世界20ヶ国、40の学校を見てきた私が考える「海外の教育を知る」3つの意義

2019年1月から、毎月連載してきた「世界の学校に飛び込んでみた」の企画、ついに今月が最終回となりました。毎月読んでくださった方、一度でも読んでくださった方々、そして今まさにこの記事を読んでくださっているあなたへの感謝の気持ちでいっぱいです。
最後の記事は、結局「海外の教育を知る」ってどんな意義があるの?というテーマです。世界20ヶ国の学校を訪れてきた私が考える3つの意義をお話いたします。

いいものは取り入れるため

海外の文化や制度を取り入れることは、ヨーロッパの義務教育制度を取り入れた明治時代はもちろん、平安時代でも、もちろん現代の令和でも、どの時代でも行われてきました。実際に海外の教育現場を見ていると、参考になる制度や取り組みがたくさんあります。

もちろん「海外の事例 = すばらしい」というわけではありません。そもそもの教育制度や文化も国ごとに違うため、どんな事例を取り入れるのか吟味は重要です。そもそも、法律的に日本ではできないような取り組みだってあります。

政策レベルではなく、現場レベルで実践できるような参考事例はたくさんあるのですが、今まさに私が注目しているのは「タブレットの活用」です。日本ではGIGAスクール構想がスタートして、多くの学校にタブレットが届いています。初めての取り組みなので、まさに今活用方法を学んでいる人もいると思います。

実は、約5年前のフィンランドでも似た状況がありました。タブレットの活用が苦手な先生がいる中でも、国や自治体の方針でタブレットの導入がどんどん進んでいきました。5年前に、フィンランドのとある小学校の先生に「タブレットの導入についてどう思いますか?」と質問したところ、このように話していました。

十分な研修を受けてタブレットが導入されているわけではないので、少し不安はある。でもこれからの教育で大切だとは思うし、校内研修を自分たちで協力して行いながら、導入を進めていきたい。

フィンランドでも、はじめから完璧な準備のもとでタブレットの導入が進んだわけではありませんでした。もちろん、今でも課題はありますし完璧とは言えませんが、フィンランドでは約5年ほど日本より早くタブレットの導入が進められたので、数々のノウハウがあります。GIGAスクール構想が本格的に始まった日本にとっては、参考になる事例がたくさんあるはずです。

ここではフィンランドのタブレット活用についての詳細は触れませんが、フィンランドの学校現場で大人気で、日本でもそのまま活用ができるWebサービスを1つだけ紹介します。Kahoot という、全員参加型のクイズの作成と出題が簡単に行える、ノルウェー発の無料Webサービスです。日本語でクイズを作ることは可能ですが、Webサイト自体は英語です。

Welcome back to Kahoot! for schools

どんな科目でも使えますが、良くも悪くもクイズの出題者には最低限の英語力は必要となりますので、英語の授業では特に活用しやすいと思います。具体的な活用は、こちらのサイトがわかりやすいのでオススメです。

<kahootの使い方紹介サイト(日本語)>

【オンライン授業にも】Kahootで授業をもっと面白く! ICT授業導入にも最適 | ciQba(ちいくば)

日本の良さを見つめなおす

「海外に行くことによって、日本の良さを再発見する」ーー海外留学や海外旅行に行ったことがある人にとっては、よくあることではないでしょうか。 ちなみに私は、海外のコンビニに行くたびに日本のコンビニのレベルの高さを実感します。

もちろん海外から学べることもありますが、あらゆる分野において、日本より海外の教育が優っているというわけではありません。海外の学校を巡ったからこそ、改めて自分自身が気づいた「日本の教育の魅力」をいくつか紹介します。

「給食を通じて、質の高い食育を行なっていること」や「掃除を通じて、公共の場を綺麗に使うことを学ぶ」など、この連載の中でも日本の教育の良さについては、何度か紹介してきたので、今日は違った事例も紹介します。

北欧やオランダの学校は、教育水準が高いことで有名ですが、日本の学校では当たり前の「あるもの」が、学校の敷地内にないことがよくあります。

それは、「土のグランド」です。もちろん学校によるので、一概には言えませんが、ヨーロッパの学校では、コンクリートで舗装されている校庭をよく見かけます。休み時間に、コンクリートでサッカーをしている子どもたちもいますが、スライディングなんてしようものなら血まみれになってしまうので、軽くボールを蹴るぐらいです。

そもそも日本の「部活」という文化は世界的にも珍しく、ヨーロッパでは放課後や休日にスポーツをするなら、地域のスポーツクラブに行くのが主流です。私はもともと「ヨーロッパでは、校庭に芝生があるんでしょう?」というイメージだったのですが、それはスポーツクラブのグランドのイメージだったようです。公立学校の中に芝生の校庭があることは、主流ではありません。

ヨーロッパの学校を視察してからは、学校に大きな土のグランドがあることが、いかにすごいことかを実感するようになりました。ちなみに、プールが公立学校の多くに備わっていることも、世界的には珍しいです。

と同時に、これほど充実した体育設備が整っているからこそ、放課後や休日における体育設備の貸し出しは、さらに有効的に行えるのではないかと感じています。

当たり前を見なおす

最後の3つ目を一番実感したのは、世界各国の制服や髪型のルールがあまりにも違うことを知ったときです。

まず、私にとって意外だったのは、想像していたよりも「制服」があることが主流の国は多かったことです。イギリス、インド、フィリピン、タイ… など、制服の着用が主流の国は多くあります。日本の学校で、服装指導が話題になることはよくありますが、線引きに悩みがあるのは日本だけではないようです。

そして、もう1つ意外だったのが、髪型や染髪のルールも国や学校によってはあるということ。フィンランドでは比較的寛容な学校が多く、緑色に髪を染めた小学生に会ったこともあります。一方で、国や学校によっては完全に自由というわけではなく、たとえば赤や青など原色系の染髪は禁止されているという学校もあります。

一方これだけは日本特有の話であり、大きな課題であると感じることがあります。それは、「髪が真っ黒ではない人に対して、指導があること」です。

世界各国(特に多民族国家では)で「アイデンティティを否定すること」は決してしないよう、ものすごく注意がされています。生まれ持った肌の色や、髪の色への否定は、校則どころか人権に関わります。「うちの学校では地毛証明書を提出したら、黒染めしなくてもいいので大丈夫です」という感覚は、ほとんどの海外の国では驚かれてしまうでしょう。

(染髪自体を禁止するかどうかの議論はさておき)染髪が禁止されている学校で、髪が真っ黒ではなく「染めている可能性がある生徒」に、地毛証明書の提出を求める場合。百発百中で見ただけで判断できるならともかく、もしも教師の勘違いだったらどうするのでしょうか。たとえ「疑い」であっても、生徒からすると「アイデンティティを否定された」あるいは「自分の言葉を信じてもらえていない」と思っても無理はありません。

予想を外してしまえばこんなにもリスクの大きい「ダウト」をしてまで、型にはめた頭髪規制を行う制度は、見直しが必要な時期がきていると私は思います。

私は高校生の頃までは「髪色は黒ではないといけなくて、少しでも茶色なら地毛証明書の提出をするのは当たり前」と思っていたのですが、海外の学校を見る中でこの「当たり前」を見つめ直せるようになりました。

もちろん頭髪規制を始め、教育のルールや制度は、いろいろな意見があって当然なので、ここでは頭髪規制について熱く語りたいわけではありません。私の意見への反対意見ももちろんあると思います。このように「海外の教育を見ること」で、今まで気づかなかった課題に気づいたり、健全な議論をするきっかけになるというのが、私の考える3つ目の意義でした。

海外の教育について興味をもってほしい

いかがでしたか。「いいものは取り入れるため」「日本の良さを見つめなおす」「当たり前を見なおす」この3つこそが「海外の教育」を知ることの大きな意義だと思って、これまで海外の教育の情報発信をしてきました。連載はこの記事で終了となりますが、これからもぜひ海外の教育について興味をもってもらえるとうれしいです。

これまでの【世界を旅しながらその土地の教室に飛び込んでみた】は

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