負担重い政府案、野党は抜本改革提起

あなたの隣で~難民鎖国ニッポン 第4回

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 入管難民法改正の政府案が成立したら、何が起きるのでしょうか。難民申請中の強制送還や、送還を拒否した場合の罰則などについて検討してきましたが、連載第4回は、新設される「監理措置」や「補完的保護対象者」の制度を考えます。 その上で、野党による対案を見ていきましょう。(共同通信編集委員=原真) 

 外国人が収容されている東京出入国在留管理局。レインボーブリッジの向こうの湾岸エリアは東京五輪の会場となる=2019年8月、東京都内

 ▽入管庁の裁量任せ

 政府案が可決されると、収容に代わる「監理措置」が実施される。入管職員が逃亡や不法就労の恐れなどを考慮し、「相当と認めるとき」に監理措置に付することになる。

 病気などのため一時的に収容を解く現行の「仮放免」制度と同様、あくまで入管庁の裁量に任されている。希望したからといって、監理措置を受けられる保障はない。

 監理措置で外国人を監督する「監理人」に関して、入管庁は、仮放免で保証人になっている人たち、すなわち家族や弁護士、外国人支援団体などを選任することを想定している。

 だが、監理措置を受けた外国人に、逃亡や就労の疑いが生じた場合、監理人は入管庁に届け出を義務付けられる。届け出なければ、10万円以下の過料を科される。弁護士や外国人支援団体からは「密告を強いられ、本人の利益を害しかねないので、監理人になることはできない」との声が上がる。

 ▽貧困ビジネスの温床に?

 外国人の生活を支えることを含め、監理人の負担は大きく、なり手がいるかどうか分からない。監理人が見つからなければ、監理措置制度は、絵に描いた餅に終わる(注4)。

 住まいを紹介して生活保護費を巻き上げる「貧困ビジネス」の事業者らが監理人になり、収容を避けたい外国人を搾取するのではないか、といった懸念もある。

国士舘大の鈴木江理子教授

 在日外国人を研究する鈴木江理子・国士舘大教授は「監理措置も仮放免と同じ中ぶらりんの状態で、結論は送還か在留特別許可しかない」と指摘する。

 政府案では、在留特別許可を新たに申請制にするというが、1年を超える実刑に服したことのある人らは原則として許可されず、これまでより対象者が狭まりかねない。

 ▽「補完的」で保護減る懸念

 さらに政府案では、「補完的保護対象者」の受け入れが始まる。

 入管庁によれば、難民条約上の難民に当たらなくても、紛争地から脱出してきたような人は、難民に準じた補完的保護対象者に認定し、日本在留を許可するという。日本が保護する外国人を拡大し、「難民鎖国」と批判される現状を改善するようにも見える。

 ただし、例えば内戦を逃れてきたシリア人などは、これまでも人道的配慮による在留特別許可で受け入れてきた。補完的保護対象者について、入管庁幹部は「保護する範囲を広げようという趣旨ではない」と明言しており、保護される範囲は従来と大きくは変わらないだろう。逆に、補完的保護対象者の定義が「迫害」を要件とするなど限定的なため、保護される人は減るのではないか、と懸念する専門家もいる。

 ▽具体的な保護策は

 難民認定された人は、安定的な「定住者」の在留資格を付与される。半年間の日本語教育などを無料で受けることができるし、家族の呼び寄せも可能になり、いざという時には生活保護も受給できる。これに対し、在留特別許可を受けた人は「特定活動」の在留資格となることが多く、日本語教育などの対象外で、家族呼び寄せも制約され、生活保護も受けられない。入管庁は、補完的保護対象者にも定住者の在留資格を与えると表明しているが、難民と同等の保護策を提供することが求められている。

 在留特別許可を得た後、「特定活動」から「定住者」への在留資格の変更を集団申請し、記者会見するミャンマー人ら(手前)=2009年12月、東京都千代田区の弁護士会館

 ▽認定手続き改善サボる

 補完的保護対象者を制度化する以外、政府案には難民認定関係の規定はほとんどない。入管庁は、法改正はしないが、認定手続きの運用を見直し、①難民に当たるか否かを判断する規範的要素(基準)の明確化②難民の出身国の政治的状況など情報収集の充実③入管職員の調査能力の向上―に取り組む、と表明している。

 しかし、法務省・入管庁は、難民認定手続きの改善をサボってきた前科がある。同省が自ら設置した有識者会議が14年、具体的な提言したにもかかわらず、乱用防止策を除き、今も実現していない。難民支援者らは「運用を見直すと言っても、信用できない」と口をそろえ、入管職員による難民申請者の面接調査への弁護士立ち会いや録画、母語の通訳の手配、認定・不認定の理由の明確化などを求めている。

 ▽国連機関が政府案批判

 それだけではない。政府案の柱となる規定について、専門家は強く反発している。日本弁護士連合会は、難民認定の質の向上はもちろん、刑事手続きの逮捕や勾留と同様に、収容の是非を裁判所がチェックする「司法審査」の導入などが実現しない限り、政府案に反対すると表明した。外国人支援団体が集まるNPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」などは、難民申請中の強制送還や、送還拒否への罰則、監理措置に強く反発している。

 さらに、国連人権理事会の作業部会や「移民の人権に関する特別報告者」などが3月31日、日本政府に対し、入管難民法改正案の見直しを求める共同書簡を出した。政府案は「国際人権基準に達していない」と非難した上で、収容は最後の手段として司法審査に付するよう要求するとともに、難民を迫害国に送還しないことは国際人権法上、日本政府の義務であると強調した。

 4月9日には、国際的な難民保護の中核を担う国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が、政府案に対する長文の見解を発表。①難民申請中の強制送還を可能にする法改正は望ましくない②送還拒否への罰則は、少なくとも難民申請者には適用してはならない③罰則付きの監理措置は再検討が必要④補完的保護対象者は定義を見直すべきだ⑤収容には上限を設け、司法審査を導入することが望ましい―などと訴えた。事実上、政府案の全面的な見直しを求めた形だ。

 国連機関が加盟国の国内法案に反対するのは極めて異例で、政府案が抱える問題点の深刻さを浮き彫りにした。

国連機関の共同書簡を受けて記者会見する人権団体のメンバーら=2021年4月、東京都千代田区の参議院議員会館

 ▽独立委員会が難民認定と野党

 一方、立憲民主党などの野党は共同で、入管難民法改正案などを今国会に提出した。政府案とは対照的に、野党案は難民認定制度の抜本的改革を盛り込んでいる。

 目玉は、「難民等保護委員会」の設立だ。入管庁が行っている難民認定を、独立行政委員会に移管することを提案した。独立行政委とは、公正取引委員会のように、政府から独立した行政機関を指す。不法滞在者らの取り締まりを担当する入管庁から、難民認定手続きを切り離すことで、難民保護を徹底するとともに、政治・外交的な配慮から認定手続きがゆがめられることを防ぐ。既に同様の独立機関を設けている国もある。

 難民等保護委は、UNHCRの見解を踏まえ、難民認定の基準を策定し、それに照らして判断する。条約難民だけでなく、紛争から避難してきた人や、無国籍の人も保護対象とする。難民申請者には、最低限度の生活を維持するため、就労を許可する。

入管難民法改正案などを共同提出し、記者会見する野党議員ら=東京都千代田区の参議院議員会館

 ▽収容は例外、対日10年超なら在留許可

 また、野党案は、収容は逃亡の恐れがある場合に絞り込み、最長6カ月の上限を定める。不法滞在などの疑いのある外国人は全て身柄を拘束するとの現行法の原則を撤廃し、収容を例外的な措置とするわけだ。逮捕などと同じく、収容には裁判所による司法審査を必要とする。入管庁が独断で収容できる現行法から、大きく変わる。

 さらに、在留特別許可を拡充する。日本で生まれ育った人や、長く日本に滞在し社会に定着している人、日本人の家族がいる人などには許可を出し、家族が離ればなれにならないよう配慮する。

 野党案は、改正法の施行時に、日本在住が10年を超えているなど、一定の要件を満たす外国人は、不法滞在などでも、特例的に在留を許可するという。欧米諸国で行われている不法滞在者らの一斉合法化(アムネスティー)である。在留期間が原則3~5年に限定された技能実習や特定技能などの労働者を受け入れるより、日本社会での即戦力になることが期待される。

 ▽国際基準にのっとる

  野党案作成の中心メンバーで、超党派の「難民問題に関する議員懇談会」会長を務める石橋通宏参院議員(立憲)は「野党案は、保護すべき難民を保護するための法律だ。専門性のある委員や係官が透明性、客観性のある審査を行う」と説明。「現行法では、保護されるべき難民が認定されず、送還され、命の危険にさらされている。難民認定が出入国管理に押し込められ、外国人を管理する、受け入れないんだという制度が続いている」と指摘する。

 野党案について、外国人を支援する指宿(いぶすき)昭一弁護士は「日本初の難民認定制度をつくる、すばらしい法案だ。これまでは『難民不認定制度』だった。国際人権基準にのっとった在留管理制度も提案されている」と高く評価する。

 国会は、政府案と野党案の両方を十分に審議することが求められている。政府案、与党案の要点を現状とともに比較した表を下に掲げておく。

(注4)法務省は過去に、難民の可能性のある外国人の入国や在留を認める「一時庇護(ひご)上陸許可」や「仮滞在」の制度を設けたが、適用例は少なく、十分に機能していない。

(続く)

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