「当事者社員の声を反映した制度は、新しい文化・価値を生み出すためでもある」。2021年はLGBTへの理解をぐるなびから、飲食店へ。

飲食店情報サイト「ぐるなび」の運営をはじめ、飲食店等の経営に関わる各種業務支援サービスを提供する『株式会社ぐるなび』。2015年からダイバーシティ&インクルージョンの推進を本格化させ、ぐるなびで働く一人ひとりが持つ能力を最大限発揮できる環境や組織風土を作ることをミッションとして進めてきた。

今回はその中でもLGBT当事者に寄り添った福利厚生制度、それができるまでの経緯を人事部のダイバーシティ推進グループに所属する川原さんに伺った。

――LGBTであることをオープンに働く社員から学んだ、セクシュアリティの考え方

今からおよそ6年前に、ぐるなびらしい新しい働き方を模索するマネージメントキャンプを実施した際、“女性活躍推進”が課題改善の一つとして挙げられました。以来数ヶ月間、社長と全ての役員、社員数十人が課題単位でグループに分かれ議論を重ねたのですが、それぞれの仕事と兼任しながらの委員会活動だったため、より円滑に課題へと取り組めるよう人事部門にダイバーシティ推進グループを立ち上げることになりました。

当初は女性活躍推進からスタートさせましたが、現在はジェンダーに捉われず、多様な人材が、生産性高く、主体的かつ能力を最大限発揮できるサポートを行い、社員のエンゲージメント向上につなげることを目標としています。

LGBT当事者の社員に対しても同じ想いで、どのような雰囲気が働きやすく、どのような福利厚生制度とその申請方法であれば利用しやすいかを考えてきました。そんな中、セクシュアリティをオープンにしているLGBT当事者の社員が積極的に協力してくれたおかげもあり、セクシュアリティについて話し合う勉強会を開催できることになりました。

正直に言うと私自身当事者の方に対してどこまで話を伺って良いのかが曖昧で、コミュニケーションの取り方に不安を感じることもありました。
そんな中「なんでも聞いてください!」と当事者の方に歩み寄ってもらったおかげで、セクシュアリティをオープンにするか否か然り、当事者全員が同じ方向、考えを持っているわけではないということ、LGBT以前に一人ひとりが人間であることを、身近な人から改めて学べたことは貴重な時間でした。大変感謝しています。

――LGBT当事者の声を反映した細かな配慮で、より利用しやすい福利厚生制度へ。

先ほどお話ししたような、ダイバーシティ推進グループのメンバーと当事者、アライの社員で構成されたコミュニティで交わされた意見も参考に、2018年10月に、配偶者の定義を事実婚・同性パートナーを含む「パートナー」へと改定しました。

これにより、パートナーの形態を問わず、社員が福利厚生制度を利用できるようになりました。しかし、LGBT当事者であることを他の社員に知られたくないという社員がいることも確かです。書類は企業内で様々な部署、人の目に触れて承認されるのが一般的ですが、そうすると制度を利用したい気持ちがあっても申請自体のハードルが高く、利用することができない人もいると思います。

その為、パートナーを対象とする人事・福利厚生制度に関する書類を、私を含むダイバーシティ推進グループのメンバーと人事部長だけに通して承認できるルートを確立しました。

必要書類はぐるなびで作成した、パートナーシップ申請書に加え、本人とパートナーの住民票が二つ、または自治体が発行しているパートナーシップ証明書、あるいは同居している場合は本人とパートナーの住民票のいずれかの組み合わせを選択し、提出してもらいます。

パートナーシップ証明書だけに絞ると、時間と費用がかかるだけでなく、転居してしまった場合は再びパートナーシップ証明書を申請する必要があります。また、パートナーシップ制度を導入している自治体が決して多いとはいえない状況下でもあるので、申請の間口を狭めないようにしました。

その他にもe-Learningで実施しているコンプライアンス研修でLGBTに関する基礎知識の研修を実施したり、性自認や性的指向に関する相談窓口の設置、昨年からは新たに性別適合手術・ホルモン治療時休暇サポートを導入するなど、社員一人ひとりが柔軟に勤務できて、能力を発揮できるような取り組みを進めています。

――ぐるなびから飲食店を訪れる人、働く人もLGBTが身近な存在として想定することが当たり前になる社会へ。

現在は、このような取り組みを外部へ発信するために、飲食業界の方向けの販促ノウハウや経営のヒントをまとめたメディア『ぐるなび通信』でも、LGBTに関する情報を掲載するなど、新たな取り組みを検討中です。飲食店の従業員が職場でカミングアウトをした際の適切な対応、あるいは当事者のお客様に対する接客の指針などをお伝えできたら、より良い社会づくりへの貢献につながるのではないかと思っています。

社内のことで言うと、昨年度は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、リモートワークを中心とした働き方にシフトや、オフィス内のフリーアドレス化を導入しました。今年度からは介護・看護・転勤帯同・治療などの事由がある社員が、プライベートとの両立をはかりながら就業が継続できる事や、遠隔地在住の優秀人材獲得を目的として「遠隔勤務制度」を導入し、在籍している拠点から通勤困難な遠隔地でもフルリモートでの就業が可能になりました。

これらの取り組みに満足せず多様な能力を最大限発揮でき、社員のエンゲージメント向上につながるよう、これからも新しい文化や価値を生み出していきたい、それが今の私たちが目指すゴールです。

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■ 株式会社ぐるなび
“日本の食文化を守り育てる”という創業から続く理念のもと「食」に繊細なこだわりを持つ国民性を生かしつつ、飲食店情報サイト「ぐるなび」を運営している。職場におけるLGBTQなどへの取組みの評価指標「PRIDE指標」にて、2019年度にブロンズ、2020年度にシルバーを受賞。
https://corporate.gnavi.co.jp/

インタビュー・取材/芳賀たかし
写真/新井雄大
記事制作/newTOKYO

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