「長崎らしさ追求した16年」県美術館学芸専門監 野中さん 4月から広島市現代美術館副館長

「とても気に入っている」と県美術館への思いを語る野中さん=長崎市、県美術館

 2005年開館した県美術館(長崎市出島町)の設計に携わって以来、同館に勤めてきた学芸専門監の野中明さん(51)が今月末で退職。4月から広島市現代美術館の副館長に就任する。これまでを振り返り、県美術館や長崎への思いなどを聞いた。

 -同館での16年間を振り返って。
 長崎の美術館なので、地元に関わりがあるものを固めなければ意味がない。まずは郷土の作家を見直す作業が基本だったが、一方で、長崎の美術はただ単に出身者だけで語れるのかという思いがあった。長崎の土地が持つ歴史や機能に沿った活動をすることも長崎らしさと考え、研究を進め、展覧会を企画してきた。
 菊畑茂久馬(画家)や舟越保武(彫刻家)ら戦後の美術界である程度メジャーで、実は長崎とゆかりがあって、それがあまり知られていない、収蔵品も少ない作家や作品を扱ってきた。かつて国際貿易の拠点だった港の機能と、原爆の記憶の二つをテーマにした事業にもっと取り組む必要があると考えていたが、道半ば。後輩に託したい。

 -思い出の展覧会は。
 菊畑茂久馬の展覧会を2回手掛けたこと。同じ福岡県出身で、県美術館で働く前からの憧れの作家だったので感慨深い。新宮晋さん(美術家)の作品展示や青木野枝さん(彫刻家)の展覧会もうまくいったと感じている。

 -意識してきたものは。
 学芸員として作家のキャリアに積極的に作用できることは光栄だが、怖いことでもある。もし作品の見せ方がうまくなかったら、作家のキャリアに傷を付けてしまい、マイナスの印象を与えてしまう。展示に一切妥協しないことが大切。日々つらさと闘っている。

 -県美術館をどのように見ているか。
 建物、展示室、ロケーションをとても気に入っている。展覧会をしやすい空間だ。だからこそ、建物や空間に合うような活動をしなければならないと思い、頑張ってきた。スタッフや学芸員の想像力が美術館の限界を形づくると思っている。さらに来館者に喜んでもらえるような美術館になってほしい。

 -長崎の街の印象は。
 島や文化、多様性があり、自然や歴史に恵まれた県は他にない。歴史、文化を反映させたコンセプトの街づくりを進めてほしいと願っている。

 -広島市現代美術館でやりたいことは。
 まだはっきりとしたものはないが、長崎と広島は原爆の記憶というところで共有できる。広島市現代美術館は積極的に原爆関係の作品を扱っているので、県美術館とも一緒に何かできればいいと考えている。(聞き手は小槻憲吾)

 【略歴】のなか・あきら 1969年福岡市生まれ、九州大文学部卒。米子市美術館勤務を経て、2001年長崎県に入庁。美術館建設業務に携わったのち、05年から学芸員。17年から現職。18年5月から21年3月まで長崎新聞のコーナー「芸術ウエーブ」を執筆した。

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