純愛物語で終わるはずがない? NHK連続テレビ小説「澪つくし」
コロナウイルス禍で在宅勤務が続く中、毎朝楽しみだったのが、1985年のNHK朝ドラ『澪つくし』の再放送だ。“醤油醸造の旧家の娘・かをると、網元の長男・惣吉の純愛物語” というのはなんとなく知っていたが、昔はこの純愛物語というのがピンと来ず。だが、36年の時を越えて、思いもかけず夢中になってしまった。
前半では、かをる(沢口靖子)と惣吉(川野太郎)が恋を育み結ばれる、まさに純愛物語が描かれる。だが、惣吉が水難事故で遭難してから、物語は怒涛の展開を見せる。かをるの再婚・出産、惣吉の生還と記憶喪失、再婚相手の嫉妬、太平洋戦争…… などなど、韓国ドラマを彷彿させる大波乱が起こり続ける。
脚本はジェームス三木。あの『けものみち』を脚色し、元妻に『仮面夫婦』なる暴露本を書かれたジェームスの作品が、そりゃ清らかな純愛物語で終わるはずがない。
なかでもギョッとしたのが、かをるの腹違いの姉・律子(桜田淳子)が三角関係のもつれで、殺人&無理心中事件に巻き込まれるくだり。律子を巡り、今カレ(石丸謙二郎)が元カレ(寺泉憲)を崖から突き落とし、今カレが律子を道連れに崖から落ちる。
惣吉の生還で嫉妬に狂った2番目の夫(柴田恭兵)が、かをるに言った台詞も強烈だった。
「その体に巣食っている虫がいつかきっと暴れだすんだ。俺は騙されんぞ」
朝からこれだ。1985年の初回放送時に観ていた人たちはどう感じていたのだろう。
ほのぼのした曲調にのったジェームス三木作詞の挿入歌「恋のあらすじ」
ラブラブのかをると惣吉を描いた前半部分で、エンディングに頻繁に流れたのが挿入歌「恋のあらすじ」。本編の尺が足りないのか、ひと頃は毎日のように「恋あら」が流れた。
恋のあらすじ 思いのままを
若いかもめが 空に書く
舟はひとすじ 祈りをこめて
乙女ごころを 海に書く
この世で一番の しあわせは
名誉でもない 富でもない
愛する誰かの しあわせを
守りぬくこと つくしぬくこと
ほのぼのした曲調にのせて、かをるの思いが歌われる。もちろん作詞はジェームス三木。3番の歌詞には “もろみ” や “薫るむらさき” など、醤油を連想させる言葉も出てくる。「ああっ、また恋あらかっ」。先が気になるこちらは、この曲が流れるたびにイラッとした。
だが、怒涛の展開を見せる後半、「恋あら」はほとんど流れなくなる。波乱づくしで「恋あら」を流す時間がなかったのか。あくまでも、かをると惣吉が恋仲になっているときの曲なのか。後半は展開が激しすぎて、ほのぼの「恋あら」がちょっと恋しくなった。
沢口靖子と桜田淳子、対照的な2人のヒロイン
デビュー2年目のヒロイン沢口が、本当にキラキラしていて美しい。前半は芝居がたどたどしくて、36年後の私が観てもハラハラするのだが、かをるの成長と共に、沢口の芝居もちょっとずつ上手くなっていくのがわかる。
最近の朝ドラは、ある程度実績がある女優がヒロインを演じることがほとんどだが、ヒロインを通して女優自身の成長を見守ることも、朝ドラの醍醐味ではないだろうか。
もう1人のヒロインともいえる、律子役の桜田淳子も強く印象に残る。クールな美しさと凛とした立ち居振る舞いで、旧家の勝気な令嬢がぴったり。歌手だけでなく、女優としてもこんなに素晴らしかったのかと、36年後に気がつく。
この律子、父親と旧家の慣習に反発して、革新運動家の男と付き合い、“新しい女” を自負していたが、結局は軍人の妻という保守的な座におさまる。一方、古風で従順に見えたかをるは、家庭と仕事を両立させる先進的な女性となる。
かをるには適応力や鈍感力みたいなものがあり、実は律子のほうがずっと繊細だ。『風と共に去りぬ』で、メラニーのほうがスカーレットより強い女性ではないか。そう感じたことを思い出した。
今も女優として活躍する沢口に対し、宗教にハマって初対面の男性と結婚して引退した桜田。つい実生活とも重ねたくなってしまう。
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