コロナ禍のコンビニトイレ「貸し出し休止」…一体なぜ? 張り紙に焦った記者が疑問に迫った

感染防止策として利用客へのトイレ貸し出しを中止しているコンビニ=横浜市内

 新型コロナウイルス感染症拡大に伴い、コンビニエンスストアでトイレが借りられなかった。トイレで感染したとの話もなく、スーパーは使えるのになぜ一部のコンビニだけ? そんな疑問が神奈川新聞の「追う! マイ・カナガワ」取材班に寄せられた。コロナ禍が続いて1年。38歳の記者も年々トイレは近くなるばかりで、当てにしていたトイレが使えず泣きそうになったことも…。そんな思いで疑問に迫った。

 「コロナ対策の為、申し訳ございませんが、トイレの貸出を一時中止しております」─。神奈川県内のコンビニでも、こんな張り紙をよく目にする。

 川崎市多摩区でコンビニ経営するオーナー男性(55)を取材すると、「貸し出し中止は店の従業員と話し合って決めた」という。昨年2月、クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」のトイレの床からコロナウイルスが発見されたとの報道を目にしたパート社員から、「トイレの使用や清掃が怖い」との声が出たのがきっかけだ。店舗内で話し合いの機会を設け、チェーン本部とも相談の上、貸し出しを休止した。

◆従業員に辞められたら困る

 確かに当時を振り返ると、クルーズ船の動向を伝える連日の報道に「トイレの床から検体検出」といったものもあったが、感染源となったのかなど、その真相は分からないままだ。

 オーナーの男性は「人手不足でバイト確保に苦心する中、従業員に辞められるのが一番痛手だった」と説明。声を挙げた店員は勤続年数も長く、店舗を支える「屋台骨」。当時は消毒液入手が困難だったことも追い打ちを掛けた。

 「ワクチンが広く国民に行き渡って、もう少し状況が落ち着くまでは見合わせたい」と、緊急事態宣言が解除された現在も貸し出しは再開していない。同区内の別のコンビニの女性店員も「不特定多数の人が使うトイレを清掃させたくないと、オーナーの判断で中止している」と打ち明ける。

◆チェーン本部は「店舗判断」

 コンビニ大手ローソンの本部は昨春の緊急事態宣言発令中の4月28日、一度は貸し出しを休止すると発表したが、さまざまな反応があり、翌日には方針を一部見直すことになった。

 同社によると、当時はウイルスの概要がほとんど判明しておらず、一部でトイレの使用から感染が広がったとの情報もあったため、「顧客や従業員の安全・安心につながることは全て取り組もう」と休止の判断に至ったという。

 ただ、長距離トラックのドライバーらから「トイレの使用場所に困る」との意見が寄せられたことから、従業員に声掛けの上、利用を可能にしたという。

 加盟店からは、従業員の感染防止の観点から賛成の意見もあったが、「来店客のため貸し出しを継続したい」との声も寄せられた。現在はトイレの貸し出しを推奨した上で、最終的にはオーナー判断にしている。

 ファミリーマート広報部は「本部として貸し出し休止の指示は出しておらず、各店舗の判断」と回答。セブンイレブン本部は「貸し出しを控えるような指示はしていない」と説明した。

◆公衆トイレ化が原因?

 「店舗を経営するオーナーの考え方次第」で判断されることはよく分かった。ではなぜ、スーパーは使えるのか?

 コンビニの勤務経験も長い流通アナリストの渡辺広明さんは、「コンビニのトイレの『公衆トイレ化』が原因ではないか」と指摘する。記者もそうだが、トイレを使うために入店するコンビニ客が多い。一方で、「チェーン展開するスーパーは店舗の規模も大きく、トイレ目的の客は少ない。多くは専門の清掃員を雇っている」と渡辺さん。その違いが、スーパーでは貸し出しを続けられる要因なのだろう。

■取材班から 
 記者は15年以上前にコンビニでバイトしていたが、取材を進める中で「オーナーには、バイト思いで優しい人が多い」と改めて実感した。トイレ清掃がなくなれば「大学時代の自分は『ラッキー』と思っていたはず」と考えるのだった。

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