【センバツ】プロ注目右腕・達が1球も投げずに終戦…背景に「2年前の約束」があった

整列する天理ナイン。中央がエースの達

エースが1球も投げずに負けた。第93回選抜高校野球大会(甲子園)準決勝は、身長193センチのプロ注目右腕・達孝太投手(3年)を擁する天理(奈良)が、3度目の春制覇を狙う東海大相模(神奈川)に0―2で惜敗した。今大会3試合で459球を投げてきた達は左脇腹痛のため登板を回避。未来ある17歳の意思と監督の判断だった。

注目された天理の先発マウンドには背番号の仲川(3年)が上がった。打線の援護なく敗れはしたが、8回1失点(自責0)の好投。達の陰に隠れてきた左腕が大舞台で強豪相手に得た経験は夏制覇を狙う名門の布石となるはずだ。

一塁側アルプス席に向かって一礼した達はある人物に視線を向けて爽やかに笑っていた。

「この応援団の拍手とあの達の笑顔。この試合の〝答え〟じゃないですか」。そんな感想を語ったのは、かつて達が所属した「泉州阪堺ボーイズ」で30年以上に渡って監督を務め、代表なども歴任した宇都宮福一さん(73)。今でも達が節目に電話をかける〝後見人〟のような存在だ。

宇都宮さんは「本音を言うと投げんで良かったなと思います。〝親心〟言うかね。こないだの仙台育英戦で状態が良くなかったですから」と打ち明けると、こう続けた。「達が天理に入る前、中村監督があいさつに来られた時に言うたんです。メジャーに行ける投手にしてやってくださいって」。2年前に交わされた〝約束〟だ。「中村監督はいろいろ考えてはるし、今日の試合内容を見ても夏につながる。みんなにとって良かったんちゃいますか。プロスカウトの方もホッとされてるかもしれませんね」(宇都宮さん)。

達は試合後「この試合だけを考えれば投げられる状態でしたが、1日でも長く野球をやりたいし、自分にはメジャーリーガーという目標があるので無理をしても意味がない。監督と相談して決めました」と、登板回避の理由を自ら説明。中村監督も「ヒジ、肩は問題なかったが、脇腹のことで止めた。脇腹は怖いので。これでよかったと思います」と決断理由を明かした。まだ線も細く、成長過程の右腕を預かる中村監督には託された側の使命感があったはずだ。

投げずに終戦の舞台裏には、未来につながるドラマがあった。

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