日本人の長所は、海外でも求められているが、チームワーク、個を破るための組織が大事になってくる。五輪のところで言ったが、結果を出すためには、短い期間でいかにしっかりした組織をつくれるかでしょうね。

【五輪代表が試練の2連戦】森保監督が率いる日本代表は25日に国際親善試合(日産ス)で韓国と、30日にカタールW杯アジア2次予選(フクアリ)でモンゴルと対戦する。昨年11月の欧州遠征以来、約4か月ぶりの活動となるが、新型コロナウイルスの影響でベストメンバーを揃えられない中、チームをまとめられるのかがポイントとなる。
森保監督が兼務するU―24日本代表(五輪代表)は強豪のU―24アルゼンチン代表との2連戦(26日=東京、29日=北九州)に臨む。昨年1月の東京五輪アジア予選を兼ねたU―23アジア選手権では屈辱の1次リーグ敗退を喫している。MF久保建英(19=ヘタフェ)ら海外組も参戦する中、東京五輪に向けて真価が問われそうだ。

☆いまにし・かずお 1941年1月12日生まれ。広島市出身。東京教育大(現筑波大)を経て東洋工業(後のマツダ)入りし、日本代表としてもプレー。現役時代のポジションはDF。28歳で現役を引退し、社業に専念。82年から再び同社サッカー部に携わり、マツダにハンス・オフト氏を招聘。Jリーグ初期はマツダを母体する広島の強化を担った。その後は日本サッカー協会強化委員会副委員長、FC岐阜社長、吉備国際大学教授を歴任した。

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