2020年度「東証1部・2部上場企業 不動産売却」調査

 新型コロナの影響で、上場企業の不動産売却が活発になってきた。2020年度に適時開示で国内不動産の売却を公表した東証1部、2部上場企業は76社(前年度59社)で、2016年度以来、4年ぶりに70社を上回った。譲渡益と譲渡損の差額はプラス4,416億5,200万円に達し、過去20年間で最大となった。
 2020年度は、コロナ禍で経営資源の有効活用や財務体質の強化が緊急の課題に浮上したほか、在宅勤務の広がりによる資産見直しが進み、不動産売却を押し上げた格好となった。
 譲渡損益を公表した74社のうち、約9割(構成比91.8%)が譲渡益を計上し、コロナ禍でキャッシュポジションを高める動きを反映している。  不動産を売却した76社のうち、直近の本決算や四半期決算で最終利益が赤字は30社(構成比39.4%)と約4割を占めた。業種別では、新型コロナが直撃したサービス業が9社で最多だった。
 売却土地面積が合計1万平方メートルを超えたのは23社(前年度17社)で前年度より6社増加。譲渡価格トップは日本通運の500億円、譲渡益は日本電気の470億円が最大だった。
 また、レオパレス21がホテルなど18棟を売却したほか、エイベックスの本社ビル売却(譲渡価格は非公開)、集計対象外だが電通グループの「電通本社ビル」売却検討など、大規模な不動産取引も目立ってきた。
 まだ、コロナ収束が見通せず、本社や事務所の整理統合・縮小などが進んでおり、2021年度も上場企業の不動産売却は活発に展開する可能性が高い。

  • ※本調査は、東京証券取引所1部、2部上場企業(不動産投資法人を除く)を対象に、2020年度(2020年4月~2021年3)に国内不動産(固定資産)の売却契約、または引渡しを実施した企業を集計、分析した(各譲渡価額、譲渡損益は見込み額を含む)。

資料は、『会社情報に関する適時開示資料』(2021年4月12日公表分まで)に基づく。東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益、または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合としている。

不動産譲渡

譲渡差益は4,416億円、過去20年で最大

 譲渡差益の総額は、公表した74社(前年度57社)で合計4,416億5,200万円(同1,956億5,600万円)(見込み額を含む)と、前年度の2.2倍に増え、2001年度以降では最大だった。
 内訳は、譲渡益計上は68社で、合計4,458億7,800万円(同1,985億9,100万円)。譲渡損計上は6社で、合計▲42億2,600万円(同▲29億3,500万円)だった。

公表売却土地総面積、177万平方メートル

 2020年度の売却土地総面積は、公表した63社合計で177万311平方メートルだった。単純比較では前年度(公表51社、合計518万6,047平方メートル)より約6割(65.8%)減少した。
 売却土地面積が合計1万平方メートルを超えたのは23社(前年度17社)で、大規模な不動産取引数は増えたが、面積では前年度のオークワ(422万5,803平方メートル)の反動が出た。

公表売却土地面積 トップは三井E&Sホールディングス

 公表売却土地面積トップは、持株会社で傘下に三井E&S造船(株)などを持つ三井E&Sホールディングス(東証1部)で63万7,803平方メートル。グループの事業再生計画により、千葉工場の土地の一部を売却した。
 2位は日本電気(東証1部)の13万8,877平方メートル。3位は日本通運の13万8,800平方メートル。

譲渡価額総額 公表19社合計で1,284億3,800万円

 譲渡価格の総額は、公表した19社(前年度22社)で合計1,284億3,800万円(同816億6,200万円)(見込み額を含む)と大幅に増加した。
 売却土地面積3位の日本通運が500億円でトップ。2位はジャパンディスプレイ(東証1部)で411億円。白山工場の土地、建物及び付帯設備等をシャープ(株)に譲渡した。3位は光村印刷(東証1部)の64億円だった。
 譲渡価額100億円以上は日本通運とジャパンディスプレイの2社(前年度同数)だった。

業種別はサービス業が最多の9社

 業種別では、サービス業の9社がトップだった。宿泊施設やアミューズメント施設の運営業者など、新型コロナの影響が大きい企業の売却が目立った。
 2位は、卸売業の8社。支社や事務所など自社所有の不動産をセールアンドリースバックを活用し、引き続き使用するケースもあった。3位は電気機器で7社、4位は小売業で6社だった。

 2021年公示地価(1月1日時点、国交省)によると、商業地の全国平均は下落に転じている。特に、宿泊施設や飲食店の集まる地域は下落幅が大きく、コロナ禍の影響で状況が一変した。
 2020年度の上場企業の不動産売却は、76社(前年度59社)と4年ぶりに増加した。資産の効率化や財務体質の強化に加え、新型コロナで働き方の見直しが進み、賃貸用不動産や自社のオフィスを手放すケースもみられた。中でも目立ったのが、事業所のセールアンドリースバックだ。不動産を売却後も賃借で利用する契約で、安定収益を望む不動産会社や金融会社と、資産の効率化や手元資金を確保したい会社の思惑が一致したようだ。
 コロナ禍で上場企業の不動産売却が活発に転じている。これまで資産価値としての有益性があった不動産だが、資産の効率化で所有からリースの動きも加速し、上場企業の不動産売却の動きが進みそうだ。

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