オリックス投手の兄が掴んだ女子選抜初優勝 開志学園を頂点に導いた指導法とは?

開志学園・漆原大夢監督【写真:学校提供】

オリックス・漆原大晟投手の兄で開志学園の指揮官を務める漆原大夢監督

第22回高校女子硬式野球選抜大会(3月27日~4月2日、埼玉・加須市)で初優勝した開志学園。オリックスの漆原大晟投手の兄で、同チームの漆原大夢監督がFull-Countのインタビューに応じ、優勝までの道のり、指導者に転身した経緯、弟への思いなどを語った。前後編でお届けする。

27歳の青年監督が、男女を通じて新潟県から初の全国制覇をやってのけた。1回戦から準々決勝まで無失点で勝ち上がり、準決勝は京都外大西に3-2で競り勝ち、決勝は履正社に5-3で逆転勝ち。「優勝は取りにいって簡単に取れるものではありません。やっとですね。大会を通して1人ひとりが成長してくれました」と喜びを噛み締めた。

日体大を卒業後、開志学園男子野球部のコーチとして指導者の第一歩を踏み出した。2年目に女子野球部の監督を任され、初采配となった2017年夏の選手権でいきなり3位と躍進。だが、近づいたかに見えた頂点への道は平坦ではなかった。「1年目は大会まで3か月しか時間がなく、右も左もわからない中、男子に近いような形でやっていました。その後、女の子のことを知れば知るほど、女子野球の難しさが分かりました。勝つことの難しさを2年間痛感しました」と明かす。

最も悩んだのは適切な練習量だ。「男子とは筋力が違ったり、関節が緩かったり。男子と同じ量を求めると、怪我をしてしまいます。男子の場合は怪我をする前に自分でセーブできるのですが、女子はいい意味で手を抜かないので、違和感があってもやってしまう傾向もあって。低迷していた時は、肘、肩の故障で投げられる子がいなかったですね」と振り返る。

「“女子だからこれぐらいでいいんじゃないか”というのは失礼」

打開するため、コミュニケーションに時間を割いた。長い目で組んだ強化プランを丁寧にかつ理論的に説いていく。追い込む時期や練習量を落とす時期など、選手に体の状態を確認して話し合いながら進める。投手陣には肩、肘を強化するための目標球数を示し、週3日の場合と週2日の場合に分けて細かく管理している。

故障者は激減し、今回の選抜大会では、本格派左腕の柳沼未歩、エース右腕の柴田琉那、制球力を誇る左腕の遠山結と3本柱がそれぞれの長所を発揮して、守備からリズムをつくった。

失点の少なさに目が行くが、日体大時代4番に座っていた漆原監督が最も力を入れているのは打撃だ。「点を取られなければ、負けることはないですが、逆に点を取らないと勝つことはできないので。1年目から選手にはバッティングのチームを作ると伝えています」とこだわりを持つ。

飛ばす力、確実性、状況判断など総合的に指導する。ボールに対してバットを入れるラインなどスイングの基本から、どんな打撃をしたら相手が嫌がる“打線”となるのかを選手と会話を重ね、場面を想定して取り組む。例えば、配球を読みながら自分の有利なカウントに持っていく方法、右打ちや犠飛が必要な場面でどのボールを待って「どういうスイングで打つか」といった具合だ。

「“女子だからこれぐらいでいいんじゃないか”というのは失礼。それこそが差別なんじゃないかなと思います。女の子たちが将来野球に携わってくれたら、野球人口も増えると思いますし、私が持っているものを全て教えようと思っています」と高いレベルの知識や戦術眼を惜しみなく選手に注ぎ込む。

チームは順調にステップアップ。コロナ禍で春と夏の全国大会が中止となった昨年は、ヴィーナスリーグ(関東女子硬式野球大会)の代替大会で高校生の部、2年生以下の部、1年生の部と東日本3冠に輝いた。

今夏の全国高校女子硬式野球選手権大会では、追われる立場になる。「まずは目の前の相手に全力でぶつかろうと選手には話しています。力のある高校が多いので、今のままでは優勝できない。攻撃も守備も新しいことに挑戦して、引き出しを加え、また別の開志学園で臨みたいと思っています」と春夏連覇へ力を込めた。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)

© 株式会社Creative2