コロナ禍でなぜ? 大麻押収量が4割増 巧妙化する密輸、まるで本物のワインや蜂蜜

液状大麻の原料となる大麻草

 並べられたワインや蜂蜜、オリーブオイルのボトルは、どれも素人目には本物に見える。「液状大麻」は、幻覚作用がある有害物質が濃縮され、乾燥大麻より危険性が高い。大麻リキッドとも呼ばれる。多くは一見、本物と見分けがつかないほど巧妙に偽装されている。新型コロナウイルス感染症の感染拡大で海外からの入国が極端に減る中、押収量は急増。変わる密輸の手段と税関の水際対策の現場を追った。(共同通信=山岡文子)

蜂蜜に偽装した液状大麻(東京税関提供)

 ▽強い粘り気

 2020年2月、東京税関は米国から航空貨物で届いた箱を開封した。中身は赤ワインのボトル12本。1本ずつ袋に入っており、ボトルの口を覆うシールや、胴に貼られたラベルに不自然な点はない。

 しかし宛先は以前、大麻が送られてきた都内の民泊。いわゆる「泳がせ捜査」で目を付けていた住所だ。

 輸入貨物は電子データで申告される。コンピューターにインプットされた、いくつもの条件に基づき輸入を許可するもの、書類審査にかけるもの、検査に回すものに分類される。

 赤ワインのボトルは色が濃いため、中の液体を判別しにくいが、液状大麻は水やワインより粘り気が強い。ボトルを傾けると、中の液体はワインと明らかに違う動き方だった。

 ボトル全体をガーゼで拭い「不正薬物・爆発物探知装置」(TDS)にかけると、大麻成分が検出された。こうした根拠をそろえて差し押さえ許可状を裁判所に申請。令状が届き、初めて全てのボトルを開けた。押収した液状大麻は計9キロに上った。

赤ワインのボトルに入っていた液状大麻(東京税関提供)

 ▽コロナ禍、押収件数は減ったが

 世界的な新型コロナの感染拡大で、20年に全国の税関が摘発した不正薬物の件数と全体の押収量は減少した。財務省によると、件数は前年より314件少ない733件、押収量は過去最高だった3400キロから、1900キロに減った。

 大麻は摘発件数こそやや減ったものの、押収量は4割増の116キロ。8割近くは、州単位で合法化されている米国や、国全体で合法化に踏み切ったカナダからの密輸だ。液状大麻を含む「大麻樹脂等」に分類されるものは、前年の3倍を超える68キロに上った。

乾燥大麻(東京税関提供)

 なぜ、これほど急増したのか? 東京税関調査部の宮崎雅寿次長は「まず、乾燥大麻と比べて匂いが少ないため、見つかりにくいと考えられているのでしょう」と話す。乾燥大麻は匂いが漏れやすい上、かさばる。麻薬探知犬の存在が広く知られ、エックス線やTDSといった検査機器で摘発されやすい乾燥大麻に液状大麻が置き換わった格好だ。同税関でも20年に押収した液状大麻は、前年比の60倍に跳ね上がった。

 密輸の方法にも変化が表れた。18年、19年に同税関で摘発した大麻は航空機旅客による持ち込みが多かったが、コロナ禍で海外からの入国が激減した20年は、持ち込み量の減少に反比例して航空貨物による密輸が増えた。

 「空港で検査に当たっていた職員は航空貨物や国際郵便物を調べる業務に回り、摘発態勢を強化しました」と宮崎次長は説明する。

液状大麻が入っていた赤ワインのボトル(東京税関提供)

 ▽増える使用率、若年層への影響も

 20年は、大学の運動部員による大麻使用が相次いで発覚、タレントや俳優などの著名人だけでなく、一般社会にも大麻が広がっている現状が浮き彫りになった。

 過去に1度でも違法薬物を使ったことのある人は、日本にどれぐらいいるのだろうか。国立精神・神経医療研究センターは隔年で調査を実施し、傾向を明らかにしている。

 直近では19年9~11月、住民基本台帳を基に15~64歳の7千人に調査票を配布し3945人の有効回答を分析した結果、覚醒剤は推計0・4%で過去と比較すると横ばい、コカイン0・3%で増加傾向だった。大麻は増加傾向が続き、1・8%と他の薬物より生涯使用率は多かった。生涯で1度でも使ったことのある人の推計も覚醒剤が35万人、コカイン30万人だったのに対し、大麻は161万人と突出した。

 若年層への影響も深刻だ。警察庁によると、20年に大麻取締法違反で摘発された14~19歳の少年は、前年より278人多い887人で、過去最高を更新。15年と比較すると約6倍に上る。

大阪府警が押収した液状大麻入りのカートリッジ=20年10月26日

 ▽ネットで入手可能な手軽さ 

大麻の中でも、特に電子たばこ用のカートリッジに入った液状大麻は、インターネットで手軽に買えてしまう。ネット注文であれ、持ち込みであれ、組織と違って1度の密輸量は少なく、自分や友人用に入手するケースが多い。中には「2人の子どもと一緒に使う」と供述した父親もいたという。

 カートリッジの長さは、せいぜい7、8センチで1本に入っている液状大麻は1グラムにも満たない。人が持ち込む際も、服や持ち物の中に隠しやすい。スティック状のクッキーと一緒に缶に入ったカートリッジが押収されたこともある。

 宮崎次長は「1キロでも、たった1グラムでも、違法で人体に危険な薬物であることに変わりありません」と話す。「水際で阻止するのが、私たちの仕事です」

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