美術館で働く人々の経済状況、ゴッホを売り込んだ人物が判明、卒展で作品を買う心得など:週刊・世界のアートニュース

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いま、世界のアート界では何が起こっているのか? ニューヨークを拠点とする藤高晃右が注目のニュースをピックアップ。今回は、4月3日〜16のあいだに世界のアート系メディアで紹介されたニュースを「コロナのアート業界への経済的インパクト」「アートフェアの様々な対応」「できごと」「おすすめの読み物」の4項目で紹介する。

カリフォルニアにあるオークランド美術館 出典:Wikimedia Commons(Californiathegreat)

コロナのアート業界への経済的インパクト

◎美術館で働く人々の深刻な経済状況
アメリカ美術館同盟が美術館で働く人々対象に行なった調査結果はやはり深刻なものだった。約4割がパンデミック中に収入を失い、2割が今後3年のうちにキャリア変更を考えている。また有色人種は特に厳しい経済状況に置かれているなど。現在職につけていない人からの調査結果が得にくいので、現実はさらにひどいのではとのこと。
https://www.artnews.com/art-news/news/museum-workers-pandemic-impact-survey-american-alliance-of-museums-1234589706/

◎やむを得ずリストラへ
プログレッシブな美術館運営でリストラをできるだけ避けようとしてきた、カリフォルニアのオークランド美術館でも約15%の従業員のリストラに踏み切らざるを得ない状況に。全従業員の就業時間を減らしてリストラを防ごうとしていたが、去年3月から1年以上閉館中で3億円弱の収入減に陥ったことが原因という。
https://www.artforum.com/news/oakland-museum-of-california-cutting-staff-restructuring-85429

◎ロックダウンで政府を訴訟
3度目のロックダウンに入ったフランスでギャラリー協会はロックダウンが表現の自由などいくつもの権利を阻害するものだとしてフランス政府を相手取って訴訟に。またオークションは通常通り展示、競売できるのも不公平だと。
https://www.artnews.com/art-news/news/france-covid-lockdown-galleries-1234588998/

◎ギャラリーに下された判決
ギャラリー協会からの訴訟に早速判決が出て、ギャラリーはロックダウン中に閉鎖しなければいけないという結論に。
https://news.artnet.com/art-world/french-galleries-cant-reopen-1959597

アートフェアの様々な対応

◎アートバーゼル香港は規模を縮小へ
アートバーゼル香港は5月にオフラインで開催予定だが、フェアの規模は半分以下に。海外からの渡航者が21日間も隔離しなければいけないことになっており、コレクターだけでなく、出展ギャラリーも海外から香港に来るのがかなり困難な状況に。海外からの出展画廊の大半はギャラリスト本人ではなくフェアが雇った現地の従業員が接客するゴーストブースになるとのこと。
https://news.artnet.com/market/art-basel-hong-kong-2021-exhibitors-1957587

◎中止、規模縮小などさまざまな対応のFrieze
Frieze アートフェアのロサンゼルス版は通常の2月から今年は7月に延期されていたがやはり中止が決定した。来年2月に会場を街中に変更して開催することに注力するとのこと。NYのFriezeは5月に規模を大幅に縮小して開催予定。
https://news.artnet.com/market/frieze-cancels-its-2021-los-angeles-fair-1958013

◎Expo Chicagoもキャンセルへ
Frieze LAやTEFAF New Yorkが2021年版をキャンセルしたのに続き、Expo Chicagoも今年はキャンセルを決定。これまで9月に開催してきたが、2020年に、今年の4月に延期したが、状況が改善しきっていないという判断。来年からは4月の開催に変更して、その後少なくとも2024年まで4月での開催を発表。
https://www.artnews.com/art-news/news/expo-chicago-2021-canceled-1234589685/

できごと

◎出品中止の意外な理由
史上最高額で取引きされたダヴィンチの《サルバトール・ムンディ(救世主)》がルーブルの2019年のダヴィンチ展への出品中止になったのはルーブルが真偽を疑ったからではなく持ち主のサウジアラビア王子が《モナ・リザ》の隣での展示を主張したが聞き入れられなかったことだったという。ルーブルで最も人気の《モナ・リザ》はそもそも、特別展のダヴィンチ展とは別のいつもの常設展示の場所で展示されるわけで、そこにもう一つメジャーな作品を追加するのはセキュリティ上リスクが高すぎるという判断で、両者が合意できなかったという。
https://news.artnet.com/exhibitions/salvator-mundi-louvre-mona-lisa-1958303

◎アイ・ウェイウェイがデザインした家
アイ・ウェイウェイがデザインした北米唯一の邸宅がNY郊外にあり、5億円強で売却されたとのこと。3ベッドルームの本邸と2ベッドのゲストハウスにプールが約4.6万坪の敷地に建っている。それでも彼の立体アート作品の最高額よりは安いという。
https://news.artnet.com/art-world/ai-weiwei-designed-house-sells-1957266

◎日系人強制収容所で描かれたドローイングが出品中止へ
第二次世界大戦中のカリフォルニア州マンザナー日系人強制収容所で描かれたドローイングがebayでオークションにかけられていたが、様々な日系人コミュニティからの批判を受けて落札前に取り止められた。Matsumuraとサインされているそう。
https://news.artnet.com/market/ebay-japanese-internment-sale-1957517

◎卒展で作品を買うなら
春は美大の修士卒業展であるMFA展の季節。こちらはそこでの購入を考えているコレクター向けのアドバイス記事。今年はオンラインでの展示が多いこともあり、オンラインで展示を見て、作家をしっかりオンラインで調べて、SNS経由で直接コンタクトして、投資ではなく気に入ったものを買いましょうと。また、キャリアがこれからの学生であることをしっかり理解したうえで、値切らない、すぐにオークションで売って目先の利益を出そうとしたりしない、作家を育てるためにも買った作品をいろいろな場所で見せる努力をしてくださいと。
https://www.artsy.net/article/artsy-editorial-responsibly-collect-work-mfa-students

◎コレクターとしてのロクサーヌ・ゲイが語る
NY Timesなどの媒体への執筆で有名な著述家でイェール大学でも教鞭をとるロクサーヌ・ゲイは最近アートコレクションをはじめたそうで、コレクションについてインタビューに答えている。素晴らしいコレクションを紹介しているが、同時に彼女自身マイノリティとして、業界的な偏見に基づくいやな経験もあったとし、そもそもギャラリーがお高くとまって客や従業員をひどく扱うのをやめるべきだと。
https://news.artnet.com/art-world/roxane-gay-collecting-interview-1958221

◎メガコレクターが遺した作品のゆくえ
サムソン元会長の李健熙(イ・ゴンヒ)が残したアートコレクションが遺産相続支払いのためにオークションにかけられるのではと韓国内で懸念されていたが、半数以上が韓国各地の美術館に寄贈される予定であることがわかった。コレクションの鑑定の結果1~3000億円程度の価値があるとのこと。
https://www.artnews.com/art-news/news/lee-kun-hee-samsung-collection-south-korea-museums-1234589709/

◎ハウザー&ワースの13店目がオープンへ
メガギャラリーの一つ、ハウザー&ワースが13店目としてモナコにギャラリーを6月にオープンすることがわかった。ルイーズ・ブルジョワの展覧会が杮落としだという。また、コロナで延期されていた地中海のメノルカ島の巨大ギャラリー兼レジデンスもマーク・ブラッドフォード展で7月にオープン予定で、ニューヨーク、ロンドンなどのマーケットの中心地である大都市だけでなく、富裕層が集まる小規模な地域にさらに進出していく戦略。
https://www.artnews.com/art-news/market/hauser-wirth-opens-monaco-location-1234589846/

◎政治状況との関連は否定
開館予定の美術館M+を巡って、本土よりの政治家などから圧力がかかっている状況だが、そのM+を含む西九龍文化地区のアメリカ人パフォーミングアーツ芸術監督のアリソン・フリードマン(Alison Friedman)が4年働いた後に辞任した。本人は両親のケアのためにアメリカに戻るとして、政治状況との関連は否定しているが。
https://www.scmp.com/lifestyle/arts-culture/article/3129385/amid-fresh-pro-beijing-attacks-hong-kong-arts-hub-loses

◎富裕層の増税はいかにアートマーケットに影響するか
NY州は、文化施設を含む中小企業へのコロナ助成金配布と同時に、富裕層(約1億円以上の年間所得)への州所得税の増税を検討中だが、それらがいかにアートマーケットと寄付に影響を与えるかを分析した記事。文化施設への助成金よりも富裕層の増税のほうがマイナスに響きそうだが、まだ大きな影響はなさそうだと。まだ富裕層が州税のないフロリダなどへ大量脱出するまではいかないだろうという分析。
https://news.artnet.com/opinion/gray-market-new-york-budget-1958868

おすすめの読み物

◎ゴッホを売り込んだ人物が判明
ゴッホの死後1年後に唯一の理解者で精神的にも経済的にもゴッホのすべてを支えていた弟のテオも亡くなってしまった。生前には評価されていなかったゴッホを死後に売り込んだのは誰かというのはあまり知られてこなかった。それが、じつは大量のゴッホの作品と赤ん坊とともにたった一人残されたテオの妻・ヨハンナ・ファン・ゴッホ=ボンゲルだったことが日記の研究から明らかに。まったくのアートの素人だったこと、女性ということで苦労したようだが、強い信念で彼女がゴッホのキャリアをつくっていった様子がわかる。長文だがオススメの記事。
https://www.nytimes.com/2021/04/14/magazine/jo-van-gogh-bonger.html