不動産投資ローン、返せなくなったらどうなる?家族に迷惑をかけないための対処法

投資の一つとしての不動産投資が話題に上るようにしなりました。不動産投資では専用のローンを借りる場合が多いのですが、もし返せなくなってしまったらどうなるのでしょうか。また、もし本人が亡くなってしまった場合はどうなるのでしょうか。

私は銀行の現場で、実際にローン返済に苦しむ人も見てきました。銀行員として直接対応をしてきた立場から対応策を語っていきます。


不動産投資ローンが返せなくなる二つのケース

家賃が思うように入らず、収支に行き詰まり返済ができなくなった場合と、借りている本人が死亡した場合、2つのケースで説明します。

まず、不動産投資ローンと住宅ローンの違いを説明します。というのも、不動産投資ローンは投資であり、かつ事業でもあるからです。

アパートを数棟持つ富裕層も、マンション1室から始めるサラリーマン不動産投資家の人も、皆さん不動産賃貸業として事業の確定申告が必要になります。同じ投資でも証券投資やFXなどと決定的に違うのがこの点です。不動産投資は事業であること重要です。

住宅ローンは自宅を手に入れるためのローンであり、他のローンとは一線を画し税制面なども優遇されています。また返済が困難になっても、銀行など金融機関はリスケに柔軟対応をしてくれるなど、住宅ローンは特別扱いの一面があります。

しかし、不動産投資ローンは事業であると銀行も認識しています。したがって、返せなくなることは事業に失敗したと見なされ、住宅ローンのように優遇はしてもらえないのです。

返せなくなったらどうなる?~1.延滞、差し押さえ、そして競売

ローンの返済が滞れば延滞となります。延滞が重なり長期化すれば、担保にしていた不動産が差し押さえとなり、そして競売に進みます。
不動産投資ではこれら、すべて現実に起こる事柄です。投資の一手段としての不動産投資ですが、他の投資(株式、投資)のように損したら解約すれば終わり、とはなりません。

もし自己資金があるなら、返してしまえば終わりです。返済の手続きや担保の解除など、多少の手間は残りますが、それでも問題は完結します。複数物件で不動産投資をしている人は、セーフティーネットとしてこういった事態に対応できるキャッシュを持っている場合も多く、まさに投資と言える側面です。

可能なら借り換えも

延滞などの履歴も少なく傷が浅いなら、他の銀行での借換えも選択肢になります。この場合、借換を実現させるには延滞などブラックな情報がないことが必須になりますので、毎月返済が遅れないよう注意が必要です。

今手元にお金はない、でも物件は手放したくない、それにいつか盛り返せるアテもあるならリスケでしのぐことも選択肢の1つです。

リスケとは、毎回返済額を一定期間(半年から1年程度)減額して返済を続けていく方法です。ただし、好転する見通しがないのにリスケに逃げてしまうと、結局物件を手放す好機を逃すことにもなりかねませんので、見極めは重要になります。

お金もなく、リスケして好転するアテもないなら任意売却を急ぐべきでしょう。一つは時間経過の問題で、経年劣化で物件の価値は下がる一方だからです。また、返済が遅れ延滞になると任意売買ではなく強制的な競売になってしまいますので注意が必要です。

借りている人が死亡したら?

団体信用生命保険に入っているかどうかが分かれ目になります。これはローンを借りている人が加入し、毎月の利息に含む形で保険料を支払っていき、本人が死亡したときは保険金でローンの残額が完済される形式の保険です。

ローン残高が保障対象なので、原則的に「死んだら借金がチャラになるだけ」です。生命保険が余って遺族が受け取ることはなく、逆に保険金が足りずに遺族が支払うこともありません。

不動産投資ローンは事業、住宅ローンとは違うと説明しましたが、団体信用生命保険に加入できる点は大きな特徴です。では、不動産投資ローンに団体信用生命保険は必要なのでしょうか。

銀行員としては「加入するべき」

原則として加入は任意、本人の自由意志で選択できます。しかし、銀行員の立場からは、不動産投資ローンに団体信用生命保険は必要、加入できるなら加入するべきだと思います。

ローンで団体信用生命保険に加入すると、毎月支払う利息が0.2%程度上乗せされます。たとえば団体信用生命保険非加入の金利が1%なら、加入した場合は1.2%と毎月0.2%×借入残高を保険料として支払っていくイメージです。当然、非加入の場合より支払利息が多くなりますので、経費として損得に影響してきます。

事業資金融資では団体信用生命保険に加入することはできません。経営者が死亡すれば、預金や加入済みの生命保険で遺族が整理するのが一般的です。しかし、不動産投資ローンでは団体信用生命保険に加入できるので、死亡保険金でローンの完済も可能、つまり死んでも遺族に借金は残さずに済むのです。

家族のためにぜひ検討を

相続対策としてなら、あえて借金を残すため団体信用生命保険には加入せず、また加入には年齢制限もあるので加入ができないこともあります。

逆に現役世代で、純粋に投資として考える人では団体信用生命保険加入を選択し、金利や収支は団体信用生命保険加入でメリットがあるか検討する場合が多いようです。

団体信用生命保険に加入している場合

借りていた人が死亡したら、配偶者が銀行に行き手続きを依頼するのが一般的です。団体信用生命保険は保険証券など発行されないので、銀行に手続きを任せるだけです。

ただし、手続きまであまり時間がかかってしまうと、保険でカバーされる残金にも限度が有り、場合によっては利息などが持ち出しとなる可能性はあります。

団体信用生命保険に加入していることを、残される人にもしっかり伝えておくことが大事です。たとえば加入時の告知書控え(通常はローン申込時にもらえる)や銀行からの保険に関する定期的なお知らせ文書などは大事にとっておくと良いでしょう。

もし保険に加入していなかったら?

団体信用生命保険に加入しなかった場合、以前に契約した一般の生命保険に質権を設定する(生命保険を担保に押さえること)場合があります。この場合には、死亡保険金の手続きをするにも銀行に知らさなくてはならず、優先的にローン返済へと回されてしまいます。

まとまった金額の生命保険に加入していなければ、死んでもお金は入ってこないので残された人は大変になります。もっとも不動産経営がうまくいっているなら、プラスとマイナス両方を相続しても良いと思います。

絶対に儲かる不動産投資はない

大事なことは不動産投資という投資を自ら選び、始めたということです。昨今の不動産投資関連融資の偽装、銀行の不正融資などでクローズアップされた「投資と自己責任」ですが、いざ返せなくなったときは、やはり自己責任だと思います。

あなたが選んだ道が正解か?それとも不正解かは誰にもわかりませんが、最後の幕は自分で引くべきでしょう。

不動産投資の不祥事を伝える記事などでは、口コミで「絶対に儲かるなら不動産の営業マンが自分で投資して人に教えるはずがない、だからだまされるな」といった論調があります。全面的ではありませんが、私は銀行員としてある程度その通りと感じています。

十分な知識と経験、判断力が必要

不動産投資ローンには知識と経験、そして冷静な判断が必要です。もちろん最初はだれもが初心者ですが、それでも冷静な判断ができないなら危険です。
ローンに関する銀行員の不祥事が多いのも、そこにお金と儲けが絡むからでしょう。不動産投資ローンを扱う銀行員としてはふさわしくない発言かもしれませんが、本心を打ち明けます。

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