「平和、当たり前ではない」 叔父の被爆体験 漫画に

叔父の被爆体験を漫画で描いた吉田さん=県庁

 長崎市の主婦、吉田直さん(73)=ペンネーム=が、1945年8月9日に長崎市で被爆した叔父吉里正勝さん=81年に52歳で死去=の体験を漫画「夏の日のピリオド」として描き、自費出版した。吉田さんは「若い人に読んでもらい、今の平和は当たり前ではなく、多くの犠牲の上に成り立っていることを知ってほしい」と話している。

 叔父は両親、姉2人、弟の6人家族。45年夏、吉田さんの母に当たる長姉は結婚して諫早市に住んでおり、残り5人は長崎市坂本町(当時)に暮らしていた。
 8月9日、16歳の叔父は爆心地から約1キロの三菱長崎製鋼所で被爆。下敷きになりながらも抜け出し、自宅に向かった。母、次姉、弟は無事だったが、翌朝、畑で全身やけどの父の遺体を見つけた。
 叔父は諫早の長姉夫婦を訪ねて助けを求め、長崎に戻って父を火葬した後、家族で約20キロの道のりを歩き、蚊焼の親戚宅に身を寄せた。だが母、次姉、弟の3人は高熱で床に伏せ、吐血し髪が抜け落ちた。20日に母と弟が亡くなり、次姉も苦しみに耐えられず「殺して」と懇願し、大量の血の中に内臓のような塊を吐いて22日に息を引き取った。叔父は戦後、家族に被爆体験はほとんど語らず、原爆症で療養中に亡くなった。
 吉田さんは絵が好きで中学生のころから漫画を通信教育で勉強し、イラスト業や漫画家のアシスタントの経験もあるという。周囲の人のケロイドなど原爆の爪痕が身近に残る中で育ち、家族を原爆で失った母の話を聞いているうち、いつか原爆を漫画で伝えたいと思っていた。子育てが一段落した2008年ごろから長崎市立図書館に通い原爆について調べると、被爆体験を収めた本の中に偶然叔父の手記を見つけた。
 手記を基に、被爆クスノキや一本足鳥居で知られる山王神社のそばにあった叔父や母の実家付近などを訪問。亡くなった両親の遺品を整理していると、当時の状況と平和への願いをつづったそれぞれのメモも見つけ、漫画で記録を残す思いを新たにしたという。
 一昨年秋ごろから描き始め、昨年11月に完成。表紙には被爆前の山王神社のクスノキと当時遊んでいたであろう子どもたちを描き、叔父の被爆体験に約60ページを割いた。吉田さんの貧しくても楽しかった子ども時代のエピソード「幼き日々 ウマゴヤシの詩」約30ページも収めている。
 1100円。長崎市浜町の好文堂書店で販売している。

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