処理水か汚染水か 世界のメディアは福島第1原発から出る廃水をどう報じたか

By Kosuke Takahashi

東京電力福島第1原発のタンクにたまり続ける放射性物質トリチウムを含んだ「処理水」について、日本政府は4月13日、2年後をめどに海洋放出する方針を決定した。

日本政府は「汚染水」ではなく、「ALPS処理水」との表現を使っている。多核種除去設備(ALPS)を使って「汚染水」から大部分の放射性物質を取り除いているため、「ALPS処理水」と呼んでいる。

では、この日本政府が使う「ALPS処理水」という表現を世界のメディアはそのまま英訳し、それぞれの記事で使っているのか。答えはノーだ。必ずしも日本政府の期待通りにはいっていない。米国メディアなど一部を除いて、日本政府に厳しい「汚染水」といった表現が目立っている。

●中韓メディアは「汚染水」

まず日本の近隣諸国のメディアは、この福島の廃水をどう英訳したか。

中国共産党傘下の英字紙チャイナデイリーは13日、「Japan's nuclear wastewater dump prompts sharp criticism(日本の原子力廃水放出が激しい批判を引き起こす)」と題した記事を配信した。そして、本文中にはcontaminated water(汚染水)という言葉を2度使った。

同じく中国国営メディアの新華社通信は13日付の記事の中で、contaminated Fukushima water(汚染された福島の水)やcontaminated radioactive wastewater(汚染された放射能廃水)、tritium-contaminated wastewater(トリチウム汚染廃水)との表現を使っている。

一方、韓国通信社の聯合ニュースは、中国メディア同様、contaminated water(汚染水)との表現を使っている。

●英メディアも「汚染水」

欧米メディアの中で、中韓メディアと同じように「汚染水」という表現を使っているのが英国メディアだ。BBCニュースやロイター通信がともに記事中でcontaminated water(汚染水)との表現を使っている。

英紙ガーディアンもcontaminated water(汚染水)との表現を使っている。その理由については、地球環境保護団体のグリーンピース・イースト・アジアの原子力専門家の以下の発言を引用している。

「もしその水が汚染されていなかったり、放射能を帯びていなかったりするならば、日本は同国の原子力規制委員会から水放出の許可を得る必要はなかったはず。タンクに貯蔵されている水は処理されているが、それはまた放射能で汚染されてもいる。日本政府は内外で、意図的にこの問題で欺こうとしている」

●米メディアのCNNやNYタイムズは「処理水」

一方、アメリカメディアは日本政府の方針に理解を示す。CNNニュースはtreated radioactive water(処理された放射能汚染水)やtreated water(処理水)との表現を使っている。

ニューヨークタイムズ紙もtreated water(処理水)との表現を用いている。ワシントンポスト紙は、contaminated water(汚染水)やtreated water(処理水)といった賛否のある表現を避け、記事の見出しでFukushima nuclear plant water (福島原発水)との無難な表現をした。

このほか、トルコのアナドル通信社はFukushima wastewater(福島廃水)、ドイツ通信社(dpa)はradioactive water(放射能汚染水)とそれぞれ表現した。

●NHKは「放射能汚染水」から「処理水」に訂正

では、日本メディアの英文サイトはどのように訳したか。

NHKの海外向けニュースサイト、NHK WORLD-JAPANは11日、radioactive water(放射能汚染水)と9日のニュースで報じたことは水が処理されずそのまま放出されるような誤解を与えかねないとして、「今後は海洋に放出する水については処理されることを明確にするため『treated water』(処理水)とします」とのコメントを発表した。

今後は海洋に放出する水については処理されることを明確にするため「treated water」と表現すると発表したNHK WORLD-JAPANのサイト(筆者が画面をキャプチャー)

また、共同通信の英語記事は treated radioactive water(処理された放射能汚染水)との表現を用いている。

なお、日本政府は以下のYouTube動画で「汚染水」と「ALPS処理水」の違いを説明している。

また、日本政府は「トリチウムが親しみやすいように」とゆるキャラまで作って原発汚染処理水の安全PRに乗り出している。

●トリチウム以外の放射性物質にも関心を払うべき

12万人以上が加わる世界最大の科学者団体「米国科学振興協会(AAAS)」傘下の米学術誌サイエンスは13日付の掲載論文で、「ALPS(多核種除去設備)処理のプロセスでは、トリチウム以外にルテニウム、コバルト、ストロンチウム、プルトニウムといった、より放射性寿命が長くて、より危険な同位体が時折くぐり抜けてしまう。これは東京電力自体が2018年に認めたことでもある」と指摘している。こうしたトリチウム以外の核種は貯蔵タンクの71%に存在するという。

この論文の題名は「Japan plans to release Fukushima’s contaminated water into the ocean」であり、treated water(処理水)ではなく、contaminated water(汚染水)との表現が使われている。

世界的に権威のあるアメリカの科学誌が指摘した事実は重い。トリチウムやそのゆるキャラに目を奪われるのではなく、他の放射性物質にも関心を払うべきだろう。

(Text by Takahashi Kosuke)無断転載禁止

© 高橋浩祐