「僕のほうが心配になった」 池江璃花子 “奇跡の復活” にリオ代表コーチが感じる一抹の不安

レースを前に笑顔で待機場に移動する池江璃花子(代表撮影)

今後の成長を願うからこそ――。競泳の東京五輪代表選考会を兼ねた日本選手権第7日(9日、東京アクアティクスセンター)、女子50メートル自由形準決勝で池江璃花子(20=ルネサンス)が復帰後自己ベストとなる24秒87をマークした。白血病から完全復活間近と言えそうな中で、東海大学水泳部監督で2016年リオ五輪競泳日本代表のコーチを務めた加藤健志氏(55)が取材に応じ、〝人間性〟の成長ぶりを絶賛。その一方で、一抹の不安も口にした。

快進撃が止まらない。すでに400メートルメドレーリレー、400メートルリレーの代表切符を勝ち取ったが、この日の50メートル自由形準決勝では出場選手で唯一24秒台をマーク。この種目でも派遣標準記録(24秒46)突破も視野に入ってきた。「やっぱり50メートルって楽しいなって思った」と笑顔を見せた。

白血病を克服しての結果に目を奪われがちだが、加藤氏は人間的にもひと皮むけたと見る。16歳で出場したリオ五輪時の印象を「子供が五輪チームに入ってきた感じだった」と振り返ったが、4日の100メートルバタフライで優勝したときに池江が「苦しくてもしんどくても努力は報われるんだなと思いました」などと涙ながらに語り、多くの人たちに感動を届けた。

そんな姿に「璃花子は勝ってあの言葉を言ったわけない。あの言葉は今までの出来事をさして言った言葉なんだなっていうのに感動した。そういうのを瞬時に感じられる生き方になっている。本当に苦労した後、成長した人間になったんだなと思う」。

ただ、この日まで今大会3種目8レースに出場した。本人は「結構疲労がくるのかなと思っていたけど、思ったほどこなかった」と万全ぶりをアピールしたが、加藤氏は「璃花子と毎日会っていて、7日までは問題なかったが、8日から疲れた様子で僕のほうが心配になった。健康が崩れたら元も子もない。コーチ(西崎勇氏)も疲労を心配していた」と明かす。

やはり完全復活途上であるのは事実。加藤氏は「璃花子は絶対にできる子だから無理はしないでほしい。例えば五輪に出ないといけないから、五輪でメダルをなどと言って、体を治すペースよりも追い込むペースが上回ったら、取り返しのつかない健康の崩し方をして、本番に出られないことも考えられる」と話す。

奇跡的な復活を遂げているからこそ、無理は禁物だということ。「五輪を決めたので、この選考会が終わったらいったん休むくらいの感じでいい。また着実にやって(五輪の)決勝に進出してくれたら素晴らしい」とエールを送った。次なる奇跡へ、東京五輪までの調整も細心の注意が必要となりそうだ。

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