羽生結弦の「点数低すぎ」問題 フィギュア界の “生き字引” が指摘するジャッジの潮流

世界選手権のSPで華麗に舞った羽生だが…(ロイター)

フィギュアスケート男子の五輪2連覇・羽生結弦(26=ANA)への採点を巡り、国内外の関係者から懐疑論が噴出している。もともとファンの間で「羽生に対する採点は辛い」が定説だったが、先日の世界選手権(ストックホルム)のショートプログラム(SP)での低得点で一気にヒートアップ。穏やかではない状況の中、フィギュア界の〝生き字引〟に見解を聞いた。

羽生は30日に羽田空港に帰国した。入国前の抗原検査で陰性となり、マスク姿で到着ゲートに現れると「ありがとうございました。お疲れさまです、(新型コロナウイルス対策で)隔離されます。ありがとうございます」とコメントした。日本スケート連盟によると、空港から専用車両で隔離のためのホテルに向かったという。

今回の世界選手権では、フリーでミスが続いた羽生はライバルのネーサン・チェン(21=米国)に3連覇を許して銅メダル。演技後にぜんそくの発作が出るなど体調が万全ではなく、ジャンプミスは明らかに自身に原因があったが、問題はSPだ。4回転サルコー、4回転―3回転の連続トーループ、トリプルアクセル(3回転半ジャンプ)とジャンプを全て完璧に揃えて首位に立ったものの、スコアは106・98点。ステップでレベルの取りこぼしもあり、関係者からは「110点くらいあってもいい」との声が上がっていた。

この件をフィギュア史を知り尽くす元国際審判員の杉田秀男氏(86)に聞くと「正直、GOE(出来映え点)を見て『何で?』って思いましたね。前半に滑っていた選手と同じような評価じゃなかった。もうちょっとしっかり見てよって感じました」と話した。

その指摘通り、冒頭の4回転サルコーはGOEがたった2・22点。2人のジャッジが「0点」をつけた衝撃的な事実はSNSで拡散された。また、演技構成点47・96点は、転倒したチェンとわずか1・53点差。いったい、なぜこんなことが起きたのか?

ある現役審判は「羽生選手の(演技に求められる)ハードルが上がり切ったため」と主張するが、杉田氏は「今回は日本人ジャッジがいなかったのも影響しているのでは? それと最近はジャッジングがすごく細かくなり、いいところを見るというより、ミスのあら探しのようになっている」とみる。その上で「羽生選手は一つの流れの中でジャンプを跳ぶ。その技術をもう少し評価してあげてもいい。ただ、彼は不満があっても絶対に口にしないでしょう。そこが素晴らしい」と語った。

大会後の羽生は吹っ切れたように、人類初のクワッドアクセル(4回転半ジャンプ)成功へのこだわりをみせ「(最終目標は)五輪の金メダルより4回転半」とさえ言った。他人からの評価に限界を感じて自力で達成できる「夢」にかじを切ったとすれば、その〝無言のメッセージ〟をフィギュア界はどう受け止めるのか? 今後も大きな議論を呼びそうだ。

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