いよいよ開幕。4度目王座&連覇を狙う山本尚貴「ギリギリ戦えるスタートに立った」不振から復調の兆し

 いよいよ今週末、富士スピードウェイから始まるスーパーフォーミュラ2021年シーズン。いくつも見どころがある今季のスーパーフォーミュラのなかで、最大の焦点に挙げられるのが今年、チームを移籍した昨年チャンピオン山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)の連覇の可能性だ。国内トップフォーミュラで今年、4度目のタイトル獲得に挑む山本。しかし、オフのテストではまさかの大不振で山本は悩める日々を過ごすことになってしまった。鈴鹿と富士、山本の2回のテストを振り返り、今季の戦いのポイントを探った。

「クルマの動きが狙った動きをしていないので、きちんと走れていない。その原因がわからないので今はそれに悩んでいます」
 
 今年最初に行われた3月11日からの鈴鹿公式テストは、山本とチームにとっては想定外の出だしとなってしまった。

「僕もここ10年くらい経験したことがないようなことで、同じコーナーが常にアンダーの状況なら対処の仕方もわかるのですけど、走る度に良く曲がったり曲がらなかったりする。その原因が何なのかは。今のところ分からないです」

 昨年末のルーキーテストでナカジマレーシングのマシンに乗った山本。その時は「非常にいい感覚があった」という手応えから一転、オフの間に加えた改善の評価をこのテストで行うどころか、トラブルに近い、苦しい状況になってしまった。
 
 もちろんテストでは燃料搭載量やメニューが異なることから一概に順位だけでは判断できないが、山本尚貴のこの鈴鹿テストでの4日間の総合順位は1分37秒865の14番手。チームメイトの2年目大湯都史樹が1分37秒032をマークして7番手であることを考慮しても、鈴鹿マイスターとして得意のサーキットで山本の不調は明かだった。

 そして、鈴鹿から約2週間後に行われた富士スピードウェイでの第2回合同テストの初日でも、山本の表情は冴えなかった。

「いろいろと(鈴鹿からデータを)振り返って、変えられるところを変えてもらい、潰せるところは潰してきてもらいましたが本調子ではないですね。パフォーマンスを出し切れていない。自分でも納得がいってない部分が多いです。チームメイトの大湯(都史樹)選手があれだけ速いところを見ると、チームの状況が決して悪いわけではないので、やり場のない思いはあるし、情けないです」

 富士テストの山本の初日総合順位は8番手と悪くはなかったが、大湯がトップタイムをマーク。リザルト上では大湯がコンマ9秒、山本より速いタイムをマークしていた。

「基本的に抱えている問題や直っていないところ、起きている症状は変わっていません。単純に順番や見栄えが鈴鹿の時より少し良さそうなのは、鈴鹿より富士に合わせ込んでいるチームが若干少ないのか、たまたま僕が前にいるだけなのかなと思います。大湯選手との差は基本的に鈴鹿からずっと変わっていないと思っているので、ちょっと現状は良くないですね」

 この富士テストは、開幕戦と同じ舞台でもあり、開幕戦最後のテストでもあった。レース本番に向けて予選や決勝に向けたさまざまなシミュレーションをメニューに加えていたが、山本とマシンの不調が改善されず、メニューは見直されることになってしまった。

「この富士でもロングランとショートランを見てみたかったですが、残念ながらプランどおりにはまったく進んでいなくて『まいったな』というのが本音です。今はクルマのレベルを上げていくというよりは、本来のパフォーマンスを引き出すための時間の使い方になってしまっています。それは本来使いたい時間の使い方ではないですが、こういうこともあります」

 ナカジマレーシングも不調の山本車の原因を探るべく、変えられるパーツは新調し、山本の希望のパーツを揃え、鈴鹿に続いてこの富士でも日付が変わる頃までメンテナンスを続けていた。そしえt、そのチームの努力と山本の苦労が実ったか、富士の2日目では明るい兆しが見えてきた。

山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)

## ■新しいセットアップの可能性とコンディションによる勢力変化の大きさ

 2日目午後、開幕前の最後のセッションで、山本はホンダ勢最上位の5番手タイムを記録。トップの平川亮(ITOCHU ENEX TEAM IMPUL)とのギャップもわずかコンマ2秒という僅差だった。

「今日はコンディションも路温が高かったせいか、昨日よりもベストタイムは遅かった。トップで終えることはできなかったですけど、トップとの差だけを見れば最後、ニュータイヤでアタックしたなかで言うと悪くはなかった。このコンディションには合わせることができたのかなと思います」と山本。

 まだクルマのフィーリングには満足はできてないとのことだが、「まだまだやれること、やりたいことはあるものの、ちょっとずつ調子は上げられているのかなと思います」と手応えを感じた様子の山本。表情は以前として厳しいままだが「ギリギリ戦えるスタートに立ったという感じです」と、開幕に向けてこのオフ、ようやくポジティブなコメントを残した。

 山本が5番手タイムをマークした富士テスト2日目午後は気温もそれまでで一番上がり、4月の開幕戦に近い気温になっていた。さらにスーパーフォーミュラ・ライツの走行が事前に行われ、路面はレースウイークさながら、多くのゴムが乗った状態になっていた。それまでのテストとは違い、本番シチュエーションに近い状態になったことで、山本と今年、山本を担当する加藤祐樹エンジニアが作り上げたクルマがようやく本来のパフォーマンスの片鱗を見せ始めたのだ。

 だが、その変化を裏返すと、この2回のテストからは路面温度や路面のゴムの状況など、コンディションのわずかな変化で各ドライバー、各チームの勢力図が大きく変わってくることも感じさせた。そしてもうひとつ、その変わっていくコンディションと勢力図のなかでも例外的に平川亮だけが常に上位をキープしていることもこのオフテストで明かだった。

 そもそもではあるが、昨年からクルマもタイヤも同じパッケージを使用しているスーパーフォーミュラで今年、どうしてここまで勢力図が変化するのか。ひとつにはタイム差が僅差ということが挙げられるが、山本担当の加藤エンジニアが話した言葉が印象深い。

「昨年はコロナ禍でテストで走行する機会も少なく、どのクルマも新しいセットアップを試す機会がない状況でレースに合わせるしかなかった。そのなかで今年、2回のテストが行われて、みんないろいろ新しいトライを試しているのだと思います。SF19のシャシー、そしてヨコハマタイヤともに、まだまだパフォーマンスを上げられる要素は残っていると思います」と加藤エンジニア。

 その高いポテンシャルを現在一番引き出せているのが、平川とITOCHU ENEX TEAM IMPULということか。今年タイトル連覇を狙う山本も、昨年タイトルを争った平川を最大のライバルとして注視していることが伺えた。

「このオフ、どんなコンディションでも平川選手は最後に合わせてきている。どのセッションでも常にトップ5に入れてくるのは平川選手くらいですので脅威です。昨年、タイトルを逃して悔しい思いをして今年に懸ける思いは強いと思うので、逆にああいう姿を見ると、やっぱりこちらも燃えますね。彼には負けたくないです」

 果たして、山本尚貴の4度目のチャンピオン、そしてチームを移籍しての連覇が掛かる2021年シーズンはどのようなスタートを切ることになるのか。今週末の富士で、長いシーズンの最初の戦いの火蓋が切られる。

富士テスト2日目の山本尚貴(TCS NAKAJIMA RACING)

© 株式会社三栄