CO2削減のために子どもを産まない?少子化対策の優等生・仏で出生率が低下するワケ

少子化対策の優等生と言われ、ヨーロッパで唯一出生率が増加したフランスで出生率が下がっています。出生率は2017 年から4年連続して前年を下回りました。2020年は1.84です。

それでも、この数値はヨーロッパ1位。福祉国家スウェーデンの1.76を上回っています。少子化に悩む日本の出生率は、2020年9月厚生労働省の発表によると1.36で、過去最小を更新しました。

今回はフランスの少子化対策と、この国で子育て中の筆者が感じる日本の課題について考えます。


なぜ仏は少子化対策の優等生なのか

1950年以降、つまり第一次大戦と第二次大戦が終わってヨーロッパ社会が落ち着きを取り戻してからは、フランスでは「100人の女性が200人の子供を産む」状況が続きました。出生率は2程度。これが90年代に1.7に落ち込みますが、徐々に回復を見せ2006年から2014年の8年間は安定して2前後でした(フランス国立統計研究所2018年資料より)。

一度落ち込んだ出生率が回復した理由としてよく挙げられているのは、申請なしで受給できる家族手当や、保育制度の充実、産後の女性の職場復帰を受け入れる社会環境などです。

家族手当は、2021年2月現在、子供2人の家庭には月131.95ユーロ(約1万7,000円)、子供3人には301ユーロ(約3万8,000円)、子供4人には470.07ユーロ(約6万円)が支給されています。

20歳までの子供がいる家庭が対象となり、金額は保護者の収入や子供の年齢によって上下します。外国人である筆者も家族手当の恩恵を得ていました。申請をせずとも、2人目出産後は自動的に毎月決まった金額が銀行口座に振り込まれました。

父親産休は給与全額保証

パリのマルシェにも親子連れやベビーカーは多い

家族手当は第2子からが対象ですが、第1子妊娠から利用できる制度の1つに、産休や育児休暇があります。フランスの産休は、第1子と第2子までは産前6週間、産後10週間、計16週間。第3子からは産前8週間、産後18週間、計26週間。また、8週間の産休取得は義務です。

父親産休は11日(子供の数によっては18日)で、給与の100%が保証されています。フランスの父親産休の日数はヨーロッパ諸国の中では多くはなく、例えばノルウェーの14週間に比べると7分の1しかありません

しかし正社員の80%、契約社員の48%が、権利として保証された日数いっぱいを取得しています(社会問題監察総監2018年報告書による)。

特徴的な「保育ママ制度」

産休の後は保育、そして教育です。フランスには託児所以外にも充実した保育ママ制度があり、職場復帰を望む母親と父親を支えています。

保育ママは、子供を4人まで自宅や雇用主宅で預かることのできるプロであり、行政から認可を受けた職業です。労働時間や休暇、報酬の規約が存在し、保育ママ制度を利用する親は雇用主となって保育ママと個人的に契約を交わします。

2014年のフランス家族手当基金の報告では、フランスの56%の未就学児童(3歳未満)が託児所を利用し、80万3,300人の親が保育ママと契約を交わしました。

パリ市内を歩く親子とベビーカー

保育園は無償

3歳になるとフランスのほぼ100%の児童が保育園に通い、この時点から就学が始まると認識されています。フランスの教育は無償であり、家庭の教育費負担が諸外国に比べ小さく抑えられていることは、
前回 『フランス人夫には理解できない?日本家庭の教育支出がフランスの4倍にも上るワケ』に書いた通りです。

子供を持つ上で最も大きな責任の一つである教育、これを社会が支えることの重要性も、同じ記事に書きました。

この時に取材したフランスの新聞JDD紙記者のベルトラン・グレコ氏は、小さな子供のいる女性の職場復帰を、例えばドイツ社会はあまり歓迎していないことを教えてくれました。子供を産んだ後も職場復帰しやすいフランスの環境を選び、氏の友人夫婦はドイツからフランスへ引っ越したということです。

自動給付される家族手当や、母体にかかる負担を分担する制度、母親の社会復帰と自己実現の保証、無償の教育などのほかにも、子供3人以上の大家族には国鉄料金や休暇施設の利用料に大きな得点が用意されていることが、広く認識されています。

仏国民の72%「子供を産み育てやすい国」

日仏ではどれくらいの割合の国民が、自身の国を「子育てしやすい」と考えているのでしょうか。

日本の内閣府がまとめた「少子化社会に関する国際意識調査報告書(2011年)」を見ると、フランス国民の72%が「子供を産み育てやすい国だと思う」と回答しています。また同報告書からは、日本国民の52.6%が「子供を産み育てやすい国だと思う」と答えたことがわかります。

逆に見れば、45.5%、つまり半数近くの日本国民が「子供を産み育てやすい国だと思わない」と答えています。しかし、単純に制度面を比較した場合、日本がフランスよりもことさらに劣っているとは言えないようです。

なぜ日本は子育てがしにくいのか

まず補償面では、日本では3歳未満の子供には15,000円が給付されるほか、中学生までは子供1人に対し5,000円が給付されるなどの手当が存在します。いずれも市町村に請求することで受給が可能です。

申請が必要で、受給期間などに違いはありますが、おおむねフランスの補償とかわりません。ただし、鉄道料金や余暇施設の割引等の大家族のメリットは、日本にはありません。

産休は日本の場合、産前6週間と産後8週間取得できます。パート社員、派遣社員、契約社員でも取得可能とされていますが、本人が会社・上司を相手に交渉する必要があり、産休が当然の権利として認められているかどうかは疑問です。

比較的日数が少ないこと以上に、この「取得の難しさ」に大きな問題がみられます。なぜなら産休取得や職場復帰に不安があれば、子供を産む決断は困難になるからです。

父親産休は、現在厚生労働省が検討中です。現時点で妻の産後に休暇を希望する父親は、育児休業制度を利用します。子供が1歳2ヶ月に達するまでの間、父親と母親合わせて1年間取得できますが、残念ながら活用は大変難しいようです。日本政府のデータによると、2018年に育児休暇を取得した男性はわずか6.16%でした。

制度はあっても活用できない日本

日本では、待機児童の問題があります。厚生労働省の発表によると2020年4月1日時点で1万2,439人。政府が目標に掲げた「待機児童ゼロ」ではないものの、3年連続で待機児童数が減少していることは喜ばしいです。

加えて2019年10月から、3歳児以上の幼児教育・保育が無償化されました。その後に続く小中学校の義務教育も無償であり、制度上はフランスと全く同じです。しかし現実は、大きすぎる教育費負担が子供を持つ決断の障害になっていることも、さまざまなデータが伝えるところです。

出産をめぐる社会の環境はどうでしょうか。産後、小さな子供のいる女性が職場復帰することを、会社や社会は歓迎しサポートしているでしょうか。またそれ以前に、子供連れは日本社会から歓迎されているでしょうか。

職場に出産の順番待ちがあったり、ベビーカーが公共の場で嫌厭されたりという報道が思い出されます。妊産婦や子供連れファミリーを受け入れてくれる環境があれば、これから子供を持とうとする世代には心強いことでしょう。

両国の違いは環境の差?

こうして眺めてみると、フランスと日本、補償や制度には大差が無いのに「子供を産み育てやすい国」という認識に開きが出てしまうのは、この環境面に原因がありそうです。制度があっても使えないという現実が、出産と育児を困難なものにしているのではないでしょうか。

パリがあるイル・ド・フランス地域圏と、東京のある南関東地方を、OECDの「より良い暮らし指数(Better Life Index)」で比較してみると、社会とのつながり(Civic Engagement)と教育(Education)の満足度が、日本は非常に低いことがわかります。

今後、もし制度はあっても活用できず、家庭の教育費負担が重いままならば、日本の「良い暮らし指数」はさらに落ち込み、「子供を産み育てやすい国」と感じる人はさらに減少するでしょう。そう考えると、良い暮らしの環境作りこそが最良の少子化対策なのかもしれません。

パリを一望するテラスレストランではベビーカー持参でくつろぐファミリーの姿が(2020年夏)

フランス人が子どもを産まない理由は?

商店街をキックスケーターで移動する子供

ここで最初の問いに戻ります。なぜ、フランスの出生率は4年連続で減少したのでしょうか。

一説には環境問題が挙げられています。「CO2削減には子供を産まないことが1番の対策」とするデータを2018年10月にAPFが報道し、その反響が各紙で取り上げられました。

実際ここ数年、子供を持たない選択をした人々の意見をメディアで目にする機会が増えています。

「環境問題を考えると、これからの世の中に新しい生命を生むことを無責任だと感じる」「自分が孤独になりたくないから子供を産むのか?人生に本当に子供が必要かどうか真剣に考えた末、私には必要ないと判断した」「今ある自由を一生涯大切にしたい」「子供を持つことは、自分には背負うことができないほどの大きな責任だと感じる」など、理由はさまざまです。

筆者の周辺を取材してみても、少なくない数の20~30代の男女が「子供を持たない」と答えました。今後、フランスでも少子化が進む可能性はあるでしょう。

多様性を受け入れる社会への期待

しかし、2019年12月2日ル・フィガロ氏電子版が報じた社会学者シャルロット・ドゥべ氏の分析では、「『子供を持たない選択をする若者が増えている』という報道は、メディア上の現象」であり、「調査結果によると子供を持たない選択をする人は5%で、この数値は30年間安定している」とのことでした。

先に説明した通り、フランスの行政と社会は「良い暮らし」と「子供を産み育てやすい国」を目指し、出産と育児をめぐる制度や環境を整えてきました。その一環として今、子供を持たない選択をした人たちの声が取り上げられている、と考えることもできます。

つまり、「産まないこと、持たないこともありなのだ」という、多様性の一つとして認識し理解する姿勢の表れ。なぜなら子供を持つことは個人に委ねられた自由な選択であり、その自由があってこそ「良い暮らし」であり「子供を産み育てやすい国」だからです。

日本がフランスから学ぶべきこと

役所や教会前広場のメリーゴーランドはフランスの伝統的な風景(パリ市庁舎前広場)

予測不能な過渡期にあるように見えるフランスの出生率ですが、その現状からは少子化に悩む日本が参考にし、取り組むべき事柄が浮かび上がります。制度を充実させることと並行して、それを活用できる環境を整えることが必至であること。妊婦や子供連れを歓迎する社会が望まれること。これらが整ってなおかつ、子供を産む選択が自由であること。

「女性として生まれたからには子供を産まねば一人前ではない」とか「女性の本当の幸せは子供を産み育てることだ」などといったお仕着せや社会圧力がある限り、「良い暮らし」も「子供を産み育てやすい国」も実現できないと感じています。

〈文:Keiko Sumino-Leblanc / プレスイグレック〉

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