【新型コロナ】アストラゼネカのワクチンで血栓症例 米医学誌に同時に2つの論文

 医学界でもっとも権威のある医学雑誌「ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン(NEJM)」の最新号に、それぞれ2つの別の研究グループが、EU域内でアストラゼネカのワクチン接種を受けた人の中に、深刻な血栓症を発症した症例が複数あると報告する論文が同時に掲載された。同社のワクチンをめぐってはイギリスでも同様の症状が複数出ていることが報告されている。

症例報告あわせて16人、うち死亡8人

 同学会誌に掲載された2つの論文は、それぞれドイツおよびオーストリア、またノルウェーで観察されたあわせて16人の症例について報告したもの。EU域内では4月7日時点で8,200万回以上のワクチンが接種されており、そのうち域内全体のアストラゼネカワクチンの割合は公表されていないが、ドイツ国内ではおよそ4分の1が同社のワクチンだという。

 ドイツおよびオーストリアの症例を取り上げた研究グループの論文では、11人(そのうち9人が女性)の症例を報告。脳静脈血栓症、内臓静脈血栓症、肺塞栓症などを発症し6人が死亡した。ノルウェーのオスロ大学病院に入院した5人の症例を取り上げた別の研究グループの論文でも、脳血栓など深刻な血栓症および血小板減少症を発症し、うち2人が死亡したとしている。

 いずれの研究グループも、これらの患者の血液を調べたところ、全般として血液を凝固させるはたらきを持つ血小板を活性化させる抗体量が増えていた一方、血小板自体の量は減っていたことが分かったとした。これは血液凝固を起きにくくするヘパリンを投与することで、まれに逆に血栓が起きてしまう「ヘパリン起因性血小板減少症」と似ていると評価しており、アストラゼネカのワクチンが原因となった可能性を指摘している。

 アストラゼネカのワクチンをめぐっては、EUに加盟する十数ヵ国が血栓の症例報告を受け3月中旬に接種を一時停止、欧州医薬品庁が今月に入り安全だとの判断を示すまで接種が再開されていなかった。血栓は主に50代までの若年層にみられることから、再開後もドイツは接種対象を60歳以上、フランスは55歳以上に引き上げるなど使用制限を行なっている。発症率は極めて低いもののイギリスでも同様の報告があがっており、血栓発症に対するリスクは他のワクチンより高いとの懸念が広がっている。

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