はとバス、コロナ禍での観光バスの稼働「GoToの一番良い時期でも4割ほど」 塩見社長 独占インタビュー(前編)

  新型コロナウイルスによる最初の緊急事態宣言から1年が経過した。昨春、今冬と2度の宣言を受け、ウイルスは変異株も広がり、新型コロナ収束は依然として見えない。行動への制限も続くなか、観光や周辺事業を支える業者に試練の日々が続いている。
 昨年9月に社長に就任した観光バス大手の(株)はとバス(TSR企業コード:290402638、東京都)塩見清仁社長は、2度目の緊急事態宣言の解除後、東京商工リサーチ(TSR)の取材に応じた。バス事業の現状を語った。

-コロナ禍真っただ中での社長就任となった

  私が就任したのが9月25日。「Go Toトラベル」の東京除外が解除された時期だった。その前には、当社の車庫で、稼働が止まったバスで迷路をつくり、4日間限定のコースを運行した。幅広い層に当社をPRして、就任当初は「いよいよ、これからだ!」という空気だった。だが、寒くなるにつれて第3波がやってきた。当社にとって再び厳しい時期を迎えることとなった。

-年末は再び緊急事態になりそうな空気感に

 あの頃は年明けに比べるとまだ明るい面もあった。ただ、予約がどんどんキャンセルになった。感染対策に関係なく、世間が“外出することを許さない”空気になった。

-年明け、緊急事態宣言が再発令された

 再発令以降、再び観光バスツアーを止め、経営する銀座キャピタルホテルの運営にも甚大な影響があった。宣言の2度の延長により、みるみる赤字幅が広がった。広がるというか、血が止まらない状態だ。11月ごろまではここまで落ち込むとは想像していなかった。
 しかし、年末も近くなり「感染者の増加はGo Toを実施したせい」とか、「感染拡大の原因の大元はGo To」と国会議員、専門家の間でそのような発言が目立ちはじめ、メディアでも大きく取り上げられた。観光=悪いこと、というイメージが付いてしまった。これは大変堪えた。

-観光をフォローする声が聞こえなくなった

 正月明けに各知事から緊急事態宣言の再要請があった際、今度は政府もGo Toに対し否定的な発言をした。あそこまで観光に否定的な発言が並ぶと、人々の観光に抱く気持ちは融けない。だから、年始以降はずっと耐えるしかない、そういう状況だった。

はとバス2021の1

‌インタビューに応じる塩見社長(3月下旬)

―宣言解除までツアーは全部止めていた

 3月に入り、小学校の遠足利用など、一部貸切バスの運行はあったが、それ以外はほとんどなかった。定期観光コースは全部止めていたし、東京都の教育委員会や私学も勿論動きはない。地方の東京着の修学旅行も全くなかった。観光はほぼゼロだった。
 私どものような100台以上のバスを保有する会社は、バスが動かなくても固定費は変わらずにかかる。

-Go Toのときの稼働率は?

 良い時で4割戻せたかな、という程度。その後は年末にかけ、1割程度までボディーブローのように落ち込んだ。1年ずっとこんな状況の繰り返しだ。「いつかは必ず夜が明ける」と思いながらやってきたが、こんなに長く続くとは。
 ただ、割得感から高級ホテルでの利用が一人勝ちとの報道もあったが、それ以外の利用でも相当の効果があったと思われる。はとバスに関しては、リピーターのお客さまが結構いらっしゃるが、初めてご利用される方や地域共通クーポンと併せて利用した方もいらっしゃった。

-3月22日から観光バスの営業を再開した

 ご予約も頂いて、それなりに動いてはいる。まだ再開して日も浅く、スタンバイしているバスも多いが、徐々にご利用いただけている。V字回復というのは非常に難しいが、ゼロだったところを1割、2割、3割と戻していくしかない。併せて、様々な場合で最悪のケースを想定しなければならない。例えば、「せめて6割、7割の集客に戻ってほしい」と思っても、4割しか戻らない可能性もある。そうなった場合を踏まえ考えておく必要がある。

-緊急事態宣言明けの運行状況は

 新型オープントップバス(2階建て・天井がないバス)の運用を開始したほか、都内や横浜などを訪れる定期観光コースもいくつか再開した。ただ、定員は「フィジカルディスタンス」を考慮した座席数に限定している。

-座席数を限定すると利幅が減るのでは

 こういう時勢だから、対策をいくら講じても「感染するかも」と不安に思う人は多くいらっしゃる。少しでも不安を払拭しなければならず、利幅が減ることは仕方のないことだ。他にも、車内でのマスク着用や、食事処が密にならないよう配慮をしたり、安心安全な運転を含めて感染防止対策を徹底している。

-他にはどんな対策を

 車内の抗菌コーティングや消毒、お客さまがお乗りになる際は、検温とアルコール手指消毒も協力してもらう。また、バスの中での食事・飲酒は原則禁止。バスガイドは進行方向を向いて業務をする。ただ、ガイドが進行方向を見ながら案内すると、お客さまの細かな様子が見えない時がある。
 また、先程も触れたが食事付きのプランでは感染症対策をしっかりしている飲食店をプランに組み込んでいる。お店が参加者全員を収容できて、かつ間隔もしっかりとれるような店舗だ。

-バス業者には数台程度の小規模な事業者も少なくない

 バス事業者が加盟する日本バス協会、東京バス協会には、小規模も含めて多くの会社が加盟している。いまは自分の会社に手一杯で、業界全体を俯瞰する余裕はあまりないが、インバウンドを相手にしている業者、例えば訪日観光客向けを主力に数台とか小規模で運営というような業者さんは大変厳しいと聞く。

-インバウンドの回復はいつ頃と見通すか

 しばらくは無理だと思っている。ワクチンが世界的に普及し、感染者の減少基調が世界レベルになったという段階にならないと難しいと私は思っている。
 観光を仕事にする上で、最高のシナリオを描きたくなる。少なくとも、インバウンドが今年後半に戻るとは考えにくい。国内ですら、出張などのビジネスでも東京を訪れる機会がかなり減っているのが現状だ。
 リモート会議も普及して1年が経ったが、意思決定したり、サービスを作っていく上で、リモートでは難しいこともあるということも分かった。だから、ビジネスの往来も今すぐには回復はできないが、いずれは戻っていくとみている。

-2019年まで売上は右肩上がりで推移してきた。ここに来て大きな減収となった

 当社保有のオフィスビル「Shinagawa HEART」(品川ハート)が開業したばかりで、2019年は増収だったが赤字を計上した。コロナ禍がなければ銀座キャピタルホテルの稼働も堅調だったため、今期は黒字化していたはずだった。赤字が3期続くことは避けたい。
  「銀座キャピタルホテル」は本館を閉めている状況だ。別棟2館(茜・萌木)は現在も営業している。ただ、本館の方は建物も老朽化しているので将来的には閉めなければならない。インバウンド目的にホテルの戦略を立ててきたが、ホテル事業の見直しも近いうちに選択しなければならない。

-ツアーの減少による取引先への影響は

 方々から「大変だ」と切実な声を聞く。これまでツアーに組み込ませてもらっていたお店も、閉店されているところもある。1月に閉店された魚料理の老舗・川甚さん(葛飾区柴又)も閉店の直前までお付き合いさせてもらっていた。共栄会という取引先が加盟する組織があって、旅館・ホテルや食事処、農園など様々な事業者が参加くださっている。多くの取引先で事業環境は厳しくなっていると聞く。

-観光バスを取り巻く課題は山積している

 新幹線や飛行機と同程度の換気が出来るにも関わらず、バスが密だという印象がまだ独り歩きしている。昨春、関西でコロナの感染が確認されたことが印象に残っている人も少なくないだろう。バスの換気の面についてPRはしているが、なかなか伝わりにくい状況だ。まだバスが進んで利用されるという状況には至っていない。飲食店も同様と思うが、この状況が今後もずっと続いたらどうなるのだろうとの思いだ。

-コロナ禍を経て、今後考えている施策は

 我々は旅をしたときにちょっと時間が空いた“旅中”の行動に困ることがある。そういった空き時間をどのように過ごすかを提案できれば良いと思っている。はとバスが長く培った東京観光のノウハウを生かしたい。
  例えば結婚式の出席で東京を訪れた人が、結婚式の翌日、ちょっと東京を観光して帰ろうとなった時、はとバスが助言、演出できる機会を設けられるように。ここから、地域の魅力を掘り起こす地方創生にもつなげたい。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年4月15日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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