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岡山県に、有名な陰陽師 安倍晴明(あべのせいめい)ゆかりの地があることを知っていますか。
浅口市にある阿部神社(阿部山)には、安倍晴明が天文観測のために屋敷を構えたという伝承があるのです。
そんな浅口市から物語が始まるのが「晴明さんちの不憫な大家」シリーズ。
著者である、烏丸紫明(からすま しめい)さんにお話を聞きました。
岡山名物もたくさん登場し、神様やあやかしと主人公が温かい絆を育んでいくストーリーです。
インタビューでは、なぜ岡山を舞台にしようと思ったのか、作品に込めた想いなど、興味深い話を聞くことができました。
岡山県民ならずとも、きっと楽しみながら読めるはずです。
岡山を舞台にした不憫(ふびん)すぎる主人公の物語
岡山を舞台にした小説「晴明さんちの不憫な大家」(烏丸紫明さん著)の第3巻が、2021年1月に発売されました。
第2回キャラ文芸大賞あやかし賞受賞作です。
浅口市にある、陰陽師安倍晴明ゆかりの阿部神社や岡山県内の他のスポット、スイーツやお酒、名物などさまざまな面から岡山がストーリーに登場します。
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作中では、たくさんスイーツや名物が登場。
具体的な商品名は伏せられていますが、岡山県民なら「あれあれ!」とすぐわかるはず。
岡山県を訪れたことがなくても楽しめるし、立ち寄る時に作品に出てきた名物を探す楽しみもできますよ。
コミカライズ版は、2021年3月18日(木)からアルファポリスで公開されました。
岡山県民ならずとも本好きには要注目の作品です。
あらすじ
やたらとろくな目にあわない『不憫属性』の青年、吉祥真備(きちじょうまきび)。
彼は亡き祖父から『一坪』の土地を引き継いだ。実は、この土地は幽世(かくりよ)へとつながる扉。
その先には、かの天才陰陽師・安倍晴明(あべのせいめい)が遺した広大な寝殿造の屋敷と、数多くの“神”と“あやかし”が住んでいた。
なりゆきのまま、真備はその屋敷の“大家”にもさせられてしまう。
主人公が神様やあやかしたちと絆を築いていく
物語は、主人公の吉祥真備(きちじょう まきび)が祖父から受け継いだ、たった一坪の土地を見るために鴨方駅へ降り立つところから始まります。
この“一坪”の土地を受け継いだことにより、真備の人生は大きく変わっていくことに。
吉祥真備は、縁起の良さそうな名字とは裏腹に、ついてないことばかり身に起こる“不憫属性”とも呼ぶべき存在です。
『運が悪い』では、軽すぎる。『貧乏くじ』を引きがちでは、さすがに説明がつかない。
一番の不憫な出来事は、自分の就職活動もうまくいっていないのに、安倍晴明が遺した屋敷の主(大家)にさせられてしまったことでしょうか。
筆者は岡山県生まれですが、県内に安倍晴明ゆかりの地があるとはまったく知りませんでした。
この作品は、あやかしと神様とのやり取りに、時にはあたふたしたり、ほろりと泣けたり、笑えたり、神様が身近に思えるエピソードが満載です。
真備は凡人という設定ですが、人の心に寄り添い打ち解ける才能のようなものを持っています。
その意味で吉祥真備と神様、あやかしが絆を築いていく物語といえるかもしれません。
「晴明さんちの不憫な大家」著者の烏丸さんにインタビュー
ストーリーと取材について
──「晴明さんちの不憫な大家」シリーズについて、これから読む読者に簡単にストーリーを教えてください。
烏丸──
安倍晴明が自分の死後の日本を守るために遺したものを、受け継ぐことになってしまった凡人のお話です。
もちろん、主人公にはそんなものを扱える才能など何もありません。
身の丈に合わないものを半ば強制的に継がされてしまい、この国を守るために尽くせと言われてしまう。
そんな平凡で不憫な主人公が、神様やあやかしたちと絆を育みながら奮闘する物語です。
──作品を書くにあたり、実際に阿部神社がある浅口市に取材に行かれましたか?
烏丸──
作中で名前が出ている場所も、名前は伏せられているけれどモデルにした場所も、すべて足を運んでいます。
1巻の最初に登場する鴨方駅も、その周辺の街並みも実際に歩いています。
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──烏丸さんが住んでいる場所は兵庫県とのことですが、住んでいない地域を作品の舞台にする上で大変なことはありますか?
烏丸──
取材の予定を組むのはやっぱり大変ですね。コロナ禍で移動がためらわれるご時世にもなってしまいましたし。
同居人が岡山出身のため、いろいろと助けてもらっています。
──主人公の吉祥真備という名前は、どのように発想されましたか?
烏丸──
真備は、岡山県倉敷市真備町箭田に生まれ、日本の陰陽師の祖とされる吉備真備(きびのまきび)からです。
主人公が、たぐい稀な不憫設定だからこそ、縁起がよさそうなものにしたいと思い、実際にある姓を調べて吉祥と決めました。
作品に登場するスイーツと岡山の味
──真備がスイーツ好きという設定になったのは、岡山という土地からの発想ですか?
烏丸──
それもありますが、主人公に「まったく役に立たない非凡」という個性を持たせたかったのもあります。
作中では、神様やあやかしに引かれて、岡山スイーツ紹介に一役買っているだけです。
──作中にはたくさんのスイーツが登場します。岡山で気に入ったスイーツはありますか?
烏丸──
実際の商品名を出すことはできないので、作中ではぼかして書いていますが、『白十字』のワッフルはやっぱりたまりませんね。
あれは本当にいくらでも食べられてしまいます。
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──スイーツ以外で岡山県の味で気に入ったものはありますか?
烏丸──
黄ニラですね!
なぜ岡山以外ではほとんど流通していないのか、悲しい…と思うほどです。
お刺身をはじめ、いろいろな料理でいただきましたが、めちゃくちゃ美味しかったです。
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──2巻第三話のお酒のシーンも印象的です。お酒についてお気に入りはありますか?
烏丸──
実は、私はお酒が飲めないんです。
ただ、居酒屋でのバイトや、フレンチレストランでギャルソンとして働いた経験があるので、お酒の知識はあります。
自分自身が飲めないからこそ、神様たちが宴会をするシーンは私の憧れの酒盛りって感じで書きました。
不憫属性という設定
──真備の不憫属性という設定は、今までで読んだことがないものでした。この設定は、どんなところから考えついたのですか?
烏丸──
私がたまにその状態に陥ります。
たとえば、まだ夕方にもかかわらずコンビニのコーヒーマシンが清掃中で、5店連続でカフェラテが買えずに家にたどり着いたり…。
そんな自分自身の経験から”不憫属性“の設定を思いつきました。
──もともと古事記などに興味を持たれていたそうですが、岡山を訪れる前から温羅(うら)伝説など、岡山の伝承を知っていましたか?
烏丸──
温羅伝説は知ってました。
学校で「桃太郎の続きを書きましょう」という課題が出されて、桃太郎を調べたときからだったと思います。
──「晴明さんちの不憫な大家」シリーズを書くにあたり、影響を受けた作品はありますか?
烏丸──
ベースの構想自体は2013 年の時点ですでにあって、それを2018年にキャラ文芸の形に落とし込んだのが、この作品です。
キャラ文芸のノウハウを学ぶという点で参考にさせていただいたのが、望月麻衣先生の「わが家は祇園の拝み屋さん」シリーズ、友麻碧先生の「浅草鬼嫁日記」シリーズです。
一般的な文芸小説とは異なり、主人公やその周囲を取り巻く登場人物のキャラクター像が漫画やアニメのように個性的で、また、舞台設定に特徴のある小説ジャンルを「キャラ文芸」として定義しました。
──作品がコミカライズされるそうですね。
烏丸──
2021年3月18日(木)からアルファポリスで公開されました。
アルファポリスに登録すればどなたでも読むことができるので、小説とあわせて楽しんでもらえると うれしいです!
今後書いていきたい場所と倉敷の印象
──今後も岡山の景観や名物を書きたいとのことですが、どんな場所を作品に登場させたいですか?
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烏丸──
作中に登場させる場所については、その地に伝わる伝説中心で選ぶことが多かったんです。
岡山には素敵な場所がたくさんあるので、今後は気軽に行ける場所も積極的に出していきたいと考えています。
3巻までの情報で聖地巡り(作品に登場する舞台を巡ること)をするとしたら、わりと過酷ですからね。
──倉敷とことこは倉敷市を中心に取り上げているWebメディアです。倉敷の印象を教えてください。
烏丸──
実は、倉敷美観地区を舞台に別作品を書きたい、と思っているぐらい好きな場所です。
江戸時代の白壁やなまこ壁の屋敷や蔵、整えられた街道、水路に、明治時代以降のレトロモダンな洋風建築が同居している。
その絶妙なバランスがたまらなくて。
景観だけに限らず、さまざまな点において「古き良き」と「おしゃれで最先端」が同時に楽しめる。
本当に好きな場所です。
今後の抱負や目標
──今後の抱負や目標を教えてください。
おわりに
著者の烏丸さんは、兵庫県に住んでいます。
でも、ここまで岡山県に対して関心と愛情を持ち、魅力的な物語を執筆してくれました。
これから岡山に行ってみたいという他県の人はもちろん、岡山県に住んでいる人も新しい魅力を発見できるでしょう。
実際に筆者も取材がきっかけでこの物語に出会い、夢中になった一人です。
物語の続きや、コミカライズも楽しみ!
これからの展開がますます楽しみだし、吉祥真備の大家業の行方を見守っていきたいものです。