【レースフォーカス】カムバックレースでM.マルケスが冷静に見極めた自分自身/MotoGP第3戦ポルトガルGP

©株式会社サンズ

 MotoGPにマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)が帰ってきた。第3戦ポルトガルGP、9カ月ぶりに挑んだ決勝レースで、マルケスは7位でフィニッシュを果たした。少しずつ確実に、マルケスはMotoGPライダーに戻ってきた。
 
 マルケスは2020年7月のスペインGP決勝レースで転倒し右上腕骨を骨折。2020年中に3度の手術を受け、2021年シーズンは公式テストから第2戦ドーハGPまで欠場を決断していた。
 
「そわそわしているよ。いつもとは違う」と、木曜日の記者会見でマルケスは語った。マルケスと言えど、さすがに9カ月ぶりのレース復帰は緊張をともなうものだと思わせる言葉だった。けれどそのあと「それ(緊張)はフリー走行1回目が終わるころにはなくなるだろうけれどね」と続けたところがマルケスらしい。

「この週末は特に目標はない、とチームスタッフに言った。僕は以前と同じマルクじゃないだろう。時間が必要なんだ。僕はまだ、身体的にも、メンタル的にもリハビリの途中だ。でも、ここに来られてうれしいし、バイクに乗るのが待ちきれないよ」

2021年MotoGP第3戦ポルトガルGP マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 決勝レースは2列目6番グリッドからのスタート。マルケスにとって、ポルトガルGP開催地であるアウトドローモ・インターナショナル・アルガルベのMotoGPレースは初めての経験だ。3月中旬にはプライベートテストを行ったが、レギュレーション上MotoGPマシンを走らせることはできないため、それは市販車のホンダRC213V-Sで行われたものだった。
 
 マルケスは好スタートを切って1コーナーに4番手で入った。「ホールショット・デバイスによるスタートは初めてだったけれど、うまくいった」と、レース後に語っている。マルケスは自身の身体の調子を取り戻しながら、サーキットやマシン、タイヤ、そしてこうした新たなシステムにも順応していったのだ。
 
 オープニングラップでマルケスは、己のペースを自覚した。自身のレースペースは、このときに走っていたポジションが適切なものではないと感じたという。
 
「僕にはペースがなく、バイクをコントロールもできなかった。みんなが僕をオーバーテイクし始めた。でも、僕は落ち着いていた。争うのではなく、ただ自分のポジションを見出そうとした。まもなく自分の位置を見極めて、自分のレースを始めたよ」

「しばらくレースをしていなかったのだから、ほかのライダーの後ろでのブレーキはとてもとても難しかったよ。コーナー進入では僕はほかのラインがとれなかった。周回数をチェックしたら残り12周だろうと思ったんだけど、まだ残り18周もあった。それで、『オーケー、深呼吸しよう』と自分に言い聞かせた。もしそうしていなかったら、レースをフィニッシュしていなかっただろう」

 終盤には前を走るアレイシ・エスパルガロをとらえようとも考えたという。けれど、この日の目標はそこではないと体が訴えた。完走が大事だ、と。マルケスは7位でチェッカーを受けると、ピットボックスに戻りチームスタッフや関係者に拍手で迎えられた。手を頭にやり、湧き上がる感情に耐えているような様子が映し出される。ここまで会見でも金曜と土曜後の取材でも笑顔を浮かべていたマルケスが、このときばかりは感情に支配されていた。
 
 カムバックを果たしたマルケスだが、まだ完ぺきな状態ではないという。
 
「(元のようなライディングスタイルを取り戻すのには)どのくらいかかるのかわからない。体に負担がかかるサーキットかどうか、などにもよると思う。例えば、今日の残り7周では、ひじを着くことができなかった。すごく変なライディングスタイルだった。でも、ほかにどうすることもできなかった」

 今後もドクターのアドバイスに従いながら、体の状態を取り戻していくということだ。マルケスの“完全復帰”は果たしていつになるのか。今大会の慎重な事の進め方を見れば、性急にはしないだろう。とはいえ、これまで規格外のことをやってのけ続けたマルケス。その日はそう遠くはないだろうとも思えるのである。

2021年MotoGP第3戦ポルトガルGP マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)

 

■中上、大クラッシュ、最後尾スタートからの10位フィニッシュ

 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)の第3戦ポルトガルGPはなかなか劇的なものだった。中上は決勝レースを10位でフィニッシュ。今季初めてポイントを獲得した。この10位には、おそらくそのポジション以上の意味がある。というのも、中上は初日のフリー走行2回目で大クラッシュを喫し、痛めた右の鎖骨の状態をおしての出走だったのだ。

 その転倒はフリー走行2回目序盤に起こった。アウトラップを終え2周目、1コーナーにハイスピードで突っ込んだのだ。中上自身はメインストレートから下った1コーナーに入るところでマシンから離れたが、そのときに右肩を打った。右肩は問題なかったものの、右の鎖骨を痛めてしまった。

「アウトラップからフロントのブレーキディスクの温度が低いと感じていました。ストレートエンドで1コーナーへのブレーキの準備に入ったとき、フロントブレーキのタッチが少し鋭すぎたのだと思います。それでフロントブレーキの温度が急上昇して、リヤタイヤが浮き始めました。マネジメントしようとしたのですが、一瞬でした。再びタイヤが地面に触れたとき、バイクのバランスを完全に失ったんです。バイクやブレーキの問題ではないです。この状況では運が悪かったですね」

 予選日のフリー走行3回目では数周走ってピットイン。痛み止めを使ってもひどい痛みがとれず、ブレーキングでバイクをホールドすることもできない。中上はこの日、フリー走行フリー走行4回目と予選を走らないという決断を下した。この日に体を休ませ、うまくいけば決勝レースに出走できるかもしれないと考えたからだ。
 
 その決断は功を奏したようだった。「(日曜日午前中の)ウオームアップセッションのあと、フリー走行3回目のときより体の状態がいいとわかりました。そこで、レースに出ることを決めたんです」と言う。
 
 予選を走らなかったことから、最後尾グリッドからのスタート。それでも好スタートを切って、10位でチェッカーを受けた。
 
「体が万全ではなかったので、厳しいレースでした。でも、トップ10でフィニッシュできるとは思っていなかったので、いい日になりました。ブレーキングではバイクを抑えるのが大変だったけれど、この状態で10位でフィニッシュできてとてもうれしいです」

 厳しい週末となったカタールでの開幕戦と第2戦を経て、痛みを抱えながらも10位という結果を手にしたポルトガルGP。ヘレスで行われる第4戦に向け、少なからずよいステップになったはずだ。

2021年MotoGP第3戦ポルトガルGP決勝(6) 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)