雑誌やテレビ番組などで、古民家カフェが取り上げられているのをよく見かけませんか?
筆者は無意識にアンテナを張っているせいなのか、日本人のDNAのせいなのか…古民家カフェが気になって仕方ありません。
倉敷市玉島にある古民家カフェ「cafe 菜彩(さいさい)」も気になるお店のひとつ。
地図で調べるとcafe 菜彩の周りには、名所もなければ大通りに面しているわけではなく「なぜこんなところに?!」と興味を引きました。
気になるなら行かずにはいられない!
cafe 菜彩の「なぜここに?」の理由と魅力などをたっぷり紹介します。
いったん通り過ぎてしまいそうな、風景に溶け込んだお店
cafe 菜彩を初めて訪れるときには、目印となる看板がないので注意してください。
気付かず通り過ぎてしまいそうになります。
「看板があればいいのに…」
そう思うかたもいるかもしれませんが、昔ながらの家々が立ち並ぶ場所に目立つ看板が「ドーン」とあったらどうでしょう。
風景に溶け込むのが古民家カフェっぽくないですか?
分かりやすい目印は煙突です。なぜ煙突があるかは、あとで紹介しますね。
お店の前には、敷石を挟み向かい合わせで車が6台ほど停められます。
築100年以上の建物を改装していて、外観はモダンな佇まいです。
2021年1月に訪れたときには、軒下に大根を干していました。
太陽の光をさんさんと浴びている大根を見ると、料理をていねいに作っていることが伝わってきませんか?
建物の表(駐車場すぐ横)と、建物の裏には井戸があります。
表の井戸は石でできており蓋(ふた)もなかったためレンガで組み直し、鉄板の蓋と手押しポンプを付けたそうです。
納屋の前にある水道からでてくる水は、表の井戸から井戸水を引いているのだとか。
井戸水なので、特に夏の水やりには重宝しているそうです。
なお、cafe 菜彩へ訪れる際には、前日までに予約が必要です。
内観も期待を裏切らない!細部まで魅力たっぷり
さて、店内へ。
中のほうが古民家らしさを感じます。
広い土間だった場所をカフェに改装し、席は全部で4卓。
2023年4月現在は、新型コロナウイルス感染症拡大対策で1卓減らし、全3卓
店内は、こぢんまりとした隠れ家要素のある空間です。
外から見た大きな建物に対して、カフェスペースがこぢんまりとしていることから、ピンと来ているかたもいるのではないでしょうか。
そう、cafe 菜彩は住居の一部をカフェとして開放しているのです。
住居部分には薪ストーブがあって、建物全体を温めているとのこと。
居間、キッチンなどの生活空間や、煙突の温もりで2階の寝室もほんのり温まるそうです。
古民家は寒そうなイメージがありますが、断熱材を入れていることもあり、快適だそう。
ストーブ用の薪は外で乾燥させています。
薪ストーブのある古民家っておしゃれですよね。薪割りはできる自信がないけれど住んでみたいなぁ。
カフェスペースは細部にこだわりを感じられるつくりです。
▼たとえば、椅子に敷いているこれ。なんだか分かりますか?
倉敷の手織り技法のひとつ「倉敷ノッティング」というもの。
民藝運動を熱心にし、倉敷民藝館初代館長を務めた外村 吉之介(とのむら きちのすけ)が生みだした織物です。
時間をかけて手で織られる、デザイン性にも実用性にも富んでいる倉敷ノッティング。
ちなみに、倉敷ノッティングを学べる場所が倉敷美観地区にあります。
「倉敷本染手織研究所」と呼ばれる場所で、全国から来た受講生が1年間共同生活を送りながら学ぶのです。
▼お店の至るところにある置物もかわいくて目が行きます。
あとで紹介するランチは旬の野菜たっぷりですし、置物から食事まで季節を感じられるのです。
畑から食卓へ、野菜たっぷり月替わりランチ
2021年1月のランチ
メニューは月替わりで、1種類のみです。
2021年1月はお魚がメインで、カラッと揚げた白身魚に生姜とねぎが香るソースがかかっていました。
ランチは1,500円(税込)でミニデザートとドリンク付きです。
メニューは公式Instagramにアップされます。
2021年2月のランチ
1か月後の2月のランチはこちらです。1月とはまったく内容が違いますね。
3種のシュウマイがメインです。
シュウマイはポン酢につけて食べます。
▼一番左にあるシュウマイは、大きく切られたごろごろのレンコンがついているシュウマイです。
レンコンのしゃきっと感が残っていて食感も楽しい!
一番右側は、もち米に包まれたシュウマイでもっちもち。実は左と右のシュウマイは中身が同じです。
シイタケの旨みもあって、噛むと肉汁がじゅわぁ~。具が同じでも皮がまったく違うので、食感も味も違う仕上がり。
▼真ん中のシュウマイは、豆腐とはんぺんとイカを具にしたシュウマイです。柔らかい具材を使っているので、ふわふわ。
外側はシュウマイの皮を千切りして、まぶしているのだそうです。
しっかり紹介したいのはメインだけではありません。小鉢ひとつひとつもていねいに作られています。
▼きゅうりの中華風酢の物はシュウマイにぴったり。
春雨入りの酢の物ってシュウマイを食べるときにほしくなりませんか。
▼カブの葉っぱのお漬物です。
捨てられがちな葉っぱですが、このように立派な一品になるんですよね。雑穀米と一緒に食べました。
▼白菜と玉子のスープは鳥だし。
白菜は近所からいただいたそうです。
近所との関係がどんどん希薄になる世の中で、「ご近所からのいただきもの」と聞いただけでほっこりします。
▼切り干し大根と干ししいたけの旨みたっぷり。
油で炒めることで、しっかりと味が染みています。
切り干し大根は先ほど紹介した、軒先で干されていた大根です。
軒先からお皿の上へ。
大根はお店の畑で採れたものなんですって。
食後にはうれしいドリンクとスイーツ付き。ドリンクはコーヒー、紅茶から選べます。
▼訪れた日のスイーツは、紅茶シフォンケーキと杏仁豆腐でした。
黄色のソースは金柑とのこと。金柑のソースって珍しくないですか?
金柑も近所からもらったのだとか。
和風のカップやお皿は、建物を改装するときに蔵から出てきたものだそうです。
蔵に眠っていたものが再び使われるなんてステキですよね。
cafe 菜彩ではカフェのみの利用もできます。
ランチが終わればカフェタイムに。時間は午後2時30分から午後5時の間です。
本日のケーキやホットサンドがあります。
訪れたときの本日のケーキは、ランチに付いていた紅茶シフォンケーキと豆腐のガトーショコラの2種類でした。
できるだけ畑から採れた野菜を使い身体にやさしいランチを食べられる、cafe 菜彩。
食べるだけではわからないお店の魅力を、cafe 菜彩を運営するオーナーの梅本さんに話しを聞きました。
cafe 菜彩のオーナー梅本さんにインタビュー
お店のオーナー梅本智佳子(うめもと ちかこ)さんにインタビューをしました。
インタビューは2021年2月の初回取材時に行った内容を掲載しています。
いろいろなことが重なり地元玉島の地へ
──お店を開いた経緯を教えてください。
梅本(敬称略)──
玉島に引っ越す前は福岡にいました。
夫が転勤族で、これまで9回の引っ越しをしているんです。
子供が高校生になったので落ち着いた生活をと思い、住みやすかった福岡で家を買って住んでいました。
ところが、熊本地震と夫の倉敷市内への転勤をきっかけに、玉島の地に引っ越そうかなぁと。
実は、私の実家は玉島なんです。
──では久しぶりの玉島ですね。だいぶ変わりましたか。
梅本──
そうですね。30年ぶりの玉島です。道が変わっていますね。
ただ、1年に1回は帰って来てはいました。そのたびに新しい道はできていましたけど、昔に比べだいぶ変わりましたね。
帰ったら玉島の商店街にある、友だちのお店に集合していました。
福岡の生活もよかったんですけど、玉島の実家もあって母もいるし、姉もいるし、夫の転勤が倉敷市内になったし、震災もあったしで福岡の家を手放してこちらに来ました。
古民家を改修する段階でお店をしてみたくなった
──この家は、どのようにして見つけたのですか?
梅本──
玉島に帰ってくるのにあたり、古い物件がいいかなぁとインターネットで探していました。
たまたま見つけた建築会社にメールで問い合わせたら、すぐに返事が来て。
「古い物件もあるのでぜひ」と言われました。それで最初に見た物件がここだったんです。
他の物件も見せてもらったのですが、なかなか車が入りにくくて場所的に難しいこともありました。
でもこの家は道にも面しているし、お庭に木が植わっていましたけど、中も見せてもらっていいなぁと思って。
実家からも近く、母の生活もほとんど変わらず暮らせることも決め手になりました。
2017年の夏に物件を見て、年越しは福岡でして、それからこの家に来たのが2018年の6月です。
夫も私も想像以上にこの家が良かったなぁと思いまして、設計の段階でお店をしてみたいと建築会社のかたに言ってみたんです。
暮らしとお店が両立できる建物に
──えっ!もともとお店をされるつもりではなかったのですか?
梅本────
そうなんです。
ただ、「仕事を辞めたときには何かしたいな」とばくぜんと思っていたことを、設計の段階で伝えたら、あれよあれよという間に設計図ができて。
「お店は毎日しなくていいです」とも伝えていたので、ふだんは家族も使う玄関としての設計になりました。
──では家族のかたが、ふだん使われているのですね
梅本────
そうです。通常は家族の玄関として使っています。
お店をしているときは裏から出入りしています。
いまの駐車場になっているところは、立派なお庭でした。
前の持ち主さんがきれいに管理をされていたのですが、駐車場が必要なことと工事のために、もったいないのですが庭木はすべて伐採しました。
建物は漆喰を塗り直していますが、あまり変えてはいないです。わりとそのままです。
天井は明かりが差すように半分変えました。
玄関の上がり台もそのままです。
ただキッチンは配管を通す関係で一段あげ、結果的にワンステップになって家に入りやすくなったのでよかったです。
──古い建物は寒いイメージがあるのですが、暖かいですね。
梅本────
住居部分の暖房は薪ストーブだけです。
カフェの部分までは薪ストーブ温められないので、灯油ストーブとエアコンを使用しています。
──それで、お庭に薪があったのですね。謎が解けました。
梅本さんの好きなもの・やりたいことが詰まった店内
──お店に置いているものもかわいいですね。
梅本────
これ、粘土なんですよ。
──え、まさか!と思ってまじまじと見ても粘土とは思えません。色合いや形、質感(見た目ですが)まで細かく、まるで本物です。
月に4回は粘土の教室をしていて、私が教えています。
他には、キャンドルの先生にお願いして月に1回ボタニカルキャンドルを作るワークショップをしています。
午前の教室のかたにはパンのランチを、午後はケーキをお付けしています。
パンつくりは習いに行っていて、天然酵母のものを勉強中です。
実際にお出しするのは、天然酵母のものや普通のパンなどさまざまです。
教室を開いて、ランチの営業をしていない時もお店を有効に使えるようにしています。
──椅子に敷いている倉敷ノッティングもすてきですね。
梅本────
今あるものは買ったものですけど、私が作ったものもあるんですよ。
倉敷ノッティングとは違いますが、「赤穂ギャベ」というものも習っていてお店で使っています。
たまたま織り機を持っていたこともあって習い始めました。習いに行くときは織り機をたたんで持っていきます。
他に「金継ぎ」「焼き物」「ステンドグラス」もやりたいですけど、時間がなくって…。
温かみのある古民家カフェに行きませんか
初めてcafe 菜彩に訪れたときに一目ぼれして、「多くのかたに伝えたい!」と想いがあふれたものです。
ランチだけではなく、建物や置物まで魅力たっぷりと感じたのは、梅本さんの好きなものとセンスが詰まっているからだと取材をして気づきました。
この想い、訪れたらわかるかもしれません。
そして、まだまだたくさんのことに挑戦したい梅本さん。
訪れた1年後には、またさらに新しいことを始めていて、作品がお店にも飾られているかもしれませんね。
これからも進化し続ける予感がする、cafe 菜彩から目が離せません。
訪れる際は、必ず予約をしてくださいね。それでは楽しい菜彩ランチを。