俳優・片桐仁、日本の近代美術の幕開けを飾る作品の数々に感嘆!

TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30~)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉えて、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。4月3日(土)の初回放送では、片桐が東京国立近代美術館で日本の近代美術の幕開けを物語る作品に浸りました。

◆日本の近代美術界に大きな影響を与えたセザンヌ

芸術家たちの思いが込められた作品の数々が、時に静かに、時に雄弁に語りかけてくれる美術館。そんな美術館を舞台に繰り広げられる名作の共演に、自らも造形作家として活動する俳優・片桐が感動の拍手を贈る「わたしの芸術劇場」。記念すべき初回放送では、東京都・千代田区にある日本初の国立美術館「東京国立近代美術館」に伺い、日本の近代美術の幕開けを物語る作品を鑑賞しました。

「東京都心にあるにも関わらず、ものすごく静謐で、昔から大好きな美術館」と片桐が話す東京国立近代美術館は、明治時代から現代に至るまで日本の近代美術の流れを汲む多くのコレクションを擁し、その数13,000点以上。国内最大級を誇ります。

そんな東京国立近代美術館の所蔵品ギャラリーで片桐の目に留まったのはポール・セザンヌの「大きな花束」(1892-95)。これは後の日本美術界に大きな影響を及ぼすこととなる名作ですが、「一目見てセザンヌって感じがしますね!」と片桐。さらには、「机があって不安定な感じ。どうしても平らな面を探したいのに平らがない感じ。(花瓶が)転がっていっちゃいそうな感じが、僕のイメージ」とセザンヌ論を語ります。

実際、これを含むセザンヌの作品にはさまざまな違和感があり、その1つが視点の違い。セザンヌは三次元を二次元の絵画に落とし込もうと多視点の画面作りを試みていました。同館の学芸課長・大谷省吾さんも「セザンヌは第一印象を大事にし、最初に感じた感動を平面にどう作り直したらいいのかをきっと考えたのだと思う」と解説。そして、その多視点の表現がざわめくような感じを生み出しているそうで、片桐も「(絵が)動いているというか、止まっていない感じがする」と言います。

さらに、19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍したフランスの画家アンリ・ルソーの「第22回アンデパンダン展に参加するよう芸術家達を導く自由の女神」(1905-06)を鑑賞した後、ヨーロッパで洋画を学んだ日本人の作品へ。

◆近代美術の新たな潮流を作った作品の数々

まずは、原田直次郎の「騎龍観音」(1890)。彼はドイツで油絵を学び、歴史画や宗教画のようなアカデミックな作品を精密に描いていましたが、この作品を見た片桐は「言ってしまえば変な絵ですよね……」とポツリ。すると大谷さんも同意し、さらには「発表当時、日本の画壇から相当貶(けな)された」と言います。というのも、それまで仏様に陰影や立体感を付けて描かれることがなかったから。これが日本で西洋画の技法が用いられた黎明期の作品で、当時は大きな批判を浴びながらも、ここから近代美術の幕を大きく開けることになっていきました。

続いては、セザンヌの"感じたままを自由に描く”を体現した洋画家・安井曽太郎の「奥入瀬の溪流」(1938)。この絵に対し「これは実験的な絵ですね……」と片桐。彼は本来写実が得意だったものの、パリに留学しセザンヌに陶酔。試行錯誤の上、自らのスタイルを確立しました。留学時代は成績優秀と聞いた片桐は「ちゃんと描こうと思えばそっくりに描けるんですね」と感想を述べます。

次は、大正から昭和初期にかけて活躍した洋画家・岸田劉生による「道路と土手と塀(切通之写生)」(1915)。彼もまたセザンヌやゴッホに傾倒しましたが、そこから「ものの実在感」、リアルを追求すべく変化。そんな岸田の作品を見て片桐は「岸田劉生は『麗子坐像』が有名ですけど、いろいろなタイプの自画像があり、器用にいろいろな技法を渡り歩いているイメージがあるんですけど、これに至るというのは上手い」と舌を巻きます。

そして、片桐が「すごいな……ダイナミック。このコントラスト。ゴッホ感もすごいですけど」と思わず声を漏らしたのは、萬鉄五郎の「裸体美人」(1912)。大谷さんによると、萬は美術学校時代とても優等生だったものの、西洋の動きに刺激を受け画風が変化。卒業制作でこの作品を提出し、最下位近くにまで転落したそうですが、それが今や国の重要文化財に。大谷さんは、「自己表現としての絵画の始まりを告げる作品と言っていい」と絶賛します。

日本の近代美術の幕開けを飾る作品の数々を体感した片桐は、「今から100年近く前のヨーロッパで起こった新しい絵画であるセザンヌとアンリ・ルソーを見て、当時それに影響を受けた日本人がみんな自分なりの作品を生み出そうとしているエネルギーが感じられて面白かった」と熱く話し、名画たちに拍手を贈っていました。

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<番組概要>
番組名:わたしの芸術劇場
放送日時:毎週土曜 11:30~11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00~8:25<TOKYO MX2>
「エムキャス」でも同時配信
出演者:片桐仁
番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/

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