給付金裁判「本質的に不健全」の衝撃 法的保護の外に置かれた性風俗業界の長い戦い

東京地裁

「セックスワークにも給付金を」――新型コロナウイルス対策で支給される持続化給付金や家賃支援給付金の対象から性風俗事業者を除外したのは、憲法が保障する「法の下の平等」に反し違憲だとして、関西地方でデリバリーヘルスを営む会社が給付金の支給を求めた訴訟の第1回口頭弁論が15日、東京地裁(清水知恵子裁判長)で開かれた。被告の国側は「性風俗業は本質的に不健全。支給の対象外としたことは合理的な区別だ」として争う姿勢だが、「不健全」という言葉が大きな反響を呼んでいる。

原告側によると、給付金を巡り、性風俗事業者が起こした訴訟は初だという。国のほか、給付金の事務局業務を担う企業2社に対し、2つの給付金と慰謝料など計約446万円の支払いを求めている。

訴状によると、会社は感染が拡大した昨年3月以降、売り上げが激減。同9月に給付金を申請したが支給されなかった。会社経営者の女性は「まるで嵐の中、性風俗業の者だけが裸で外に追い出されたように感じた。国による職業差別を許さないでほしい」と意見陳述した。

国側は答弁書で、「性風俗業は本質的に不健全」という理由で、従来の災害時などでも性風俗事業者を公的支援の対象外としているとして「国庫から給付金を支給することは、国民の理解を得ることが困難だ」と指摘した。

この国側の主張は衝撃を与えた。「本質的に不健全」の言葉に、ネット上では「恐ろしい職業差別だ」「ちゃんと税金を納めていれば受け取る権利はある。健全かどうかの問題ではない」などと批判が殺到したのだ。

ネット上の反応について、弁護団の亀石倫子弁護士は「国民の中に差別感情というものがあって、これまで性風俗事業者は声を上げることができなかった。職業差別が見過ごされ、性風俗というものが法的保護の外に置かれているということを私も含め、皆さんが知らなかった。今回、声を上げたことに対し、国が言葉に出したので、インパクトがあったのだと思います」と語る。

弁護団にとっても衝撃的な言葉だったというが、「我々には想定内でした」と亀石氏。

その理由について「風営法は風俗営業と性風俗営業を分けていて、前者は許可制、後者は届け出制となっている。国としては職業としてお墨付きを与えるわけにはいかず、本質的に不健全な営業だが目をつぶってやっているというスタンスです。ですので、それを言ってくる可能性はあると思っていましたが、ストレートに言ってきましたね」と説明した。

「不健全」という言葉は、個人の価値観や道徳観に左右される極めて主観的なものとあって、裁判を進めるにあたり、多岐にわたる分野の識者とディスカッションしていくという。

「『不健全だけど差別しちゃいけない』となるのか、『そもそも不健全じゃないです』となるのかがポイントとなる。憲法に違反する職業差別という結論にどういう理屈で結びつけるのか。難しい裁判になりますね」

持続化給付金については性風俗店の場合、従業員は店と業務委託契約を結ぶ個人事業主とみなされ支給対象となるが、店側は除外される。家賃支援給付金にも同様の規定がある。

「店が女性の労働力を搾取しているとみる人もいますが、店に守られている従業員はたくさんいる。性風俗業界にはいろんな事業者がいると思いますが、悪い方のイメージで語られることが多くて、一律に除外するという理屈は成り立たないんじゃないかと思う」と指摘した。

一説には「人類最古のビジネス」と言われるも、長きにわたり職業差別を受けてきた性風俗業。亀石氏は「個人的な意見」とした上で「性風俗営業に対する風営法のスタンスが見直されない限り、根本的な解決にはならないと思いますね」と語る。

長い戦いが始まった。

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