大阪は規制と緩和の反復横跳び?

コロナ対策、振れ幅大きい吉村知事の〝号令〟

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大阪府の新型コロナ対策本部会議に臨む吉村洋文知事=4月7日

 大阪府の新型コロナウイルスの感染急拡大が止まらない。指揮を執る吉村洋文知事は12日、3度目の緊急事態宣言を要請する可能性に言及した。これまで政府に先んじた対応と歯に衣(きぬ)着せぬ発言で幾度も注目を集めてきたが、反復横跳びのように感染症対策の「規制」と「緩和」を行き来する目まぐるしい方針転換は、時に府民を翻弄(ほんろう)してきた。昨春の緊急事態宣言初適用から1年余り。府の対応はどのように変化し、社会にどう影響したのか。吉村知事の発言とともに振り返る。(共同通信=山本大樹)

 ▽「国は宣言を出すべきだ」(感染第1波)

 吉村知事がコロナ対策で脚光を浴びるようになったのは昨年3月19日の一言がきっかけだ。夕方のテレビ番組で思い詰めた表情を浮かべ、突如「明日からの3連休、大阪と兵庫の間では不要不急の往来を控えてほしい」と呼び掛けた。事前に知らされていなかった府幹部は大慌てで調整を始め、直後に府庁で実施された囲み取材には報道陣が殺到した。他自治体のトップらが未知のウイルスへの対処に手をこまねいている中、具体的な対策を分かりやすく発信し、全国の注目を集めた。

 感染拡大期は、ちゅうちょせず危機感を前面に押し出すのが吉村流だ。3月30日には、感染経路不明者の割合が急増したことから「国はもう緊急事態宣言を出すべきだ」とぶち上げ、発令に消極的だった安倍政権(当時)との違いを鮮明にした。4月7日に東京や大阪など7都府県に宣言が発令されると「大阪府はコロナ対策に全精力を注ぐ」と気を吐き、14日から特別措置法に基づく民間施設の休業・時短営業要請を始めた。

 対策が軌道に乗ると、手を引くのも早い。感染者が減少傾向に入るや「出口戦略が必要だ。国が示さないので、大阪モデルを決定する」と表明した。休業・時短営業の要請を解除するために独自基準を策定し、この基準に基づいて5月16日に要請を緩和した。政府の宣言解除よりも約1週間早い対応で、一歩先を行く判断とリーダーシップが高く評価された。

 ▽経済対策阻んだ「夜の街クラスター」(感染第2波)

 緊急事態宣言が解除されると、一気に経済対策にかじを切った。6月中旬からは府内のホテル利用客に宿泊代金の一部を還元するキャンペーンをスタートさせる。7月1日には、大阪市の繁華街・道頓堀で開かれた飲食業界のPRイベントに参加。マスクを外して串カツをほおばり、松井一郎大阪市長との軽妙な掛け合いで笑いを誘った。

大阪・道頓堀の飲食業界PRイベントで乾杯する吉村知事と松井一郎大阪市長=2020年7月1日

 目標とする「社会経済活動と感染症対策の両立」に一歩踏み出した直後に、感染「第2波」が襲う。6月後半からバーやホストクラブ、キャバクラなど、いわゆる「夜の街」関連のクラスターが相次いで発生し、7月に入ると吉村知事も一転して「感染リスクの高い店の利用は避けてほしい」と危機感を強調するようになった。夏休みに感染が急拡大することを避けるため、8月6日から20日までの約2週間は大阪市内のうち道頓堀を含む「ミナミ」地区に限って、飲食店に再び時短営業を要請した。道頓堀商店会の上山勝也(うえやま・かつや)会長(59)は「ただでさえ売り上げが落ち込んでいるのに、ミナミだけ自粛させられてさらに状況が悪化した」と憤った。

 ▽GoToで拡大、三たび時短要請に(感染第3波)

 ミナミ地区の時短営業要請が解除された8月21日、切り替えが早い吉村知事は「事業者のご協力に感謝したい。強力な飲食店支援を大阪市と協力して実施する」と確約した。その言葉通り、9月18日から府内の飲食店を少人数で利用する客に対し、1回2千円分のポイント還元を始め、ミナミ地区では大阪市の負担でさらに2千円分を上乗せした。

 府市のポイント還元策を後押しするように、政府のGoToイートキャンペーンもスタートする。世間では実質無料で飲食する「無限くら寿司」や「トリキの錬金術」といった言葉も飛び交うようになった。特に大阪では客単価の安い店で両方を活用し、グルメサイトが独自に発行するポイントも加えれば「ほぼタダで飲み会ができる」(府幹部)という大盤振る舞いだったため、他府県からもうわさを聞きつけた観光客が押し寄せた。

大阪・ミナミの繁華街を行き交う人々=2020年11月24日

 人が集まれば当然、感染は広がる。府内の感染者は10月下旬からまた増加に転じ、吉村知事は警戒モードに切り替えた。11月10日には「まさに『第3波』に入っている」と宣言し、府は同月27日から三たび、飲食店への時短営業要請に踏み切った。政府のGoToキャンペーンが停止されたことも相まって、先日までの騒がしさがうそのように繁華街の人影はまばらになった。

 ちなみに、この時の対象エリアは大阪市北区と中央区だけだったが12月16日には市内全域に拡大されている。以降も対象エリアの拡大と縮小を繰り返し、いまだ全面解除には至っていない。まん延防止等重点措置が予定通り5月5日まで続けば、北区・中央区では半年間も営業時間の制約が続くことになる。

 ▽2度目の緊急事態宣言、解除前のめりに反発も

 2021年の年明けからはさらに展開が目まぐるしくなった。年末年始の新規感染者数は1日当たり300人程度の横ばいで推移していたため、1月4日に新年最初の囲み取材を受けた吉村知事は「感染の急拡大はなんとか抑えられている。今の段階で緊急事態宣言を要請するつもりはない」と断言した。しかし、その翌日から状況は急変する。新規感染者数が5日は394人、6日560人、7日607人と跳ね上がり、吉村知事は7日の取材で「宣言を要請すべきという考え方だ」とあっさり見解を翻した。9日には京都府、兵庫県と合同で政府に宣言の再発令を要請した。

大阪府などに対する緊急事態宣言の再発令を決め、記者会見する菅義偉首相を移す道頓堀の大型モニター=1月13日

 大阪、京都、兵庫の3府県に2度目の緊急事態宣言が発令されたのは1月13日。府は時短営業要請の対象を府内全域に拡大し、府民にも警戒を呼び掛けた。その結果、感染者数が徐々に減少し始めると、吉村知事はまたもや方針転換する。宣言再発令から18日後の2月1日に「緊急事態宣言というのは短期に集中してやるべきだ。だらだら続けるものじゃない」と主張し、政府に宣言の解除を要請するための新たな基準をまとめ上げてしまった。

 新基準の指標は2月8日に達成したが、感染症対策の専門家や医療関係者は対策の緩和に前のめりな知事の姿勢に強く反発した。足並みをそろえてきた京都府と兵庫県が慎重姿勢だったこともあり、結局、政府への解除要請は23日に先送りされる。政府は病床使用率が改善したことを確認した上で、3月1日に3府県に対する宣言を解除した。

 ▽宣言解除から1カ月で「まん延防止」に(感染第4波)

 宣言解除を受け、府は再び時短営業要請を緩和し、大阪市以外の市町村では解除した。年度替わりの時期と重なったこともあり、人出が戻るのは早かった。大阪市の繁華街では3月27日の夜間の人出が前週より6~11%増加した。この日、市内の様子を見て回った吉村知事も「花見エリアでは人がものすごく多かった」と焦りを募らせた。

まん延防止等重点措置の内容について説明する吉村知事=4月1日

 翌日の28日夜、吉村知事は西村康稔経済再生担当相に「今後さらに感染者が増える。まん延防止等重点措置をお願いしたい」と連絡を入れた。4月5日から全国初となる重点措置が宮城、大阪、兵庫の3府県に適用され、大阪では約1カ月ぶりに時短営業の要請が府内全域に拡大された。措置の一環として大阪市内の飲食店への「見回り隊」活動も始まったが、対象店舗は約4万店と多く、1カ月間の期間内に回りきれるのか疑問視する声も上がる。大阪市幹部は「見回り隊に割く労力があるなら、病院や保健所などもっと大変な所に人を回して負担を減らした方が良いんじゃないか」と首をかしげた。

 府内の新規感染者数は東京をしのぐ状況が続き、13日には初めて1000人を超えた。重症者向けのベッドは既にほぼ満床だ。吉村知事は12日、報道陣の取材に「医療体制は危機的な状況だ」と強調し「まん延防止措置の効果が出てくるのは来週19日以降。その時に効果が不十分であれば緊急事態宣言を要請する」と明言した。

 ▽バー経営者「キャンペーンはいらない」

 吉村知事の対応を医療の専門家はどう見るのか。厚生労働省にコロナ対策を助言する専門家組織メンバーの釜萢敏(かまやち・さとし)・日本医師会常任理事は「緊急事態宣言の解除について議論を始めた段階で人は動きだす。実際に解除された3月1日時点で、既に人出が元に戻り始めていた」と指摘する。大阪府医師会の茂松茂人(しげまつ・しげと)会長は「知事はこれまでも早く動いて判断しようと努力してきた。そこは評価している」としつつ、「現場は既に医療崩壊の状況で、もはや経済がどうとか言っている段階ではない。休業要請などのより強い措置が必要だ」と話す。

大阪府の要請が順守されているかどうか、飲食店を訪問調査する「見回り隊」の職員ら=4月5日

 吉村知事が重視する飲食店への支援や見回り調査も、店舗側の受け止めは複雑だ。大阪市北区・梅田で複数のバーを経営する男性(40)は「時短営業の協力金はありがたいが、ポイント還元キャンペーンみたいなのはいらない。そこまでして客を集めても、いざ感染者が出てしまったら店側がたたかれるだけだ」と冷静に語る。道頓堀商店会の上山会長は見回り隊の活動について「人が集まって密になっているのはルール違反の店。全ての店を一律に規制するのではなく、もっとピンポイントで対策を打つべきだ」と注文を付けた。