「ジェンダー平等は時代遅れ」どころか逆行

拠点の男女共同参画センター、予算減や廃止で存立の危機に

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江刺昭子

女性史研究者

江刺昭子

女性史研究者

えさし・あきこ 広島市出身、早大卒。原爆作家・大田洋子の評伝「草饐(くさずえ)」で田村俊子賞。著書に「女のくせに 草分けの女性新聞記者たち」「樺美智子 聖少女伝説」など多数。

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・テレビ朝日「報道ステーション」のCM(ユーチューブから)

 「どっかの政治家が『ジェンダー平等』とかってスローガン的にかかげてる時点で、何それ、時代遅れって感じ」と若い女性が語る。テレビ朝日が公開した「報道ステーション」のウェブCMは、女性蔑視ではないかとネットで炎上した。

 テレビ朝日はCMを取り下げ、謝罪コメントを出して「不快な思いをされた方がいらしたことを重く受け止める」と謝罪したが、どのような経過でこのようなCMが作られたのか、それに関与した人が今どう考えているのか、そしてこれからどうジェンダー不平等の解消に取り組んでいくのか。それらを明らかにすることのない反省は、うわべを繕っただけと言うしかない。(女性史研究者=江刺昭子)

 ▽あまりに甘い現状認識

 コメントでは「議論を超えて実践していく時代にあるという考えをお伝えしようとした」とも釈明している。しかし、実践の前提には正しい状況認識があるべきだ。ジェンダー平等をかかげることを「時代遅れ」とする評価は、現状認識があまりにも甘く、それこそが時代遅れ、時代を逆戻りさせる。

森喜朗氏は政治家のパーティーでベテラン女性スタッフに触れ「女性と言うには、あまりにもお年だ」と述べた=3月26日、東京都内のホテル

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗前会長の女性蔑視発言以来、「ジェンダー」という言葉がテレビの情報番組や週刊誌などで当たり前に語られるようになった。つい最近まで「ジェンダーって何」という反応が普通だったことからすれば、男女平等に向けて一歩前進という印象がある。

 一方で、テレビ朝日のCMにも見られるような言説は、バラエティー番組やSNSばかりか、新聞にもときどき顔をのぞかせる。最近も全国紙に、女性同士の対立をことさら強調し、ジェンダー平等を揶揄するような論説が堂々と掲載された。こうした人たちは、女性が社会の表に出てくるのが、よほど目障りなのだろう。

 ▽男女共同参画センター「憂慮すべき状況」

 都道府県や市区町村に設置されている男女共同参画のための施設は、名称はさまざまだが、このような「時代遅れ」の人びとを啓発し、ジェンダー平等を推進していくことを目標の一つとしている。

 ところが、その存立が危ぶまれる現象が起きている。昨年末に閣議決定した第5次男女共同参画基本計画には、「男女共同参画センターは、地域において男女共同参画を推進するための重要な役割を担っており、その機能を十分に発揮できるよう支援する」とあるが、実態は予算が切り詰められ、廃止や縮小、統合が進んでいるのだ。

参院本会議で質問する立憲民主党の宮沢由佳氏=昨年3月6日

 国際女性デーの3月8日、参議院予算委員会で宮沢由佳議員(立憲民主)が、このことを数字を示して追及した。都道府県の男女共同参画センターの平均予算額は、2002年に1億6700万円だったが、13年には半分の8800万円になり、さらに20年には7800万円に減少している。

 宮沢議員が「その目的や必要性、意義を訴えてこなかった国に責任がある」と述べると、丸川珠代男女共同参画担当相も、地方自治体の予算が年々減り、施設数も若干減っており「憂慮すべき状況にある」と認めた。

丸川珠代氏。地方議員にあてた選択的夫婦別姓制度導入に反対する文書に名を連ねた

 現在、廃止に直面しているのは、山梨県内の男女共同参画推進センターである。県内にはセンターが3館あるが、うち都留市にある「ぴゅあ富士」と南部町にある「ぴゅあ峡南」を廃止し、甲府市の「ぴゅあ総合」に集約する方向で検討している。老朽化する施設の維持に多額のコストがかかるため、一つにして合理化を図るという。

 これに対して県女性団体協議会など55団体と個人の連名で、「ジェンダー平等の意識改革の身近な『場』(人材を含め)が奪われる」として、集約化を見直すよう県議会に請願した。3月8日の県議会で採択すべきものと決定されたが、先行きは楽観できない。

 施設ではなく組織再編による施策の後退が懸念されるのは神奈川県である。

 4月1日の組織再編で、人権男女共同参画課がなくなる。再編後は、子どもみらい部などと統合され、共生社会推進本部室となる。県は体制強化になると強弁するが、「男女共同参画」の名称は消える。

 3月中旬には女性団体や弁護士、元首長らによる「『人権男女共同参画課』の名称はずしを許さない連絡会」が結成され、19日、組織・機能の維持を求める要望書を黒岩祐治知事に提出した。要望書は「県民の悩みを解決する窓口は分かりやすく、容易に探せるものでなければならない」と部署名を残す意義を強調している。

 同日の県議会では複数の議員から、人権や男女共同参画をめぐる県の施策の弱体化を危惧する声があがった。

 神奈川県はかつて女性行政のトップランナーだった。1975年の国際女性年をきっかけに、いち早く女性行政の専管部署を設けた。女性の地位向上プランを作り、社会参加の活動拠点として、全国に先駆けて82年、藤沢市江の島に県立婦人総合センターを設置した。ユニークな施策を次つぎと展開し、他の自治体のお手本になった。

 しかし2011年、黒岩裕治知事になってから、後退の一途をたどっている。東日本大震災後、老朽化している上に、江の島にも津波が来たらどうするんだという理由で、センターはあっという間に閉鎖され、2015年、藤沢市鵠沼の合同庁舎に移転した。規模は8分の1に縮小し、かつての輝きは失われた。

 ▽センターが支えた男女共同参画への動き

 この2県の廃館と組織改編に共通するのは、県民に計画の内容が知らされず、したがって検討への参加もできない状態で、年度末になって明らかになったことだ。「コロナ下のどさくさ紛れで進めた」と言われても仕方がないようなやり方だ。

 男女共同参画への動きを、今なぜ、後退させるのか。コロナ禍で非正規・不安定雇用の女性たちは貧困に苦しみ、家庭内でのDVや虐待被害の危険も高まっている。深刻な状況にあって、この人たちを支えているのは主にNPOの女性たちだ。

 その多くは、男女共同参画センターが育てたり、センターを足場に活動を広げていったりした人たちである。今は廃止や縮小に向かうときではなく、センターの機能をより強化し、充実させるべきではないのか。

 各地のセンターが長年培い、築いてきた有形無形の財産を破壊しようとする「時代遅れ」の人たちの認識や感覚を変えていくためにも、拠点となるセンターや組織をもり立てていかなければならない。

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