【競泳】五輪切符は〝通過点〟池江璃花子が目指す「さらなる高み」

代表の座を勝ち取った池江璃花子

涙の復活Vだ! 競泳・日本選手権兼東京五輪代表選考会第2日(4日、東京アクアティクスセンター)、女子100メートルバタフライ決勝が行われ、白血病から復帰した池江璃花子(20=ルネサンス)が57秒77で優勝。400メートルメドレーリレーの派遣標準記録(57秒92)を突破し、東京五輪代表の座を勝ち取った。2019年2月8日に白血病が判明してから786日。絶望の淵から這い上がったヒロインが日本中に大きな大きな希望を届けた――。

涙が止まらなかった。一度は諦めた東京五輪代表入り。「自分がすごくつらくてしんどくても、努力は必ず報われるんだと思った」と声を震わせた。

かつては〝本命〟として同種目で圧倒的な強さを誇っていた池江だが、白血病による体力低下の影響もあり「100メートルのバタフライが一番(第一線に)戻ってくるのに時間がかかると思っていた」。しかし、この日は前半から果敢に攻め、50メートルを26秒98で折り返す。課題としていた後半も「予選、準決勝では足が全く入っていなかったので、入れるようにした」と短期間で修正。粘り強い泳ぎで後続を振り切り、日本一に返り咲いた。

突然、若きエースを襲った病魔。医師から「抗がん剤治療で髪の毛が全部抜けます」と告知されたときには、大泣きしたこともあった。昨年8月に復帰するも、決して周囲が思うような復活ロードを歩めたわけではない。「誰にも泳いでも勝てなかったときのことを一番初めに思い出した」。1年以上プールに入れなかったブランクを埋めることは、天才スイマーの池江でも決して簡単なことではなかった。

体調はまだ万全な状態とは言えない。薬の服用は必須。通院することもある。それでも、自らの体と相談しながら練習を重ね、一歩ずつ階段を駆け上がった。かねて「目標は2024年パリ五輪」と話してきたが、2月の東京都オープン(東京辰巳国際水泳場)50メートルバタフライで復帰後初優勝。手応えをつかみ、東京五輪について「可能性があるなら頑張りたい」と一念発起。そして、夢舞台への切符を自らの力で手にした。

とはいえ、ここで立ち止まるつもりはない。「このタイムで世界で戦えるかって言われたら、そういうタイムではない。さらにこれから高みを目指していきたい」。〝水の申し子〟が起こした奇跡。その物語はまだ序章に過ぎないようだ。

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