<金口木舌>九回2死から

 甲子園で具志川商は惜しくも8強入りはならなかったが、延長に及ぶ熱戦を演じてくれた。あの一戦で今大会の1回戦からの延長試合は大会史上最多の7に並んだ▼延長に入るかどうか、九回2死の攻防は野球の見どころの一つである。2回戦で東海大菅生は、その2死満塁で代打が試合を決めた。公式戦出場ゼロ。メンバー枠最後の背番号18の大仕事だ。起用されずとも腐らず、努力した結果が結実した

▼こちらも見事な逆転劇は大相撲春場所で優勝した照ノ富士だ。23歳で大関昇進の栄光から、けがと病気で降格し続けた。引退も考えたというから、まさに土俵際まで追い込まれていた

▼膝の手術後は車いすの再起生活から。地道な稽古を重ね、得意の取り口を磨いた。幕内経験者の序二段からの再入幕は史上初めてだった昨年7月場所で優勝。今回、混戦の賜杯レースを勝ち抜き、大関復帰を確実にした

▼「必死に頑張った結果が表れると信じてやってきた」。インタビューは見る者の心を打った。「皆さんの応援のおかげ」と国技館の四方に頭を下げる姿、「相撲は狙い通りにならない」との言葉に人知れぬ苦労がにじんだ

▼スポーツは見る者を感動させるだけでなく、力や勇気を与えてくれる。思うようにならなくても、九回2死まで追い込まれても、それでも前を向き続ける。その尊さを、身をもって示してくれた。

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