オンラインで“バス旅行” ライブ中継や土産も コロナ禍、需要掘り起こす

画面の向こう側にいる参加者に、地元わらべうたの手遊びを体験してもらう古堅さんと和泉さん(右)=長崎市滑石4丁目、長崎バス観光

 長崎バス観光(長崎市)がオンライン社員旅行を企画した。車窓からの映像を流したり、見学先とライブ中継で結んだりして臨場感を演出。新型コロナウイルス禍で団体旅行が制限される中、新しい様式の旅に記者が“同行”した。
 「右オーライ、左オーライ。では出発しまーす!」。ガイドの古堅紀子さんが合図すると、画面に長崎駅前から繰り出す車窓の風景が映し出された。「左手をご覧ください」。事前収録した出島の表門橋や建物群の映像が流れる。大浦天主堂までの坂は歩く目線で。グラバー園でハート形の石だたみを見つけた参加者が次々にグッドボタン(高評価)を押した。
 参加したのは指宿シーサイドホテル(鹿児島県)の社長や従業員ら33人。コロナ禍で稼働率が下がる中で「職場の結束を図ろう」と申し込んだ。古堅さんのいる長崎の事務所から約400キロ離れた職場で、ビデオ会議システム「Zoom(ズーム)」を活用。大型モニターや個人のスマートフォンで視聴した。
 女神大橋、軍艦島を見て実際なら1時間かかるところを数分で長崎カステラランド(雲仙市)へ。映像がライブ中継に切り替わり、運営会社の社員が工場を案内した。その後、諫早駅から島原鉄道に乗り換え、大三東(おおみさき)駅(島原市)で下車するシーンを再現。ここも中継で島鉄社員が海に面したホームに立ち、願い事を書いて掲げる「幸せの黄色いハンカチ」を紹介した。
 あらかじめ参加者には箱を届けてある。中には黄色いハンカチや土産のほか、番号を印字した紙が。車中や見学先で出すクイズに参加者はこれで答える。ずっとミュート(無音声)状態のため、ガイド側の一方的な発信に陥るのを防ぐ工夫だ。チャットでもやりとりは可能。ミュートを解除して皆で歌おうとしたが、ハウリング(鳴音)が強く、あきらめた。
 箱には粉末の袋も入っていた。画面が小地獄温泉(雲仙市)に変わり、ガイドの古堅さんの指示で紙コップに入れ、湯を注ぐと硫黄の香りが漂う。「指湯体験」。頭の上に腕で大きくマルをつくって「いい湯加減」と伝える参加者の笑顔が画面に並んでいた。
 締めは海に沈む夕日の映像。通常11時間をぎゅっと約2時間に凝縮した旅程が終わり、指宿の社長は「コロナが収束したらぜひリアルで訪れたい」と感想を述べた。
 長崎バス観光はコロナ禍で激減したツアー需要を掘り起こすため3月にスタートさせた。愛知にいる母と横浜に住む娘がそれぞれの自宅にいながら一緒に長崎観光を楽しむ例も。同社は高齢者や入院患者ら遠出ができない人にも利用を勧める。参加費は1人2900円。運転手役を務めた和泉謙吾次長は「今後もルートをアレンジして本県の魅力を発信できれば」と話した。

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