【MLB】ダルビッシュ、辛抱の先に見えた感覚「後は一つ一つのピースを正しい位置に持っていくだけ」

開幕投手を務めたパドレス・ダルビッシュ有【写真:Getty Images】

5回途中4失点で降板「楽しんでいる余裕はなかった」

■パドレス 8ー7 Dバックス(日本時間2日・サンディエゴ)

パドレスのダルビッシュ有投手は、4月1日(日本時間2日)のダイヤモンドバックス戦に先発し、2本塁打を含む8安打4失点1四球6奪三振で5回途中降板。新天地サンディエゴで4年ぶり2回目となる開幕投手で白星を手にすることは出来なかった。「全体的に自分の思ったところにコントロールができていなかった」と振り返った今季初登板からダルビッシュは何を得たのか。

初回に1失点も、味方打線の援護をもらい5点リードで勝利投手の権利が生まれる5回のマウンドに上がった。しかし、1死から2番・マルテに左中間へのソロを許すと、2死一塁から5番・カブレラに右翼席へと運ばれ一挙3点を失いマウンドを譲った。球数は93球。「体力的にはまったく問題はなかったですが、すごく我慢のピッチングが続いていました」と口元を引き締めた今季の初登板。実は、登板前から自分との闘いが始まっていた。

「試合前のブルペンでもなるべくいい状態に戻すように必死だったので。最後の最後まで楽しんでいる余裕はなかったです」

伏線があった。3月25日(同26日)のオープン戦最終登板では思わぬ“落とし穴”が待っていた。相手投手の踏み込みが強く、穴状に掘れた着地点と自分の左かかとが重なってしまい意識を乱された。あれから1週間、投球のメカニクスに生じた狂いを調節しきれずに迎えた大事な開幕戦だった。「球が見やすいような投げ方だったのはわかっていました」と振り返った中で、そのサンプルになるのが降板につながった5回のカブレラの2ランだった。

カウント0-1から外角やや高めの97マイル(約156キロ)の速球を捉えられた。

「僕は真っすぐを投げる時は、コースを狙って投げるわけではないので。あそこにいっても大丈夫だと思って投げました」

オープン戦ではカラティニ捕手が構えたミットとは逆のコースに投じた球でも手痛い一撃は食らわなかっただけに、本来の状態であれば結果は違っていたはずであろう。

観衆8773人の中での登板「朝から感謝して幸せな気持ちになっています」

もっとも、カブレラ相手に体の開きを抑えてボールに体重が乗った見事な投球も披露している。

3回、2死二塁の場面だった。外角の速球をファウルで凌いだ好打者を、カウント1-2から茫然自失の見逃し三振に仕留めたのが膝元へのこの日最速の98マイル(約158キロ)の速球だった。ダルビッシュは「すごくいい球があそこにいった。今日のいいところだったと思います」と表情を和らげた。

辛抱強く投げ続けたからこそわかり得た感覚はこの日の大きな収穫。

「あとは、一つ一つのピースを正しい位置に持っていくだけの作業なので。そんなに悲観するようなことではないです」

降雨中止や降雪の中での開幕戦もあった中で、サンディエゴの試合開始時の気温は約29度。新型コロナウイルスの感染予防対策からカリフォルニア州の規定により、収容人員が20%以内の8773人となった本拠地ペトコパークに響く地元ファンの声援は励みになった。

「ファンの人もこれだけいるし、こんな最高の天気、最高の場所で投げられるのを朝から感謝して幸せな気持ちになっています」

新天地でのスタートを「自分の力不足」と評したダルビッシュ有の意欲は、メジャー10年目を迎えても変わることはない。(木崎英夫 / Hideo Kizaki)

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