【愛知&名古屋で話題】政治家への解職請求「リコール」の事例は過去他の自治体でもあった?!

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リコールのイメージ画像(photo by 写真AC, bBear)

先日、愛知県知事へのリコール運動が行われ、署名が集められましたが、署名運動参加者から不正をしているのではないかとの告発の声が上がりました。これを受け、選挙管理委員会は調査を行い、提出された約43万5千人分の署名のうち、約36万2千人分もの署名が無効と判定されました。その後、リコール署名をアルバイトに発注して偽造していたなどの疑惑が生じ、捜査が行われています。このように、30万人分以上の多数の署名が無効と判定され、組織的な偽造の疑惑が生じたのは前代未聞の事態です。しかし、規模は小さいものの、過去にリコールの署名偽造が問題化した事例は存在します。

そもそも「リコール」とは何か

リコールは地方自治法に規定されている直接請求の一種です。直接請求とはその地方自治体の有権者が署名を集め、一定数を集めれば条例の制定や改廃の請求、首長や議員の解職、議会の解散請求ができる制度です。このうち、解職や議会解散を求めることができる制度のことをリコールと呼びます。
前述したようにリコールのためには一定数の署名を集める必要があります。この署名数は一般的にはその自治体の有権者数の1/3以上とされていますが、有権者が40万人を超える場合は「40万を超える数の1/6と40万の1/3を合計した以上」、有権者が80万人を超える場合は「80万を超える数の1/8と40万の1/6と40万の1/3を合計した数以上」と規定されています(地方自治法第81条)。

この署名は自分の氏名、生年月日、住所を記載し、押印(拇印でも可)する必要があります。また、生年月日や住所は代筆してもらうことが可能ですが、氏名は自筆で記載する必要があります(ただし、障害などの理由で字が書けない場合は代筆者の氏名や住所を記載することで代筆が認められます)。
また、ルールも厳密で誰でも署名集めができるわけではありません。署名集めができるのは選挙管理委員会に届け出た代表者か、代表者が任命した受任者だけです。代表者、受任者ともにリコールを行おうとしている自治体の有権者である必要があります。また、受任者は自分の住む市区町村の有権者の署名しか集めることはできません。例えば、愛知県のリコールで岡崎市の有権者が受任者になった場合、岡崎市の有権者の署名しか集めることはできないのです。

そして、署名が集められ、選挙管理委員会に提出されると、その署名は審査されます。ここではきちんと正しい署名がされているかということや署名者がその自治体の有権者であること、署名が重複していないかなどが審査され、署名が有効か無効か判定されます。審査が終わると署名簿はしばらくの間、公開されます。これは審査が正しく行われているかという点の他、例えば、署名した覚えがないのに署名簿に自分の名前が掲載されているような場合に訴えることができるようにするためです。ただ、これは署名の情報を公衆に知らせることになるため、署名をしたことが分かり不利益を被る危険性も秘めています。事実、このような理由で公開される前に署名を取り下げた人が多数出たという事例も存在します。
このように長い道のりを経て、リコールの有効署名が法に定められた一定数以上あれば住民投票となります。そして、有効投票の過半数が賛成した場合、首長や議員の解職、議会の解散が行われます。

署名が偽造され、事件化した事例

このようにリコールは署名を集めることで首長や議員の解職、議会の解散ができる住民投票を起こすことができる制度です。重要な制度であるだけにこの署名は厳密なルールがあることは前述しましたが、署名の不正をした場合のペナルティも大きいものになっています。署名の偽造や署名数の増減をした場合、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処されるのです。
リコール署名の偽造については、同一筆跡が疑われたり、自分が署名をしていないのに署名簿に掲載されていたりしたという申し出があったりすることによって問題化します。例えば、現在騒動となっている愛知県では、2010年の名古屋市議会の解散を求めるリコールの際に自分は署名をしていないのに署名簿に載っていたという人が900人以上現れたり、同一筆跡があったりということで問題化したことがあります。

また、他の地域では地方議員が主体的に偽造にかかわったことが発覚し、刑事罰を受けた事例も存在します。群馬県の大間々町(現・みどり市)では2004年から2005年の間に他自治体との合併をめぐって2回も町長のリコール運動がありました。いずれも審査の結果、有効な署名が有権者の1/3に届かず、無効とされた中に同一筆跡が疑われる署名が存在しました。そして、町議会議員2人が1回目のリコール運動の際に集めた署名をもとに2回目の運動の際に署名を偽造した容疑で書類送検されました。書類送検された議員たちは電話で確認を得て転記したと主張しましたが、1人には30万円、もう1人には50万円の罰金が科されています。
また、1986年に神奈川県の逗子市であった市長のリコール署名の際にも市議会議員が4人の署名を偽造したとして3万円の罰金を科されています。

1965年に起きた、提出署名の8割弱が無効となったリコール偽造事件

前述したように、今回の愛知県知事へのリコール署名は8割以上の約36万人分が無効となり、リコール署名の偽造といった不正の疑惑が生じています。過去のリコールにおいて、36万人分というような大量の無効が出たことはないものの、署名の約8割が無効になったという事例は存在します。
その事例は1965年に埼玉県の本庄市で起きた市長のリコールでした。当時の本庄市は早稲田大学を誘致しようとしていましたが、様々な事情で難航しており、これをめぐってリコール運動が起きたのです。このリコール運動は途中に市側が運動側と話し合いを持ち、妥協点が見つかったため、署名簿の提出は見送られると見られていましたが、最終的に運動側は11,231人分の署名を提出しました。当時のリコール署名の基準となる本庄市の有権者数は27,258人であったため、リコール成立には9,086人以上の署名が必要でした。

署名簿の提出を受け、選挙管理委員会は審査を行いました。そして、審査結果は無効署名が8,738人分もあるという驚くべきものであったのです。無効の内訳を見てみると、選挙人名簿に記載されていないもの(有権者ではない人の署名)が1,200以上あったり、重複が1,000以上あったりしましたが、最も多いものは自署と認められないもので、その数は何と6,000弱にも上りました。このため、警察は署名の偽造の疑いで選挙管理委員会から署名簿や審査記録などを押収し、さらにリコール運動の代表の事務所も家宅捜索をしました。
捜査の結果、リコール運動の代表などの複数人がリコール署名の偽造容疑で逮捕されました。その手口とは当時は第三者が見ることができた他人の住民票から氏名、住所、生年月日といった署名に必要な情報を手に入れ、これをもとに複数人が鉛筆やボールペン、万年筆などを使い分けて、大規模な署名の偽造を行っていたのです。
なお、この騒動の発端となった本庄市の早稲田大学の誘致ですが、市は最終的に早稲田大学やその付属校の誘致には成功しており、現在も市には大学キャンパスや付属高校が存在しています。