社会人出身の投手がプロで“苦戦”する理由とは… 小林雅英氏が自身の経験から分析

エイジェックの投手総合コーチに就任した小林雅英氏【写真提供:エイジェックスポーツマネジメント】

4月1日付で社会人野球エイジェックの投手総合コーチに就任

日米通算234セーブを挙げた小林雅英氏が4月1日付で社会人野球・エイジェック硬式野球部の投手総合コーチに就任した。山梨・都留高から日体大、東京ガスを経てロッテ、インディアンス、巨人、オリックスでプレーした後、オリックス、ロッテのコーチ、女子プロ野球の投手総合コーチを歴任した46歳は今回、自身も選手として経験のある社会人野球に身を投じることになった。

栃木県を本拠地とするエイジェック野球部は2018年創部と歴史は浅いが、これまでに梵英心氏(元広島)、五十嵐章人氏(元ロッテ、近鉄など)ら多くのNPB出身者が選手やコーチとして所属してきた。エイジェックスポーツ事業部で要職にある人物が、かつてロッテ球団の用具担当などを務めていた縁もあって小林氏にコーチ就任のオファーがあったという。

「体が動くうちは、ユニホームを着てグラウンドに立っている方が性に合う」と言う小林氏は「これまでの野球人生で経験してきたことを伝えられればと思いました。全てが正しいとは思っていませんが、自分が思う投球というものは80%から90%ぐらいは正解だと思っています」と語る。

創部4年目のエイジェック野球部は、最年長の選手でも30歳に達していない若いチーム。「自分が東京ガスに入った時はベテラン選手もいて、選手の中でも年長の人から学ぶことができました。エイジェックの選手の平均年齢は24~25歳ぐらいで先輩がいないし、伝統もない。逆に言えば歴史の浅いチームで、これから伝統を作っていくところに関わっていけるのはやりがいのあることだと感じました」とコーチ就任にあたっての思いを明かした。

オリックスでは2軍育成コーチの経験もある小林氏だが、教える選手の年代は同じぐらいでも、プロとアマでは大きく違うという。プロ選手に対するアプローチは明確。「プロに入ってくる選手はある程度、優秀で技術も高い。後はどうやって1軍に上がれるようにするか。リーグ戦で活躍して、たくさん給料をもらえるようになるか。その手助けをするのがコーチの役割になります」と説明する。

自身が東京ガスでプレーしていた当時は金属バットが使用されていた

一方、社会人選手は仕事と野球の両立が必要になる。「サラリーマンなので仕事もしなくてはいけないし、技術的にもまだまだ未熟な選手が多いので基本的なことからアドバイスする必要もある」と指摘。そして、職場の同僚らへの感謝の思いがなければならないと力説する。「会社や周囲の同僚たちが野球をする環境を作ってくれて、応援もしてくれるわけですから。都市対抗など主要大会はトーナメントですし、1試合に対する熱量はプロよりも高いと思います」。

日体大時代はプロからの評価がそれほど高くなかった小林氏。ドラフト上位での指名を決意して東京ガスに進み、実際に1998年ドラフト1位(逆指名)でロッテに入団した。「社会人の2年間でプロに行くことができなければ諦めようと思っていました。3年目はないと決めていた。自分の考え方が変わると行動や野球に対する取り組み方が変わったし、同じ練習をしても吸収力も変わってきます。自分の経験を踏まえて、エイジェックで上を目指す選手に伝えていきたいですね」。

自身がプレーしていた頃、社会人野球では金属バット使用が認められていた。必然、投手のレベルは上がったという。「金属だと折れることがないし、ある程度、芯を外しても打てる。プロのスカウトに認められるには投手も技術を上げて抑えていかなければならなかったので試行錯誤を重ねました」。社会人時代にプロの世界でも通用する技量が備わったと振り返る。

近年、社会人出身でプロ1年目から活躍する投手が少ない原因はそこにあるとも指摘する。「今は社会人も木製バット。社会人は抑えられても、プロのレベルになるとそう簡単にはいかない。そんな現状でもプロに入ってすぐに新人王を狙えるような投手を育ててみたい気持ちがありますね」。かつてロッテの絶対的守護神として“幕張の防波堤”の異名を取った小林氏が、新たな目標に向かって走り出す。(大久保泰伸 / Yasunobu Okubo)

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