「革のよさを1人でも多くの人に伝えたい」。小さな革屋さんの挑戦

ゴールのない「革」の世界。だからこそ生涯の仕事にしたい

九州有数の繁華街・天神から電車で1駅。カフェや雑貨が多く並び、感度の高い人々が集う街、薬院。薬院駅からほど近い道路沿いながらも、RUMBLE LEATHER CRAFTは静かに佇んでいます。

RUMBLE LEATHER CRAFTの店内の様子。新作やワークショップなどの開催情報はインスタグラムでもチェックすることができます。【RUMBLE LEATHER CRAFT インスタグラム】

この場所に店舗を構えて10年。RUMBLE LEATHER CRAFTデザイナーの片岡さんは、学生時代から、市販のアイテムにジッパーをつけたり、かばんをつくったり、手を動かして何かを生み出すことに興味を持っていたのだといいます。

片岡さん
人がお金を出して何かを手に入れる時の多くは“自分でつくれないから買う”だと思うんです。ぼくの場合は、何でも1度はつくってみようという考えが強かったんですよね。その流れでファッションに興味を持つようになり、ファッション系の大学に進学しました。

牛革のレザーサンダル。コーディネートのアクセントになりそうな、鮮やかな色合いが魅力

学生時代に出会ったという“革”。永く使いながら育てていくという革の性質や、知れば知るほど奥が深くゴールがないところが片岡さんの性に合っており、どんどん革に惹かれていったのだといいます。

片岡さん
大学時代から革小物をつくり出し、卒業してすぐ、運良くトライアルで1年間お店を出せるというチャンスをいただいて、革小物のお店を出しました。

もちろん最初からうまくはいかなかったのですが、お店をやることのノウハウを学べましたし、それ以上に、自分のつくったものを目の前で手にとって、買ってくれることのよろこびを知りました。

「bagwarm key sleeve」と名付けられたキーケース。ちなみにbagwarmはみのむしという意味

その後、1度会社勤めをしたものの、やはり自分の目で最初から最後まで見届けたいという思いが強く、革職人としてやっていくことを決意しました。

店内を見渡してもわかるように、革小物と一口にいっても、とにかく種類が豊富。どれも無駄のない洗練された、ユニセックスなデザインが印象的です。

片岡さん
身内が「ここにロゴはいらない」「この財布はもっと薄い方がいい」など、意見をハッキリと伝えてくれるので、自分自身もハッとさせられることが多く、改善点が見えたりすることも。そのほか、オーダーメイドも承っているので、そこでお客様のニーズをつかみ、商品に反映したりして、今の形にたどりついたんです。

オーダーメイドとなると、無理難題をおっしゃる方も多く、日々修行させてもらっているような感覚です(笑)。もちろんこちらも全力で対応しますよ。ただ、いまもまだまだ自分のことを職人とは思っておらず、発展途上の段階です。

“本当に自分がほしいもの”でクラウドファンディングに挑戦

片岡さんは、これまでに2度、クラウドファンディングに挑戦しています。最初の挑戦は、レザー素材の「アップルウォッチ専用ベルト」でした。

片岡さん
新型コロナウイルスの影響で店舗に足を運んでくれる方がほとんどいない状況が続いた時、何とかしなければ、と思ったんです。通販に力を入れることも考えましたが、前々から挑戦してみたかった、クラウドファンディングにも取り組んでみることにしました。

お店の商品となると、自分が“ほしい”ものだけをつくっていては成り立ちません。お客様のニーズを把握しデザインに落とし込んだり、価格的にも手に取りやすいものにしなければなりません。

だからこそ敢えて、クラウドファンディングでは純粋に“自分が本当にほしいもの”でチャレンジしてみようと思いました。自分のエゴを貫いた商品が、どれくらい支持されるのかを見てみたかったんです。

栃木レザー社の最高級のレザーを使いベルトを制作。1枚革でつくることで、使っているうちに2枚に剥がれることのないようにしたり、撥水剤スプレーを散布するのではなくひとつひとつ手塗りで施したり、とにかく細部までこだわり抜かれたデザインに仕上げられています。

「アップル製品の美しさを損なわないシンプルさに拘りました」と片岡さんがいうように、時計を引き立てながらも、どんなコーディネートにも合わせやすい5色のカラーバリエーションが取りそろえられており、思わず何本も欲しくなってしまいます。
結果、目標金額20万円のところ、およそ125万円が集まり、622%を達成しました。

片岡さん
自分がほしいと思っていたものがここまで支持されたことは単純にうれしかったですね。ただ、ここまでの大量発注を1度にいただいたことがなかったので、想像以上に革にロスが出てしまったり、クラウドファンディングが終わった後は少し苦労しました。ただ本当にいい革を仕入れていたので、ほかの商品に流用することができたのはよかったですね。

そして2度目は「総イタリアンレザー仕様の小さい財布」で挑戦。こちらも、片岡さんが3年ほどかけて試行錯誤を繰り返した“本当にほしかった”財布なのだそう。

ポケットにも収まるサイズ感

片岡さん
老若男女使いやすいサイズ感と、一般的に革職人は敬遠しがちな淡い色味の革を用意しました。淡い色味は、色のブレが激しく、実際に仕入れても使えない部分が多く出てしまうんです。

でも、もともとの色味の美しさはいうまでもなく、経年変化を実感しやすいという利点も。使う範囲の狭い小さな財布だからこそ、この革を使おうと決心しました。実際、支援してくださった半分くらいの方が女性でしたね。クラウドファンディング自体のユーザーが圧倒的に男性の方が多いので、珍しい結果だったみたいです。

左側が新品の状態。30日使い続けると、右側のようにつややかな革に変化する。色にも深みが増し、まさに「革を育てる」ということばがぴったり

こちらも目標金額を大幅に上回り、433%を達成した。その結果をご自身でどう分析されているのかをうかがった。

片岡さん
プロジェクトの中には、YouTubeのトップページのように、少しおおげさなキャッチとともに商品を目立たせるような手法をとられている方もいらっしゃいます。でも、ぼくの場合は、とにかく嘘がないことにこだわりました。

等身大で、でも真実を丁寧に伝えるということ。実はMakuakeの担当者の方にも「もっと目立つように写真に文字をのせた方がいい」といわれたのですが、そこは申し訳ないけれど、ぼくの思いを貫かせてもらいました。

写真の上にも極力文字はのせず、商品をしっかり見ていただくようにしましたし、革の生産風景の写真は、直接栃木やイタリアのメーカーに問い合わせて、掲載許可をもらいました。

ぼくの最終目的は1人でもたくさんの方に、革について知ってもらうこと。だからこそ革のことをまったく知らないような方でもわかりやすいように、革の性質や扱い方など、細かいところまで文章に盛り込みました。

実店舗にて制作から販売まで行っている片岡さん。訪れるお客さんの中には革が経年変化していくことさえも知らないという方が多くいらっしゃるのだそう。だからこそ、革のことを少しでも多くの方に知ってもらい、もっと革を愛用してくれる方が増えるような活動を地道にしていこうと考えています。

小さな財布「パルム」。こちらはすべて1点もの

片岡さん
革のことをまったく知らなかった方が、革のよさを知り、人生最初の革アイテムをうちで買ってくれる、なんてことになれば、それこそシビれますよね。

最終的には、いつも素晴らしい革を提供してくれているタンナー(皮を革に加工する人のこと)さんたちに恩返しをしたいと思っているので、ぼくが少しでも革のよさを伝えることで革アイテムが売れる。

そしてタンナーさんたちもうるおう。小さな積み重ねかもしれないけれど、いつかはそれが日本経済をうるおすようなことにつながればな、という思いで日々革と対峙しています。

自分でつくった商品は、必ず自分でもしばらく使ってみるという片岡さん。なんと財布は同時に30個以上を使っているのだといいます。だからこそ、店頭に並んでいる新品の状態ではなく、使いこんだ状態も実際に見せていただいたり、“こういうふうに変化しますよ”と、説明していただけることで、革の性質や魅力がストレートに伝わってくるのです。
ちなみに、片岡さんは店内の内装もご自身での手づくり、そして、学生時代に写真部だったことから、クラウドファンディングなどにも伝われている美しい写真もご自身で撮影されているのだそう。1度会社勤めをした時に感じた「最初から最後まで自分で」という思いが、革小物だけではなく、すべてに現れているのだなと、取材の間、関心しっぱなしでした。

■ザ・ライブリー博多福岡で「RUMBLE LEATHER CRAFT」のワークショップが開催されます!
開催日:2021年4月17日(土)
10:00〜13:00 コインケース
14:00 〜17:00 キーケース
参加費:5,000円(税込) ※ワンドリンク付
詳細・お申込み方法はこちらをチェック

『RUMBLE LEATHER CRAFT』インスタグラム

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