八幡の街を見守ってきたケヤキを家具へ再活用/北九州市立大学福田研究室・大学院生有志

戦後の戦災復興事業として植樹され、65年以上にわたって八幡のまちを見守ってきた、八幡駅前のシンボルだった「ケヤキ」。腐食や老朽による倒木等の危険性から、2018年9月に2本、2019年2月に3本の合計5本が伐採されました。

このケヤキを再活用し、北九州市立大学 福田研究室で学ぶ大学院生有志が制作した家具が、JR八幡駅前にある商業施設「さわらびガーデンモール八幡」の「一番街」(北九州市八幡東区西本町4-1-1)の1階「GRÖNSKA(グランスカ)」に登場。成果発表として、「ReTrees」(テーブル+椅子4脚+ハンガーラック/春田隆道さん)、「45 degrees」(テーブル/内藤卓郎さん)、「『なでる。さする。こする。』ための椅子」(椅子2脚/竹安信二さん)、「地図卓」(テーブル/西田秀平さん)が設置され、憩いの場として利用できるようになっています。

4月5日に行われた家具のお披露目式に出席していた、制作者の春田隆道さんと内藤卓郎さんに話を聞くことができました。

約3年にわたり、進められてきたプロジェクトの成果発表

今回の家具制作は、「八幡駅前の戦後復興から、現代の豊かな景観を作ったケヤキの存在を後世にも伝え、新たな形で八幡を支えてケヤキの価値を創出していくこと」を目的に、「さわらびガーデンモール八幡」を管理運営している八幡駅前開発株式会社と北九州市立大学の福田研究室が、約3年にわたり、共同で進めてきたプロジェクトによるもの。「伐採されたケヤキを何とかして新たな形で、八幡駅前を見守り、活かす方法はないだろうか」と考えてきた結果、2019年2月伐採のケヤキ3本を使って学生たちが制作した家具を「さわらびガーデンモール八幡」に設置することが決まりました。

研究室の課題作品として、家具の制作に取り組んだのは福田研究室に所属する大学院生の有志たち。普段は、環境共生住宅や間伐材で作る分解可能な住宅、超高層住宅などをテーマに、熱負荷計算や実施設計、模型作りを通し、環境に配慮した建築設計を学んでいる彼らですが、家具を手掛けるのは今回が初めてとのことだったと言います。

写真提供:八幡駅前開発株式会社

2019年10月、伐採後に製材された木材と八幡駅前の街並みを実際に自分たちの目で確認した学生たちは家具のデザインを考え始め、同年12月にデザイン案をプレゼン。その後、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、思うような活動を実施できない中、オンラインでの打ち合わせや、感染対策を講じた上での大学内での進捗確認などを進めてきたと言います。また、家具のコンセプトやデザインを意識しすぎるのではなく、実際に人が使うことを考えての強度や使いやすさなどの必要性について、一級建築士らにアドバイスを受けながら、それぞれ調整を重ね、完成した家具は、それぞれの想いと個性が表現された作品へと仕上がりました。

「ReTrees」(春田隆道さん)

一度は終わりを迎えた樹齢65年のケヤキを、木材(wood)ではなく、樹木(tree)として、地域に再び還るような家具をデザインしたと言う春田さん。「ReTrees」と名付けられた作品は、テーブルと椅子4脚、ハンガーラックで1セット。「より木を感じてもらえるように」と、それぞれ製材していないケヤキの丸太部分がそのままパーツとして使われています。

丸太と合板の接合部には、ゆるかやな段を設けることで、樹木の“枝張り・根張り”を表現したんだそう。また、段を作り、深く丸太をはめ込むことで、家具としての強度も高めていると言います。また、作業には産業用ロボットを使用したとのことで、少しでも寸法に誤差が出るとうまくいかないため、苦戦したと春田さん。普段は住宅という大きなものを考えているため、今回のプロジェクトを通して、小さなものを作る場合の寸法感覚が身につき、勉強になったと話してくれました。

今回、唯一登場したハンガーラックについては、「買い物した後、休憩する時に荷物があると、テーブルの上に置くのか、床に置くのかなど、荷物の置き場に困りますよね。僕自身そういった経験をしたことがあったので、荷物をかけられるようハンガーラックも作ってみました」とのこと。商業施設内にある休憩スペースに設置された家具だからこそ、利用者により便利に使ってもらえるよう、工夫が凝らされていました。

「45 degrees」(内藤卓郎さん)

作品タイトル「45 degrees」の通り、細部まで「45°」という角度にこだわって設計し、内藤さんが作り上げた家具はテーブルです。

最大幅30センチほどのスライスされた不整型板材を組み立て直し、再構築されたテーブルは、木目の美しさに目を奪われます。「素材となるケヤキ自体が比較的濃いストーリーを持っているので、ただ組み立て直すことにしました。ケヤキの板を見た時に、木目がきれいだなと感じたので、この木目を生かしたいと思った」と、正面や斜めなど、どこからテーブルを見ても木目が美しく見えるように組み立てたと言います。

ケヤキはかたく、反りやすいため、組み立てには苦戦したと言う内藤さん。不整型の板材を使っているため、いざ組み立て始めると、内藤さんが設計した寸法に足らず、別の板材を追加しなければいけないといったこともあったそうです。また、街路樹として長く使われてきたケヤキの内部には、釘が埋まっていることもあり、作業には慎重さも必要だったと言います。

そういった工程を経て完成した家具が「GRÖNSKA」に設置された姿を見た内藤さんは、「実寸大のものを実際に制作する機会は滅多にないので、今回のプロジェクトで貴重な機会を与えてもらったことに感謝しています」と語りました。

八幡の地図を模したテーブルや、利用者が育てていく椅子も

今回、話を聞くことができた2人の作品に加え、「GRÖNSKA」にはお披露目式に出席できなかった2人の作品も設置されています。竹安信二さんによる「『なでる。さする。こする。』ための椅子」と、西田秀平さんが手掛けた「地図卓」です。

竹安さんの「『なでる。さする。こする。』ための椅子」は、内藤さんのテーブル「45 degrees」と一緒に設置されています。その特徴は、椅子のひじ掛け部分に使われたケヤキが波打っていること。「街を飾るケヤキを愛おしむようになで、役目を終えたケヤキを労わるようにさすり、ケヤキの肌ざわりを感じながら、より艶のあるケヤキになるように、たくさんこすって楽しんでもらいたい」という想いを込め、デザインされています。

西田さんの「地図卓」は、八幡の駅前をモチーフにした机で、よく見ると、八幡駅と環状交差点の尾倉ロータリーを結んでいる「国際通り」を表す部分にケヤキが使用されています。机の脚部分にもケヤキを使用。「地図を眺め、過去と未来に思いを馳せてほしい」という願いがデザインされた机です。

プロジェクトは彼らの後輩たちに引き継がれ、残りのケヤキを再活用した新しい家具の制作がこれからスタートするとのこと。次は学生たちのどのような想いが込められた家具が誕生するのか、今から完成が楽しみです。

※2021年4月13日現在の情報です

(北九州ノコト編集部)

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