急増外国人ウーバー配達員の危うい現状 コロナで追い風の裏側

 黒色の四角いリュックサックを背負い、スポーツタイプの自転車にまたがり駆け抜ける―。街の至る所で食事宅配サービス「ウーバーイーツ」配達員の姿を見るようになった。日本にいる多くの外国人も働くが、大阪府警は1月、全国で初めて、不正に配達員登録した疑いでベトナム人の男(24)を立件した。

 取材を進めると、コロナ禍で深刻さを増す外国人労働者の困窮につけ込み、会員制交流サイト(SNS)で他人の在留カードなどを売買するブローカーの存在が浮かび上がった。新型コロナウイルス感染拡大で宅配需要が高まり、追い風を受けるウーバーイーツ。そこに活路を見いだし集まる外国人労働者の現状を探った。(共同通信=寺田佳代)

「ウーバーイーツ」の配達員

 ▽涙ながらに

 「借金はベトナムで仕事を探してどうにか返す。早く国に帰りたい。すみませんでした」。今年2月、配達員だった男は法廷で涙ながらにベトナム語でこう述べ、肩を震わせた。捜査関係者などによると、男は日本で金を稼ごうと、2018年10月に在留期間1年の技能実習生として日本にやって来た。渡航を手引きした人物に現金を支払う必要があったことから、多額の借金を抱えての来日だった。

 ▽「コロナに強い」

 しかし19年4月には実習先の岡山県の建設会社から逃走。男は公判で「仕事がとてもしんどく、給料も低い。一日6千円だった」と振り返った。逃走後は東京都や名古屋市を転々とした。新型コロナの感染が広がり、仕事もなかなか見つからない。そんな中、SNSで知り合ったベトナム人に「コロナに強い」と紹介されたのがウーバーイーツだった。コロナ禍でも稼げるという。配達員として男は月に平均で15万円ほどの収入を得ていたとみられる。男は遠方からの配達依頼はキャンセルを繰り返し、アカウントを凍結されることもあった。

呼び出しを待つ「ウーバーイーツ」の配達員

▽突然の逮捕

 昨年10月21日、男は路上で配達員として注文を待っていたが、警察官を目にするととっさに顔をそらした。その一瞬の不自然さを、警察官は見逃さなかった。呼び止めると、男は片言の日本語で「急いでます」と抵抗したが、所持品検査で期限の切れた在留カードが見つかり、入管難民法違反(不法残留)容疑で現行犯逮捕された。

 府警はその後も捜査を進め、他人の在留カードの画像を自分のものと偽ってスマートフォンで送り、不正に配達員登録していたとして、電磁的記録不正作出・同供用容疑で男を追送検した。男は公判で、ベトナムにいる父親は病気を患い、母親も働いておらず、貧しかったと打ち明けた。不正登録の疑いについて大阪地検は起訴猶予処分としたが、入管難民法違反事件については今年2月、大阪地裁が懲役2年、執行猶予3年(求刑懲役2年)の判決を言い渡し、その後確定した。

 ▽音信不通

 技能実習生として来日し、過酷な環境から逃げ出したものの、困窮して犯罪に手を染めてしまう外国人は後を絶たない。昨年2月に技能実習生として来日した東京都のベトナム人の男性(23)は6月、実習先の建設会社から逃げ出した。金に困っていたところ「稼げる仕事がある。内容も大変じゃない」と知人から紹介された仕事がウーバーの配達員だった。

 働くにはウーバー側に必要書類を送り、インターネットのアカウントを取得する必要がある。この知人を通じて知り合った留学生からアカウントを10万円で購入し、給料は留学生の口座からもらうことにした。しかし翌日、アカウントは突然削除され、留学生とも音信不通に。結局働くことはできなかった。男性は「留学生がアカウントを売るケースはよくある」と明かす。

 男性は以前、ベトナム人ブローカーに1万円を支払い、在留資格が就労に制限のない「配偶者」となり、期間も本来より長い偽造在留カードを買ったことがあるという。来日時に多額の借金をしており「カードがないと仕事が見つからない。ベトナムにいる家族を助けられると思った」とうつむく。

「ウーバーイーツ」の外国人配達員に運営会社から届いたメール

 ▽温床

 日本にいるベトナム人の間で他人の在留カードやパスポートなどの売買の温床となっているのがSNSだ。「トウキョウバイト」やベトナム語で兵士を意味する「ボドイ」と呼ばれるフェイスブックのグループには、不法就労を誘う多くの投稿がある。ウーバーの配達員として働く別の20代のベトナム人男性は「生活が厳しく、違法だと分かっていてもSNSを通じて不正登録をしている人も多い」と語った。

 ▽手軽さ

 不法残留する外国人が配達員に流れる背景には、新型コロナによる宅配需要の高まりのほかに、ウーバーの登録の手軽さがある。外国人が配達員として登録するには、名前や顔写真の他、パスポートか在留カードの写真をアプリで送信する。かつては面接や配達用バッグの手渡しも実施していたが、新型コロナの感染拡大を受け、配達員はネット上だけで登録手続きが完結する方法に変えていた。

 しかし不正が相次いでいるとの指摘を受け、ウーバーは昨年末、外国人の配達員登録希望が多い東京と大阪で対策に乗り出した。アカウントの取得方法を変更し、在留カードなどの画像を送って登録するネット上のやりとりから、都内と府内に設置されたコンプライアンスセンターでの対面手続きにした。ウーバー社によると、現在は名古屋、福岡でもセンターを開設し、対面での手続きに切り替えている。

「ウーバーイーツ」の配達員

 ▽本質

 出入国在留管理庁によると、2019年に日本に入国したベトナム人は約51万人。11年から約10倍に増加している。一方、20年1月時点での不法残留のベトナム人は1万5561人で、国別で最多となっている。

 外国人を支援するNPO法人「日越ともいき支援会」(東京)の吉水慈豊代表は「コロナで仕事がなくなり、不安を抱える中、働くためにネット上で偽造カードを買おうとしてだまされるケースも多い」と懸念する。

 外国人の労働問題に詳しい指宿昭一弁護士は「外国人労働者の受け入れ制度の問題が本質にある。双方の国が困窮した技能実習生に手を差し伸べない限り根本的な解決にはならない」と指摘している。

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