なべやかん遺産|「歯」 芸人にして、日本屈指のコレクターでもある、なべやかん。 そのマニアックなコレクションを紹介する月刊『Hanada』の好評連載「なべやかん遺産」がますますパワーアップして「Hanadaプラス」にお引越し! 今回は「歯」!

コレクターの師との出会い

コレクターになってから約40年になる。約40年の間、ただただ一人で歩んできたわけではなく、道のりの中で様々な刺激的な出会いがあり、他人のコレクションを見る事で自分のコレクションの深みが加わったり収集の幅も広がっていった。

コレクター世界に飛び込んだ時、正直言って右も左もわからなかった。ただただ怪獣が好きって事くらいで、コレクターアイテムに関しては無知に等しい状態。

というのも、自分が夢中になった世界は自分が生まれる前の作品だったので、全ての知識を当時経験した人に聞くしかなかったのだ。

怪獣図鑑、怪獣ソフビ、様々な事を大人に教わった。当時自分は小学生だったので、大学生や社会人の怪獣マニア&コレクターとお付き合いをし、様々な事を学習した。そんな趣味生活を送っている時に、師となる人に出会う。スターウォーズでいうところのマスターってやつ。

自分がルーク・スカイウォーカーだとしたらオビ=ワン・ケノービにあたる人だ。

いや、これだとルークの方が優れている部分もあるので、自分がオビ=ワンで師がヨーダだ。でも、背丈的には、僕がヨーダか?

まぁそんな事はどうでもいい。とにかく凄い師という事だ。

自分が特殊メイクされた時の上歯の入れ歯。

プラチナ特上Aランクのお宝が!

最初に出会ったのは特撮大会というイベントだった。特撮大会少し前に電話でお話していたが、会うのはこの時が初めて。この人は西村祐次さん(15歳年上)という人で福島県郡山市に住んでいた。

当時、怪獣ソフビコレクター日本一の倉治さん(歯科医)と一緒に郡山の西村さん宅に泊りに行った。関東に住んでいる色んなコレクター宅に行ったりしていたが遠出は初めて。開業したての東北新幹線に乗って郡山に向かった。

郡山に向かいながら「怪獣ソフビは倉治さん宅でいっぱい見ているし、他のコレクター宅ではウルトラQなどの台本やソノシートを見ているし、近所のコレクター宅では怪獣図鑑とかも見ているからな…」と期待感はそれほどなかったので、テンションはさほど高くなかったと思う。

ところがだ、西村さん宅に行くと驚きの連続。今まで見て来た物以上のハイレベルの物や物量に驚かされた。今まで見て来たコレクターのコレクションを全部足してもかなわない物量。

Aランク、特上Aランク、プラチナ特上Aランクのお宝ばかり。しかもそれらが複数ダブっていたりするのだがら驚きもMax!

この日から西村さんが自分の師となった。あれから今年で39年。自分のコレクションは5部屋をギッチリ埋める物量になり我ながら大変な事になったと思っているが、西村さんは自分の300倍くらいの物量なので、約40年経っても師との距離は離れる一方だ。

3.11後、震災のダメージが凄まじかった東北地方。西村さんも少し弱きになり「物量を少し減らし身軽になりたい」と言って、我が家に怪獣ソフビを大量に送ってくれた。

その数、440個!物凄い数を送られて来たので、我がコレクタールームはパンパン。師の部屋には少し空間が出来たようだ。ところがそのすぐあと、師はコンテナ一杯分のコレクションを入手した。

「物量を少し減らし身軽になりたい」という言葉は何だったのだろう?師と自分のコレクション量の差はまた大きくひらきコレクターという病の恐ろしさをまた教わった。

『エクソシスト』のリーガン蝋人形の頭。ハイレベルの造形物。
リーガン等身大写真。写真にリンダ・ブレアさんのサインを頂いた。

師に背中を押されて

コレクションに関し、師とは昔から共通点が多かった。だが若干違うところもあり、それがハリウッド映画やホラー物に関する分野だ。

自分は特殊メイクアーティストが好きなので、ホラー関連の撮影用プロップを集めていた。

ある時、師がハリウッドに行き『エクソシスト』のリーガン蝋人形を手に入れて帰国した。

「エクソシストは君だろ」と言われ、我が家にリーガンがやって来た。その時から、自分はエクソシスト担当になったようだ。

数年後、師のお宅にお邪魔している時に「eBayにエクソシストが出ているぞ」と言われパソコンを見てみると、撮影当時に特殊メイク用でリーガン役のリンダ・ブレアさんから取った歯型が出品されていた。

「エクソシストコレクター日本一を目指すなら買うしかないだろ」

師はこちらを諭すように言ったが、ことらとしては「エクソシストコレクター日本一になりたい」と言った事は一度もない。

躊躇していると「あの蝋人形があるのだから、この歯があればコレクションの説得力と濃度が増すぞ」と強く押され、落札ボタンをクリックする事になった。

師の言う通り、二度と手に入らない貴重なコレクションが我が家に来た。そして、その日から師の中では「やかんは歯のコレクター」という考えになったようだ。

「買うしかないだろう」と言われて買った歯型と舌型。台座に本人のサインを頂いた。
リンダ・ブレアさんの歯型。特殊メイク界の超お宝。
当時作られた入れ歯の残骸。
モンスターの入れ歯。

歯が集まるのはリーガンの呪い?

特殊造形の会社が工房を閉鎖する事になり、師と二人して色んな物を貰いに行った時もそうだった。

「これは君のだろう」と振り分けられたのは、全て歯型と入れ歯だった。個人的に別の所から手に入れた歯型コレクションもあったが、別に自分は他人の歯が好きなわけではない。

だが現在は、歯医者さんより我がコレクタールームには歯型がある。今回、数々の歯型の写真をアップしているが、これらはほんの一部で、写真の何倍もの数が部屋にはある。

歯型の山を見ながら「これはリーガンの呪いだ」と一人呟く。呟いたその夜、eBayを見ていたらスパイダーマンの敵であるヴェノムの歯型が出品されていたのでついついクリックしてしまった。

このような感じで、なぜか我がコレクションに歯が集まっている。これはやっぱりリーガンの呪いに間違いない。一度きっちりとした悪魔祓いをしないと我が家は歯だらけになってしまうな。

今度神父さんをコレクションルームに呼んで、部屋中に聖水を巻いてもらおうと思っている。

『スパイダーマン3』(2007)に登場したヴェノムの歯型。
リーガンの呪いで集まって来た歯型たち。この何倍もの数を所有している。

なべやかん

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