最大4部屋しか販売しない、1泊1,500円で大浴場&エアコン完備の「三輝」【はんつ遠藤の大阪・西成C級ホテル探検(6)】

出張で大阪へ伺う際、僕はいつも大阪・西成のホテルに泊まっている。

1泊素泊まり1.5畳シャワートイレ共同で1,100円(以下、いずれも税込)、3畳で同じく共同だが大浴場があり1,400円など、いずれも個性的で味わい深いものがある。さまざまな方に「なぜ、そのような場所に?」と聞かれるが、自分としては低価格だし、この広さで充分なわけで、治安の面でも、以前に三角公園で暴動があった時代とはうって変わって、他の地域と遜色ない安全性を保っているから問題ない。

コロナ禍とはいえ、現在も月に1~2回は大阪へ赴くので、数年に渡ってインターネットで西成のホテルをチェックしている。おかげでホテル名を聞けば、地図も見ずに現地へ到着できるまでには、なった。だが、最近になって、自分にとって知らない名前のホテルに遭遇した。それが「三輝(さんき)」。

とても不思議なホテルで、楽天トラベルを見ていても、出てくる時と出てこない時がある。そのシステムは良く分からないが、予約可能な場合でも、相当先の日程までチェックしても、常に「残り4部屋」なのである。写真などをチェックすれば建物自体は9階まである。1泊素泊まりバストイレ共同、大浴場、エアコン完備で1,500円。

「なんだろう?」僕は、とても不思議に思い、宿泊してみることにした。

大阪メトロ動物園前駅に到着したのは午後8時30分ごろだった。緊急事態宣言は解除されたが、大阪市は時短要請ゆえに飲食店の営業は午後9時まで。なので、まだ営業している飲食店は駅前にも数軒見受けられた。

徐々に人の往来も増えているように感じた。ふと見ると、日雇い労働者さん向けと思われる求人募集の張り紙もあった。日給13,000円。福島県の海岸での貝がら回収作業と書かれていた。

驚いた事に「ホテル三輝」は、動物園前の交差点から西へ約3分。この界隈では有名な、24時間営業している居酒屋「八福神」(現在は時短要請で午後9時まで)の数軒西側で、駅前を東西に走る大通りに面する便利な立地だった。今まで何度も向かいを通りすぎていたのに、全然、気づかなかった。

そして僕は戸惑った。チェックインは午後11時までOKとあったので午後9時到着予定と予約して、ちょっと前の午後8時30分に到着したら、すでに玄関はシャッターが下ろされていたのだ。

「どうしよう?電話してみようか」などと思いつつ、少々おろおろしていると、「← Sub entrance」と書かれた立て看板を発見。と、同時に左側からフロントの方らしき推定60代の男性が出てきた。

「遠藤さん?こっちや、こっちや!」

「兄ちゃん、ずっと待っとったんやでー」

そう言われても到着予定時刻は午後9時なのだが、と思っても、ここは彼に従おう。

「いいか兄ちゃん、中に入る時は、な、この扉はロックされとるから、こういう風に暗証番号を押すんや。やってみぃ?」

言われるままに番号を押し、暗記する(結局、その後、操作方法を書いた紙をくれたが)。そして中に入ったら、約10分間のレクチャーが始まった。

僕は、まるで、ディズニーランドのアドベンチャーに参加しているような気分になってきた。

「夜は玄関のシャッターは降りるが、門限は無いので、今みたいに暗証番号を押せば、脇から出入りできるからな」

分かりました!

「それと、大浴場は今日はお休み」

え?、水曜、日曜以外は入れるのでは?

「最近は、金曜もお休みなんよ」

な、なるほど。

「洗濯機とシャワールームは、奥の部屋にあるけど、21時で扉の鍵を閉めるけん、朝に入りや」

え?、もう入れないんですか?

「鍵を閉めるけん、朝に入りや」

は、はい!

ふと見れば、シャワールームがもうひとつ、廊下のところにあったが、工事中と書かれていた。こちらは工事中なんですね?

「ちゃうねん。今はコロナでお客さんが少ないので、使わせないように、こう書いているだけや!」

ええええ?

その後もフロント前で、紙に住所、氏名、電話番号を記入すると、またレクチャーは続いた。ちなみに館内は靴を脱いで、スリッパを使用。自らの靴は部屋へ持って行くスタイル。部屋は7階のようだ。そして管理人さんは言った。

「他の階には行ったらあかんで!!」

僕はとても気になったので、伺ってみた。他の階は、どなたか住んでるのでしょうか?

「いろいろやねん。長期で住んでる方もおるしな。インターネットで予約できるのは7階だけなんよ。1階のシャワールームもインターネットで予約した人だけが利用できるんよ」

あとあと調べてみたところ、2階から6階と、8、9階は、電話予約だったり、長期だったりで借りている方の他、生活保護などの支援団体も関わっていて、さまざまな方が居住しているようだ。

その後、僕はせっかくなので今日は使用できない大浴場や、午後9時に閉まる洗濯機&シャワールームのある部屋などを撮影だけさせてもらい、エレベーターで7階の部屋へと向かった。

それにしても張り紙の多いホテルだ。

事情が事情なだけに仕方がない気もするが。

エレベーターは清潔で、7階の廊下も古さはあるものの、清潔に保たれていた。

そして鍵を開け、部屋に入って、また僕は驚いた。広い!

縦長だが、3畳では全くなく、おそらく4畳以上の広さを保っている。洋室タイプでベッドがあり、ちょっとしたテーブル&椅子も。テレビも冷蔵庫も完備され、エアコンまで。

しかもエアコンはオンになっていて、温かいというより、暑いくらいだ。

歯ブラシは、なぜか2つ。それとバスタオル。

さらに、Wi-Fiも速度の問題も無く、無料で使用できた。

そして各階にはキッチンと洗面台、その奥にトイレがある。

昭和的な作りであるが、思ったよりもずっと清潔感がある。不思議なのはインターネットでは7階しか予約を受け付けていないとはいえ、20部屋ある。でも最大4部屋までしか予約できないという事は、あまり稼働させていないのだろうか。

そしてとても気になったので、言いつけを守らずに僕はこっそり6階を見に行った。7階だけピカピカで、他の階はおどろおどろしい事になっているのでは?という邪推は、着いた瞬間に打ち消された。

7階と全く同じ。もっとも、入居者は、ほとんどいないような雰囲気だった。

その後、僕は午後9時30分ごろに夕食などのために、また外へと向かった。

大阪市の飲食店は午後9時までの時短営業要請中ゆえに、さきほど営業していた店舗もシャッターが下ろされ、また飲食店は全く営業していなかった。路上生活者さんたちはすでに深い眠りについているのだろう、まるで深夜のような静けさがただよう。

そして、僕はいつもの如く、コンビニでお寿司&アルコールなどを購入し、部屋へ戻り、イヤフォンを用いてWi-FiでYouTubeの音楽を聴きつつ、食事を取ったり、Facebookをしたりしつつ、そのうち眠った。

あくる日、朝8時。シャワールームへと向かえば、すでに部屋の扉は開けられ、ちょうど誰も使用していなかったので、ゆっくりとシャワーを浴びることができた。こちらも清潔感があり、シャンプーやボディソープも完備。部屋には歯ブラシはあったが、使い捨てのシェーバーは無い。でもこれは、西成のホテルではよくあること。当然に、持参しているので問題は無い。

しかもチェックアウトが午前11時までOKなのである。これで1泊1,500円はお値打ち。ましてや大浴場も使用できたら、どんなに快適であろうか!

そう思った瞬間、僕は、ひとつだけ失敗したことに気づいた。ドライヤーが、無い。おそらくフロントが稼働している時であれば借りられるのであろうが、フロントはまだシャッターが下りたままだった。

仕方がないので部屋へと戻り、そしてすぐ、午前8時30分にチェックアウト。鍵は部屋にそのまま置いて帰るという、珍しいシステム。

西成の朝は、晴れていた。僕は髪が生乾きのまま、仕事へと向かった。

■プロフィール

はんつ遠藤

1966年東京生まれ。早稲田大学卒。不動産会社勤務を退職後、海外旅行雑誌のライターを経て、フードジャーナリスト&C級ホテル評論家に。飲食店取材軒数は1万軒を超える。主な連載は「週刊大衆」「Ontrip JAL」「東洋経済オンライン」など。著書は「取材拒否の激うまラーメン店」(廣済堂出版)など27冊

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