株式市場が耐えうる金利上昇ペースはどの程度?不安に振り回されない相場の見極め方

新年度入りした4月の株式市場では、NYダウやS&P500が最高値を更新し、日経平均株価も再び3万円の大台をうかがう展開となっています。

米長期金利の上昇に対する警戒感は根強いものがありますが、新型コロナの感染の落ち着きと、ワクチン接種の広がりによる経済の正常化で、2021年以降に景気や企業業績が上向くシナリオは不変です。

今回は、3月の日米金融当局の政策決定を振り返りながら、株式市場の見通しについて見ていきましょう。また、足元の金利と株価の関係についても解説します。


3月のFOMCは無難に通過

3月16、17日に開催されたFOMC(米国連邦公開市場委員会)では、政策金利の誘導目標を0~0.25%で据え置くことが決まりました。注目のFOMCメンバーによる経済見通しは、軒並み上方修正されたものの、足元の経済の回復は一様ではなく、完全回復からはほど遠いと認識されているようです。

また、先行きの不確実性も残っていることから、金融緩和姿勢を継続することが妥当との判断が米金融当局によって示されました。それによって、早期の金融引き締め観測は後退し、株式市場でも一定の安心感が広がっています。

FOMCメンバーによる経済見通しでは、2021年の経済成長率や物価の見通しが引き上げられるとともに、失業率の見通しも前回より改善しました。その結果、2023年の政策金利の見通しでは、メンバー18人のうち7人がゼロ金利の解除を予想しました(前回12月時点では5人)。

さらに、2022年についてもゼロ金利解除を予想する人数は、前回の1人から、今回は4人に増えました。景気回復への期待のもとで、早期の金融正常化を見込む向きが増えつつあることは事実のようです。

しかし、予測の中央値で見た水準では、2023年までのゼロ金利政策継続の見方に変化はありません。また、ゼロ金利解除(利上げ)の前に着手すると見られる量的緩和の縮小(テーパリング)についても、FRB(連邦準備制度理事会)のパウエル議長は、まだ議論していないことを強調しています。

金融当局による経済見通しの中では、物価上昇率が一時的にでも目標とする2%を超える予測が示されました。また、最近起きたような市場金利の急上昇に対して、有効な対処法は特に明らかにされていません。そういう意味では、今後も市場では金利上昇圧力がくすぶり続ける可能性があります。

ただ、米金融当局としては、金融緩和政策の長期化を根気よくアピールしていくことで、雇用を含めた景気回復を支援し続けていくスタンスにあります。今回のFOMCに対する株式市場サイドからの見方としては、ひとまずポジティブと評価できるのではないでしょうか。

目先は米長期金利の上昇がいったん落ち着くことで、ハイテク・成長株の不安定化は収まりそうです。一方で、経済正常化への期待で選好される景気敏感株への物色もしばらく続く公算があり、いずれかへの「決め打ち」は避けたいところです。

市場参加者が大きな関心を寄せた3月のFOMCは、上述のとおり、金融緩和の長期化を確認するかたちで終わりましたが、今後一段と米国の景気回復が進むにつれて、株式市場は金利上昇バイアスと常に付き合っていくことになるでしょう。

どの程度の金利上昇ペースなら株式市場は耐えうるのか

株価と金利の関係を考える上で、決定的に重要なのは、予想PER(株価÷予想1株あたり利益:EPS)と実質金利の関係であると考えられます。実際、ここ数年は両者の(逆の)連動性が明白で、金利が上がるとPERが低下し(株価は下落)、金利が下がるとPERが上昇する(株価は上がる)関係にあります。

S&P500の12ヶ月先予想PERの動きを米10年実質金利で説明した回帰分析(期間は2018年以降、直近まで)によって、予想PERの金利感応度を求めると、実質金利1%(100ベーシスポイント)の上昇で、予想PERがおよそ3倍(ポイント)下がるという結果が得られます。従って、実質金利が0.3%上昇すると、予想PERはおおむね1ポイント切り下がる計算となります。

そもそも、米長期金利が上昇傾向にあるといっても、絶対的な水準は決して高くありません。10年国債利回りは1%台の半ば~後半ですし、10年実質金利は未だマイナス圏にあり、実体経済への影響は限定的と考えられます。

それでも、金利上昇に対して株式市場が動揺を見せるのは、投資家が金利上昇のペース・速さに警戒感を示しているためと解釈されます。一般に、株価は、PERと利益(EPS)の掛け算によって求められます。そのため、仮に金利が急上昇してPERが急低下すると、例え業績(EPS)見通しが改善していても、その低下スピードに追いつけない(株価は下落する)ことがあります。

では、どの程度の金利上昇ペースなら、株式市場は耐えうるのでしょうか。今の米国の業績予想の改善モメンタムは4週間で2%程度です(12ヶ月先予想EPSが4週間で2%増加しているという意味)。それと同じペースでPERが低下する分には、理屈上、株価への影響は中立に保たれることになります。

現状、S&P500 の予想PERは22倍台の前半であり、その2%に相当するのは0.4~0.5ポイントです。予想PERを0.4~0.5ポイント低下させる実質金利の上昇幅は、先述の回帰分析に基づいて逆算すると、概算で15ベーシスポイント(0.15%)程度と求められます。

つまり、業績(EPS)見通しが4週間で2%ほど切り上がる状況下なら、同じ期間に実質金利が0.15%程度、上昇したとしても、理屈上は株式相場へのマイナス影響を回避できることになるのです。

日銀はETF購入方針見直しも影響は限定的か

日銀は3月の金融政策決定会合において、ETF(上場投資信託)の購入方針を見直しました。従来、年間で原則6兆円、上限12兆円という目安を設けて、株価下落局面での購入が行われてきましたが、このたび「6兆円の原則」が削除されました。

もともとETFの大量購入は、株式などのリスクプレミアムを引き下げることを目的に、2013年から始まった政策の一つですが、当時、12,000円台にあった日経平均株価は今や3万円台に到達する状況下で、その役割は十分に果たされたとの見方が増えつつありました。

最近では購入額も目に見えて減ってきており、市場関係者の多くも「出口」に近づきつつあることを薄々感じていたのではないでしょうか。そういう意味では、日銀と市場との間で十分な意思疎通が成り立っていたといえるのかもしれません。

「原則」は廃止となったものの、日銀によるETF購入の枠組み自体は残っています。そのような株価急落時におけるセーフティネットを残しながらの原則の削除は、株式市場へのマイナス影響を限定的なものにすると考えられます。

より重要な視点は、業績改善の方向性であると考えられます。景気に敏感な企業の割合が高いといわれる日本市場では、世界的な景気回復期待を背景に、12ヶ月先までの予想利益が顕著な改善傾向を見せています。

4週前と比較した12ヶ月先予想EPSの伸びは直近(4/1)で3%を超えており、米国を上回る勢いを見せています。日本の予想EPSの伸び率が米国を上回る状況は、昨秋以降、頻繁に見られるようになってきており、日本企業の業績改善度合いの強さがうかがえます。景気敏感業種を先導役に、米国株に対する日本株の優位性が、今後、鮮明になる可能性もあります。

市場金利の上昇ペース加速や金融政策方針の急転換がない限りは、ファンダメンタルズの改善に支えられた株価上昇は継続する可能性が高いと見るべきでしょう。一時の相場不安に振り回されるのではなく、より本質的な部分に目を向けた上で、冷静な対応を心掛けたいところです。

<文:チーフグローバルストラテジスト 壁谷洋和>

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