【同志社大】人工ヘモグロビンによる一酸化炭素中毒メカニズムの解明と後遺症の低減をめざした新たな治療へ

2021年3月29日
学校法人同志社 同志社大学

同志社大学理工学部 北岸教授研究グループ
人工ヘモグロビンによる一酸化炭素中毒メカニズムの解明と後遺症の低減をめざした新たな治療へ

本研究成果のポイント

1) 呼吸により吸入した一酸化炭素(CO)が,血液中だけでなく体内のどの組織にどの程度の速さで拡散し,蓄積するのかについて,人工ヘモグロビンを用いた動物実験で明らかにした。
2) CO中毒のモデル動物に人工ヘモグロビン溶液を注射することで,血液や脳内に蓄積したCOガスを効果的に低減することに成功した。
3) これらの成果により,既存の酸素換気に加えて人工ヘモグロビンを投与する新たなCO中毒の治療法の可能性を提示した。

概要

一酸化炭素(CO)は,不完全燃焼により発生する無色無臭の有毒ガスです。CO中毒は,火災における主な死亡原因のひとつであり,日常生活においても,暖房やガス/電化製品の誤った使用によって発生するため,年間を通じて多数の事故が発生しています(※脚注1)。また即死に至らない程度のCO中毒であっても,長期間にわたって脳機能に障害が残る例が報告されています。そのようなCO中毒およびその後遺症の発症防止に対して,抜本的な治療方法は確立されていません。

今回,同志社大学理工学部の北岸宏亮教授は,東海大学医学部およびフランス国立保健医学研究所(INSERM)と国際共同研究チームを形成し,同志社大学において開発された人工ヘモグロビン化合物『hemoCD』を用いることで,外部から吸引したCOガスが体内組織にどの程度浸潤し蓄積するのかについて,正確に計測することに成功しました。hemoCDは,天然ヘモグロビンの約100倍のCO捕捉能を示し,水中や生体内で選択的にCOを捕捉します。さらにCOの捕捉によって光の吸収帯に変化を示すため,生体試料に含まれるCOの高感度検出試薬として優れています。本研究により,吸引したCOガスが動物(ラット)の脳組織をはじめとする各組織にすみやかに浸潤し,さらにCO吸引後に100%の酸素ガスで換気しても,脳内COの完全な除去が困難であることが示されました。

さらに研究チームは,CO中毒状態の動物に対し,従来の酸素換気と同時にhemoCDの水溶液を静脈注射することで,血液および脳内に蓄積されたCOが効果的に低減することを示し,酸素換気単独による治療法よりも効果が高いことを示しました。hemoCDは,ヘモグロビンのヘム鉄と似た化合物(Feポルフィリン)が環状オリゴ糖であるシクロデキストリンで覆われた分子構造となっており,生体毒性を示さず,投与後数時間以内に尿中へと排泄されます。酸素換気にhemoCDの投与を組み合わせることにより,COガスの急性中毒および後遺症の発症リスクの低減に対して,安全かつ効果的な治療方法になる可能性が示されました。

本研究成果は,英国Nature系のオープンアクセス誌であるCommunications Biologyに2021年3月3月29日19時(日本時間)にオンライン掲載されました。

(※脚注1)CO中毒の国内年間患者数は約58,000人になると予測され,そのうち33%に後遺障害としての認知機能障害が残るとすれば,これによる逸失利益は約1兆2,400億円となる。参考文献:一酸化炭素中毒による社会医学的な課題―社会的損失の推計から―. 日職災医誌,60:18-22,2012