「向こうでユニホーム脱ぐ可能性も」 160キロ右腕・北方が“再渡米”で示す覚悟

昨年まで栃木でプレーした北方悠誠【写真:編集部】

マイナーリーグ中止で“空白の1年”に「気持ち的にだいぶきつかった」

もどかしい1年間をやり過ごし、3月下旬に再び米国へと飛び立った。ドジャース傘下のマイナーが主戦場になる北方悠誠投手の体つきは、ひとまわり大きくなっていた。新型コロナウイルス感染拡大の影響で、空白となった2020年の1年間。「ちょっとウエートしすぎたかもです」。苦笑いの中に、シーズンの幕開けを迎えられた高揚感が滲む。【小西亮】

2019年、新たな道が開けた。独立リーグ「ルートインBCリーグ」の栃木ゴールデンブレーブスでシーズン開幕を迎えた矢先、ドジャースとマイナー契約で合意。NPB復帰を目指す中で示された別の選択肢に、迷わず海を渡った。そのシーズンは、環境への順応もかねてルーキーリーグに登板。本格的な腕試しは2020年に迎えるはずだったが、コロナ禍であえなく帰国した。マイナーリーグも中止となり、日本で“宙ぶらりん”の身となった。

「気持ち的にだいぶきつかったですね。テンションも下がりましたし、どうすればいいのかと。かといって、どうすることもできなかったんですが……」

他のMLB球団では、コスト削減のためマイナー選手の契約を打ち切ったという情報も現地から入ってきた。「何もしないまま、自分もクビになるんじゃないかなと思いました」。目の前のマウンドを奪われた状況では、調整の照準を合わせるのも難しかった。ようやく昨年9月に古巣の栃木と契約し、実戦環境を確保。10試合に登板し、異例のシーズンを終えた。

「向こうのバッターが大好きな真ん中高めの真っ直ぐで」現在地を確認

1年越しに迎えるマイナー本格挑戦。「まずは1年間、チームの戦力になりたい」。2011年のドラフトで1位指名を受け、3年間過ごしたDeNAでは1軍登板なし。育成として1年間プレーしたソフトバンクでも、その後に4球団渡り歩いた独立リーグでも、シーズン通して投げ続けたことはなかった。異国の過酷な環境でフル回転できれば、またひとつの経験値となる。

メジャー昇格を目指す若き才能たちとの対戦に、真っ向からぶつかる。ストレートこそ、北方悠誠。ストレートこそ、さらなる未来を切り開くカギになるのは分かっている。

「ねじ伏せたい。向こうのバッターが大好きな真ん中高めの真っ直ぐで、どこまで勝負できるか。たとえ気持ちよく打たれてもいいんです」

生半可な覚悟では、海は渡らない。もう27歳。NPBであれ、MLBであれ、最高峰への挑戦権を得るチャンスは確実に少なくなっている。「この先どうなるか、自分でも分かりません。また日本でプレーするかもしれないですし、向こうでユニホームを脱ぐ可能性だってあると思います」。用意される保証のない目の前の登板は、自らの剛腕で掴み取っていくしかない。(小西亮 / Ryo Konishi)

© 株式会社Creative2