現代国語の神様と言われる出口汪先生が、最終回として言葉と論理の関係についてお話しします。
言葉は論理とともにある
言葉を使うということは、そこに論理が発生しています。論理は言葉とともにあるのです。
たとえば、「死」という言葉を例にして考えましょう。犬や猫には「死」がありません。なぜなら、「死」という言葉をもたないからです。
もちろん犬や猫は吠えたり泣いたりすることで意志や感情を表せるので、言葉をもっていると言えるのですが、人間のように言葉で世界を整理できません。それゆえ、言葉で「死」を考えられないのです。
なので、「死」について本能的に感じることはあったとしても、人間と同じように死に対する恐怖を感じることはできません。気がついたら死んでいるのですから、犬や猫には「死」という概念は存在しないと言えるのです。
それに対して、人間は「死」という概念をもっています。いずれ自分も死ぬと考えています。自分だけが死なないでいつまでも生き続けると考えてもよさそうなものですが、そうは考えません。なぜなら、たくさんの人が例外なく死んでいくのを見ているからです。一人ひとりの死は具体的なものですが、そこからすべての人間は死ぬという共通点を導き出します。それを抽象というのですが、ここでは「具体」→「抽象」という論理を自然に使っているのです。
さらにすべての人間が死ぬという「抽象」から、自分も死ぬという「具体」を導き出してしまいました。「抽象」→「具体」という論理的な思考を使ったのですね。それゆえ、人間は死について考えるようになり、死への恐怖が芽生え、死後の世界についても思いを及ぼします。このように、具体から抽象、抽象から具体という論理的な考え方を「イコールの関係」と言います。
「死」という概念が生まれたとき、同時に「生」という概念も生まれます、これが「対立関係」ですが、人間はそのためにいかに生きるべきかにも思いを至らせるのです。人は必ず死ぬことが決まっているのですから、時間という概念が同時に生まれ、青春ははかなくて、切ないものとなります。宗教も文学も哲学も、「死」という言葉がなければ生まれていなかったでしょう。
このように私たちは「イコールの関係」「対立関係」を使って、世界を整理します。「空と大地」「空と海」「男と女」「神と悪魔」「勝利と敗北」「好きと嫌い」「暑いと寒い」「おいしいとまずい」「善と悪」など、あらゆるものを「イコールの関係」「対立関係」で整理することで、秩序ある世界を作り出し、その中でようやく安心をするのです。
ですから、論理とは決して難しいものではありません。逆に、論理は言葉とともに生まれた世界共通の約束事であり、誰にとっても身近なものなのです。人間の社会がすべて論理という約束事で成り立っている限り、子どもたちにただ言葉を与えるのではなく、言葉=論理として理解させることが必要です。
幼児期に自然に言葉を論理的に使えるようになったなら、その後の学習の成果は飛躍的になるに違いありません。
「具体・抽象」が論理の始まり
大昔、初めて人間が「男」という言葉をもったとしましょう。男という言葉がないときには、Aくん、Bくん、Cくんと具体的に認識しなければなりませんでした。言葉をもつことで、Aくん、Bくん、Cくんの
共通点を抜き取った「男」という抽象概念が生まれました。
なぜ男という言葉を必要としたのかといえば、女を意識したからです。でなければ人間という言葉で十分ですから。男という言葉は抽象であり、同時に女を意識したから男が生まれた。そこに対立関係が生まれているのです。まさに言葉そのものが論理なのです。
天←→地、暑い←→寒い、好きだ←→嫌いだ、おいしい←→まずい、正義←→悪……私たちは言葉がなかったらカオス(混沌)ですが、言葉をもつことで世界を整理しものごとを考えることもでき、それを人に説明することもできるのです。
私たちは「イコールの関係」と「対立の関係」で世界を整理しています。言葉を子どもに与えるとき、同時に論理を与えればよいのです。それを幼児教育でやってほしいのです。小学校に入ってから、記憶できない子、うまく考えられない子、記述が解けない子たちは、論理を見つけられないからうまくいかないのです。
文章を読むときには言葉の数だけ意味があります。それを等分に頭に入れたら頭の中がごちゃごちゃします。まさにカオスです。ごちゃごちゃするから考えられない、説明できない、答えられないのです。
あらゆる情報を頭の中で論理的に整理できるから理解できる、記憶できる、考えられる、説明ができるのです。
最後になりましたが、今後YouTubeで、「出口汪の学びチャンネル」でさまざまな学びの場を提供していきます。また教育において、最先端の情報を提供していきますので、ぜひ登録をお願いします。
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これまでの【出口式「論理エンジン」の考え方】は