[SXSW2021]Vol.08 「TOKYO SESSIONS」を成功に導いたオンライン配信の魅せ方

txt・構成:編集部

日本からショーケースに参加したTOKYO SESSIONS

TOKYO SESSIONSは、ライブネーションが手掛ける、日本のアーティストを世界に向けて発信する配信プログラムだ。このライブ配信ショーケースが、「SXSW Online 2021」にて配信された。「millennium parade」「Awich」「D.A.N.」の3組のアーティストが参加した。

TOKYO SESSIONS - Livestream Showcase @ SXSW Online 2021
  • 出演:millennium parade / Awich / D.A.N.
  • 主催:Live Nation Japan / Far East Entertainment / Helixes inc.
  • 協賛:Amazon Music
  • 詳細:SXSW ONLINE 2021

これまでも数多行われているライブ配信とは一味も違う印象を感じた。一般的に音楽のライブ配信はPCやスマートフォンの画面の視聴となり、どうしても画一的になってしまうのが現状だ。

今回「SXSW Online 2021」に参加した「TOKYO SESSIONS」は一味違った。その舞台裏を、制作に関わったクリエイティブプロデューサーの矢吹剛氏(株式会社Helixes maxilla事業部)、プロデューサーの篠塚将季氏(株式会社バルデラマ)そしてディレクターの下山貴弘氏、3名にお話を聞いた。

お話を伺った矢吹剛氏、篠塚将季氏、下山貴弘氏

「TOKYO SESSIONS」がオンライン開催のSXSWを沸かせた理由

――SXSWでのライブ企画をどのように組み立てたのでしょうか?

矢吹剛:

今年はSXSWがオンライン開催ということもあり、何か面白いショーケースはできないかという事をライブネーションがSXSWと話していました。その中で、ライブネーション、Far East Entertainment Inc.、Helixes inc、の3社で企画実施している日本のアーティストを世界に向けて発信する配信ライブ企画「TOKYO SESSIONS」のショーケースをやるのが良いのではという話になり、チームが組閣されました。

出演者については、TOKYO SESSIONSのチームとSXSWにて検討し、最終的に「millennium parade」「Awich」「D.A.N.」の3組に決定しました。

実は、企画のスタートから出演交渉などのプリプロダクションの期間が2週間程度ありませんでしたが、クリエイティブとして、実現すべき方向性はなく、各アーティストのイメージなどに則した形で撮影/編集を行い、「TOKYO SESSIONS」の持つ、ライブショーケース感を大事にしながら、プロダクションを進行しました。

© SXSW

――カメラ機材などの収録システムについてお聞かせください

下山氏:

今回はライブではなく収録配信が前提でしたので、撮影後に編集した完パケをSXSW側にデータ納品するという形でした。以前より「millennium parade」や「King Gnu」のライブ撮影を担当していた流れもあり、今回のディレクションを担当させていただく事になりました。最初に3組のアーティストを見渡した時に演者の人数の多さから「millennium parade」のプランを撮影監督をお願いしたCAMTASの近藤氏と組み上げました。その機材スペックを元に「Awich」「D.A.N.」の撮影プランも構築していく流れを取りました。

撮影スタイルは複数のカメラで収録、現場でスイッチングもしましたが、主に編集のガイド向けという目的でした。カメラは全部で12台を配置、ソニーのFS5、FS7、XDCAMのPMW-300やPXW-Z280、α7のジンバル・ワイドレンズ仕様のカメラも入れました。メインカメラにはCooke製のヴィンテージ・シネレンズを使用して画作りを行いました。特機はSHOTOKUのTKクレーンを入れました。

ライブ一発収録のダイナミズムが冴え渡る

――オンラインだと例えライブの配信でも、結構平面的な感じになりがちですが、TOKYOSSEIONはすごく立体的で没入感がありました

矢吹氏:

そう感じていただけたのはありがたいです。TOKYOSESSIONでの映像をHelixes inc.が担当しており、コロナ禍において、弊社が以前より展開している映像事業という強みを活かすにはどうしたらよいかと考え、配信事業を新規で立ち上げました。

ライブを実際に見る際、周りのみが見えている状態なので、平面的に感じてしまう一面があると考えています。ですので、配信ライブにおいては、普段のライブで見れない部分を立体的に見せてあげることが重要であると常々思っていました。

撮影の段取りについては、基本的には通しの一発撮りでした。今回は3アーティストのパフォーマンスを収録する必要があったため、リハ→本番→転換のような段取りで臨みました。

――現場スタッフの人数はどれぐらいで行われたのですか?

矢吹氏:

収録時のコロナ禍対策は万全に行いました。恵比寿ガーデンホールという比較的キャパシティの大きい会場で行い、スタッフは入れ替わりつつ、総勢100名は超えていました。同時にいる人数は少ないものの、弊社と提携している医療コーディネーターの指導のもと、撮影に臨みました。検温消毒はもとより、できるだけ各部分散して食事をとってもらうようお願いするなど、感染対策を徹底的にやりました。

篠塚氏:

対策をしたおかげで、現場は意識せずにこの台数カメラでの必要最小限人数で組みました。1日で3組収録というスケジュールで、1回の収録で映像収録に関わってる人間1回は25人くらいでしょうか。その他にも音響、照明などもいらっしゃいましたが非常にスムーズでした。

――配信だからチャレンジしたことはなんでしょうか?

©SXSW

篠塚氏:

一般の音楽配信ライブと比較してもグレードは高いものに仕上がっています。観客動員するライブと同手順で制作されています。今回、無観客でしたので撮影はチャレンジができました。millennium paradeに関しては、ステージ上中央にカメラマンを配置したこともその一つです。この演出は有観客では難しく、初めてのお仕事であれば、実現していなかったでしょう。

アーティストの直近にクレーン設置やカメラマンは寄れませんので。意図的なも企画が功を奏していますね。この辺りが、画面前の視聴者が立体的なものだと感じていただいた部分に完全に繋がってるんだと思います。実は昨年12月にも実はこのチームで、millennium paradeのライブ収録を行っています。その反省材料は活かせていると思います。アーティストとの信頼関係も有利に働いていると思います。

――色々な要素が積み重なってすごくいい方向に出たんですね

篠塚氏:

「millennium parade」「Awich」「D.A.N.」のステージの立ち位置を見てカメラの配置から台数を割り出し上で、例えば「Awich」は、ダンスだからクレーンを真ん中に置くと効果的だとか、「D.A.N.」の場合は上手にしようなど。

さらにアーティストとの転換の部分をカメラマンのポジションを確保するなどで、うまく演出に充てました。スケジュール以上に仕上げる時間もさらにタイトでした。3アーティストの編集をそれぞれ異なる人でも行いましたので、良い意味で差別化もできたと思います。

下山氏:

「Awich」「D.A.N.」は、初めての撮影でしたが、元々素晴らしいパフォーマンスをすることは知っていたので、それを世界に届ける思いで取り組みました。それぞれのアーティストの特性は出せたと思います。

「Awich」は、ダンサーとDJを従えてのパフォーマンスですので、無観客ならではのカメラ配置や編集のチャレンジをMV監督の大久保拓朗さんであれば最大限に発揮できると思い依頼しました。その甲斐もあってオンステージのカメラとかそのMV監督ならではの持ち味が反映された仕上がりです。

篠塚氏:

大久保さんもKing Gnuをご一緒しているチームなんです。短期間スケジュールでも以心伝心でスムーズに仕事が行えました。その他東京ドームクラスを多く手がけている撮影技術チーム権四郎に入ってもらい、現場でもトラブルもなく進行できたのは、一番心強かったです。

©SXSW

矢吹氏:

TOKYO SESSIONSは、映像制作の知見のあるmaxillaと、下山さんをはじめとした映像チームを交え、篠塚さんや権四郎さんなど各部が連携し、会社の垣根を越え、良いものに仕上がったと思います。

オンライン開催の最適解を見つけた

編集部でもリアルタイムで参加したが、画面を超えて伝わるダイナミズムはこのような想いが作りあげたのだなと納得した。参加したアーティスト以上に戦略的に制作チームよって仕上げられたTOKYO SESSIONSは素晴らしいと評価できる。近年、SXSWへの日本からの出目が少なっている中で、今回のエントリーは誇らしいものだった。もちろんライブでの味わうことはもう少し先になるが、オンラインの可能性も感じるセッションだった。

音楽はライブで聴くのがベストである事は言うまでもない。画面で見るなんて…という気持ちがいまだに拭えない。しかしながら今回のSXSWは違った。いくつかの弊害を考えていたがそれは杞憂に終わったようだ。TOKYO SESSIONSを体験することでそれが覆ってしまった。

編集部もいくつかのオンライン展示会などに参加しているがこれまで1つたりとも満足のいくものはなかった。結果、展示会というものはオンラインで行う事は不可能であるという結果に立っていたのだが、今回その答えが少し変わったような気がする。

なお、このプログラムはAmazon Musicが協賛しており、4月27日(火)20時~TwitchのAmazon Music JPチャンネルでこのライブの様子が再配信される予定だ。SXSWで視聴できなかった人には必見の機会となる。

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Twitch - Amazon Music JPチャンネル

txt・構成:編集部


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