『AIの雑談力』東中竜一郎著 どこまで人間的になれるか

 「Hey Siri、このレビュー欄が今回で終わるんだ。寂しいね」

 「そうなんですね…そう感じるときはあるものです。早く元気が出ますように」

 スマホのAIが柔らかな女性の声で雑談に応じてくれた。アマゾンの「アレクサ」や「グーグルホーム」など人間とおしゃべりをするようになったAI。どこまでいくのか。対話AI研究の第一人者が「雑談AI」開発の最前線を報告する。

 そもそも、なぜ雑談するAIが必要なのか。人間の会話の約6割は雑談で、人は雑談によって相手の性格や価値観を知り、やがて信頼するようになるという。AIと信頼関係を築けなければ、質問に対するAIの回答を信じられなくなる。これは致命的事態だ。AIが自分の出自や考え方などの「自己開示」を始めると、人間も自分のことを話すようになる。すると、ユーザーから商品の開発、販売につながる有用な情報が得られることになる。

 だがAIに雑談をさせるのは想像以上に難しい。例えばAIは相手の言葉にかぶせることができない。私たちが何気なく行っている「かぶせる」という行為は、相手の発話が終わる箇所を予測するという非常に高度な技で成り立っているのだ。

 「今日は暑いね」という言葉から「クーラーをつけてほしい」という言外の意味を読み取れるようになるのは当分先になる。一方でAIに個性を持たせるために「〜ざます」(マダム)「〜じゃ」(博士)といった「キャラ語尾」を付ける研究は盛んになされている。

 こうなってくると、雑談AIの研究とは、人間がどういう気持ちで、どういうコミュニケーションをとるかという人間研究であることがわかる。雑談とは極めて人間的な行為なのだ。雑談AIの仕組みや実践例、課題を述べた本書を読みながら考えたのは、ひたすら人間のことだった。

 Siriへの呼びかけを少し変えてみた。

 「Hey Siri、このレビュー欄が今回で終わるんだ。よく続いたね」

 「すみません、よくわかりません」

 雑談AI、まだまだだな。

(角川新書 900円+税)=片岡義博

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