ボリソフ彗星は太陽以外の恒星に接近したことがなかった?

ヨーロッパ南天天文台「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「FORS2」によって観測された「ボリソフ彗星」。時速約17万5000kmで移動するボリソフ彗星を追跡しつつ複数のフィルターを切り替えながら観測したため、背景の星々はカラフルな点線として写っている(Credit: ESO/O. Hainaut)

2019年8月にアマチュア天文家のGennady Borisov氏が発見した「ボリソフ彗星(2I/Borisov)」は、観測史上2例目の恒星間天体であるとともに初の恒星間彗星でもあります。アーマー天文台のStefano Bagnulo氏らの研究グループは、ボリソフ彗星がこれまで恒星に接近したことがない手つかずの彗星だった可能性が高いとする研究成果を発表しました。

■2019年に太陽へ接近するまで恒星に近づいたことがなかった可能性

氷と塵でできている彗星の核(彗星核)が太陽に近づくと氷が昇華してガスや塵が放出され、核の周辺にコマや特徴的な尾を形成します。核から放出されたガスなどを観測することで、彗星を構成する物質を調べることが可能です。

2017年に発見された観測史上初の恒星間天体「オウムアムア(’Oumuamua)」では彗星のような活動が観測されませんでしたが、ボリソフ彗星は早い段階で尾が見え始めており、太陽系外で形成された天体を構成する物質についての知識が得られることが期待されていました。

Bagnulo氏らはヨーロッパ南天天文台(ESO)のパラナル天文台にある「超大型望遠鏡(VLT)」の観測装置「FORS2」を使ってボリソフ彗星の偏光(※)観測を行い、太陽系の彗星から得られた偏光観測のデータと比較しました。その結果、ボリソフ彗星の偏光特性は太陽系の大半の彗星とは異なることが判明したとされています。

唯一の例外とされているのは、1997年4月に太陽へ最接近した「ヘール・ボップ彗星」でした。研究グループによると、過去に1回だけ太陽に接近したことがある(紀元前2250年頃)とみられているヘール・ボップ彗星は太陽放射や太陽風の影響をあまり受けておらず、初期の太陽系で形成された当初に近い、ほとんど手つかずの組成を持つ彗星だと考えられています。

研究グループは、ボリソフ彗星はヘール・ボップ彗星よりもさらに原始的だと結論付けており、真に手つかずの彗星が初めて観測された可能性にも言及しています。また、ボリソフ彗星とヘール・ボップ彗星がとても似ていることから、ボリソフ彗星は初期の太陽系と比べてそれほど組成が違わない環境で形成されたことが考えられるといいます。

Bagnulo氏は欧州宇宙機関(ESA)が2029年の打ち上げを目指す待ち伏せ型の彗星探査機「Comet Interceptor(コメット・インターセプター)」に言及し、恒星間彗星を詳細に研究する機会が訪れることに期待を寄せています。

※…波としての性質を持つ光(電磁波)は進行方向に対して垂直に振動しています。太陽光など自然光の振動はランダムですが、この振動が偏った状態になることがあり、そのような光は「偏光」と呼ばれます。身近なところでは反射光を軽減する「偏光サングラス」などで偏光の性質が利用されています。

ボリソフ彗星を描いた想像図(Credit: ESO/M. Kormesser)

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Image Credit: ESO/O. Hainaut
Source: ESO
文/松村武宏

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