珍しい「6-5-3」併殺はなぜ起きた? NPBで広まってもいい「守備シフト」の有効性

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DeNA・佐野恵太【写真:荒川祐史】

極端なシフトが効果を発揮した4月13日のヤクルト対DeNA戦

4月13日に行われたヤクルト対DeNA戦で奇妙なプレーが起こった。9回に4点を追うDeNAは無死一塁の場面で、4番の佐野恵太が打席に立った。佐野が放った打球は二塁寄りの遊ゴロ。併殺コースの打球となった。遊撃手はゴロを捕球し、二塁ベースカバーに入った選手にトス。ピボットもうまく決まり一塁に送球。ダブルプレーが完成した。

これだけを聞くと特に違和感を覚えないだろう。しかし、このダブルプレーで二塁ベースカバーに入ったのは、サードを守る奥村展征だった。めったに見られない走者一塁からの「6-5-3」のダブルプレーが完成したわけだ。

どうしてこのような奇妙なプレーが発生したのか。それはヤクルトが佐野に対して、極端な守備シフトを敷いていたからだ。ヤクルトはこの時、サードを守る奥村を二塁後方に配置。ショートはほぼ定位置にいたためサードとの位置関係が入れ替わるかたちとなった。ちなみにセカンドの山田哲人は本来よりかなり一、二塁間寄りに配置されていた。

ヤクルトが敷いた「佐野恵太シフト」【画像提供:DELTA】

ヤクルトはこの試合、この打席に限らず、佐野に対してシフトを敷いた。7回の第3打席は走者がいなかったためか、ダブルプレーとなった第4打席に比べ、セカンドの山田がより後方、右翼に近い位置を守っていた。そして、佐野の放ったライナーは山田の正面を突いた。本来の守備位置ならば、内野の頭を越え、間違いなく安打となっていたであろう当たりを、シフトによってアウトにしている。少なくともこの試合においてはシフトの効果がはっきりと表れた。

守備シフトを敷く根拠となるDeNA佐野の明確なゴロ傾向

ヤクルトがこうしたシフトを敷く根拠は佐野の打球傾向にある。図には、昨季における佐野の打球がフィールドのどの位置に飛んだのかをプロットしている。プロットは緑色がゴロ、青色がフライ、赤色がライナー、黒色が本塁打を表している。

2020年、DeNA・佐野恵太の打球プロット【画像提供:DELTA】

これを見ると、緑色で表した佐野のゴロはほとんどがセンターからライト寄りに飛んでいることがわかる。ライト方向に比べると、レフト方向へのゴロはわずかだ。一方、青、赤で示したフライやライナーは全方向に満遍なく散らばっている。ヤクルトはおそらくゴロの偏りに注目して、ライト寄りに内野手を集中させるシフトをとったのだろう。こうした佐野の傾向は2020年に限った話ではなく、これを見れば、定位置に固執するほうが不自然とも感じられるのではないだろうか。

もちろん打者側から見れば、こうしたシフトに対し、レフト方向を狙い打つという選択肢も存在する。そうすれば安打の確率は上がるかもしれない。ただ、佐野は昨季20本塁打を放った長打力のある打者でもある。本来のスイングから離れ、レフト方向を狙うスイングを行えば、本塁打を放つことは難しくなるだろう。

シフトを敷いたヤクルトからすると、レフト方向を狙う打撃をされたとしても、佐野の長打力を低下させるというメリットを得ることになる。そして、プロの投手の球を自在に打ち分けるのは、口で言うほど容易なことではない。レフト方向を狙ったとしても、そう簡単に安打が出るわけではないだろう。このような考えのもとで守備シフトというものは実行されている。

佐野だけでなくNPBにはゴロが引っ張り傾向となる打者は多数いる

さて、今回は佐野が特別なシフトを敷かれたわけだが、これはなにも佐野だけに有効なシフトというわけではない。ゴロが引っぱり方向に飛びやすい傾向をもつ打者はNPBに数多くいる。今回は2020年、ゴロが引っぱり方向に飛ぶ割合(※1)が高かった打者をランキング形式で紹介する。

○2020年ゴロが引っぱり方向に飛ぶ割合が高かった打者

L・マーティン(ロッテ)63.9%
柳田悠岐(ソフトバンク)61.6%
山川穂高(西武)61.5%
岡本和真(巨人)61.2%
中田翔(日本ハム)59.5%
S・ロメロ(楽天)57.9%
山田哲人(ヤクルト)56.8%
村上宗隆(ヤクルト)56.3%
T-岡田(オリックス)56.2%
井上晴哉(ロッテ)53.8%

※規定打席到達打者のみ。現在NPBでプレーしていない選手は除く。ロメロは今季はオリックスに在籍

昨季最もゴロが引っぱり方向に飛ぶ割合が高かったのは、ロッテのレオネス・マーティン。全ゴロのうち63.9%が引っぱり方向に飛んだ。そして逆方向へのゴロはわずか5.2%。佐野と同様にレフト方向へのケアは最低限でいい打者と言えるかもしれない。

2位以下を見ていくと、スラッガータイプの打者が数多く並ぶ。多くのスラッガーはゴロを打った場合、引っぱり方向に打球が飛ぶ傾向にあるよう。そして、注目したいのは先ほど紹介した佐野は、このランキングにはいないこと。昨季、佐野のゴロが引っぱり方向に飛んだ割合は52.4%。規定打席到達者53人のうち、16番目に多い数字だった。さきほど紹介した打球プロットを見ると、かなり偏った傾向に見えたが、特別なものではないのだ。

(※1)引っぱり方向とはフェアグラウンドを30度ごとに三等分したうちの、引っぱり方向にあたる一方向を指す。

特に左打者を相手にした守備シフトは日本でも広がってもいい?

現状、NPBにおける守備シフト戦略は一部の球団が一部の強打者に対応するものとして採用されている。ただし、今回紹介したように、佐野の打球だけが特別というわけではない。他にも、シフト採用を検討すべき打者は数多く存在する。

特に左打者については、右打者以上にシフト導入も容易なはずだ。対右打者であれば、引っぱり方向に内野手を集中させたくても、ファーストは一塁からそれほど離れられない制約がある一方、対左打者では自由にポジションを変えやすいためだ。

MLBでは当たり前に行われる守備シフト。NPBにおいても以前に比べると珍しくなくなってきたが、もう少し適用される範囲が広がってもよいのではないだろうか。(DELTA)

DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える デルタ・ベースボール・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『1.02 Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。集計・算出した守備指標UZRや総合評価指標WARなどのスタッツ、アナリストによる分析記事を公開する『1.02 Essence of Baseball』も運営する。