男女格差120位、日本が変わるヒントは? 「ジェンダーと政治」研究の三浦まり上智大教授に聞く

 スイスのシンクタンク「世界経済フォーラム」が公表した今年の男女格差報告(ジェンダー・ギャップ指数)で、日本は156カ国中120位だった。政治と経済分野の遅れが目立ち、世界最低水準で低迷している。森喜朗元首相の女性蔑視発言をきっかけに世界に知れ渡った「男性優位」の日本を、平等な社会に近づけるにはどうすればいいのか。「ジェンダーと政治」を研究する上智大の三浦まり教授(政治学)にヒントを聞いた。(共同通信=清鮎子)

三浦まり上智大教授

 ▽停滞

 前回の153カ国中121位から、今回は総合評価で順位を一つ上げたが、経済、健康、教育、政治の4分野全てで順位を下げた。順位は相対的に変動するものなので一喜一憂しても仕方がなく、停滞していることが示されたことが重要だ。

 政治分野は「国会議員(日本は衆院)の割合」「閣僚の割合」「過去50年に女性が首脳に就いた年数」で評価される。日本は議員割合が9・9%、閣僚は10%、首相はゼロ。100点満点換算ではわずか6・1点、順位は147位と低調だ。

男女格差報告の主な順位

 ▽突破口は閣僚

 政治の停滞は社会に深刻な影響を与え、刷新は急務だ。特に閣僚は政権トップに任命権があり、改善しやすいところだ。現在、上川陽子法相と丸川珠代五輪担当相の2人しかいない女性閣僚をもっと増やせば、社会を変えようという強いメッセージになる。最低3人、できれば30%程度の6人まで引き上げたい。30%以上の国は2021年1月現在63カ国ある。日本もその水準に追いつけば、政治分野のランキングも改善できる。何よりも、政治の風景が一気に変わるだろう。

 今回、米国が前回の53位から30位へ大幅に順位を上げたのは注目される。バイデン政権の誕生で閣僚の女性割合が46.2%だったことが大きい。各分野で活躍している女性を起用し、社会、経済への影響を図るという意思が表れている。 ただ、日本は議院内閣制であり、民間からの登用が限られる。このため、女性議員の母数を増やすことが必要になる。有権者は本気で変えようとする政党を選び、変化を迫らなければならない。

 アジアに目を向けると、今回のランキングには含まれていないが、蔡英文総統という女性リーダーを擁する台湾が一番のモデルだろう。国政選挙、地方選挙でさまざまなクオータ制(割当制)を導入して、女性国会議員の割合は4割を超える。地方議会、首長でも女性が多い。

 韓国は家父長制が強く、女性議員の割合も低かったが、クオータ制を導入してから、女性議員割合で日本を追い抜いた。既に女性大統領も生まれているほか、文在寅政権の閣僚の27・3%は女性が占める。韓国のジェンダー・ギャップ指数が改善したのは、女性閣僚を増やしたことが大きい。議席は獲得しなかったものの、女性党が結成されたぐらい女性運動の基盤が厚く形成されている。つまり、台湾、韓国とも女性運動の力でクオータ導入を実現し、女性党首を誕生させ、スピード感をもって変革を進めた。日本はどんどん抜かれていく可能性がある。

男女格差報告書

 ▽教育に懸念

 日本は、中長期的には教育が懸念材料だ。難関大学で学生の女性割合が2、3割にとどまることを考えれば、教育機会に男女格差があることは明らかだ。医学部入試における女性差別もあった。大学進学率の地方格差もあり、どの地域、どの家庭に生まれたかで、将来にわたって大きな差が出てしまう。他の先進国では、大学進学率はむしろ女性の方が高くなっている。

 教育機会の男女格差を是正するには、法的基盤も必要だ。米国ではタイトル・ナインという教育法があり、スポーツにおける男女差やキャンパスの性暴力に対して、大学の責務を規定している。日本でもこれを参考に立法化が急務だ。

 新型コロナウイルス感染拡大もあって、今後、デジタル化が進むが、それを格差解消のチャンスにしなければならない。デジタル技術の習得に女性が取り残されないように、特に地方の若い女性たちが取り残されないようにするのが鍵となる。20年、30年後のリーダーとなる女性を育てるため、教育への投資が必要だ。

 そして、教育機会の格差を可視化することも真っ先に取り組む必要がある。日本はジェンダー統計でも出遅れている。どこに男女格差があるのかを明らかにしなくては、有効な手立てを打つことができない。

 日本がジェンダー格差解消に本気で取り組まなかった過去30年の間に失ったものは大きい。この間に日本は世界の中で相対的に貧しくなり、経済格差も広がった。女性の貧困も深刻だ。多様な需要を想定する必要があるサービス中心の社会に転換したのに、意思決定の場が男性中心のまま維持されたために、変化に早く気付いた欧米企業との差がついた。

 もっとも、機関投資家がジェンダー平等を意識するようになっているため、今後は企業において女性活躍が加速化するだろう。市民社会もまた、森発言への抗議に見られたように人権意識の高まりがある。こうした社会の変化に政治が追いつかなくてはならない。 政治を目覚めさせるのは、有権者の役割だ。社会の閉塞感を解消していくためにも、今こそあらゆる領域でジェンダー平等に集中的に取り組むべきだ。

   ×   ×   ×

みうら・まり 上智大法学部教授。ジェンダー平等な政治を目指す団体「パリテ・アカデミー」の共同代表も務める。

男女格差報告  世界経済フォーラムが2006年からほぼ毎年発表している報告書で、4分野での男女格差を数値化し、順位を付ける。日本の評価は100点満点で換算すると、経済は60・4点、教育は98・3点、健康は97・3点、政治は6・1点だった。総合順位の首位は12年連続でアイスランド。フィンランド、ノルウェーと北欧諸国が続き、4位にはニュージーランドと、女性が指導者を務める国が上位を占めた。アジアではフィリピンが17位、韓国は102位、中国は107位で、いずれも日本より上位となった。

© 一般社団法人共同通信社