令和初の真打となった瀧川鯉斗が語る17歳の冬に訪れた転機

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元暴走族総長という異色の経歴を持ち、イケメン落語家として「ダウンタウンなう」「ワイドナショー」「ホンマでっか!? TV」「ヒルナンデス!」など、多くのTVやメディアで活躍中の瀧川鯉斗氏。“令和初の真打”として、世間をアッと言わせるに至る波乱に満ちた道のりから、夜な夜な爆走を繰り返していた少年時代を振り返ります。

※本記事は、瀧川鯉斗:著『特攻する噺家』(ワニブックス:刊)より一部を抜粋編集したものです。

暴走族として「警察」を振り切った日々

暴走族は文字通り暴走する族(集団)という意味だが、実は個々に役割や肩書が存在する。

そのなかでも、チーム内の尊敬を集めるポジションが“ケツマク”だ。これは暴走する際にしんがり(最後尾)を走る役割のこと。“ケツ持ち”ともいう。警察に追われる際に、それを止めて本隊を守る働きをするために運転技術が要され、また逮捕される可能性も一番高いポジションだ。

俺はよく、ケツマクを張った。

「今日は来ねぇな」

▲暴走族として「警察」を振り切った日々 イメージ::PIXTA

バックミラーを一瞥して後方の安全を確認。手放し運転でタバコに火をつける。吐き出すそばから煙が後ろへ流れていくのだが、ふと気配を感じてバックミラーを覗き込む。いない。

「うおっ!」

どこからどうやって現れたのか、覆面パトカーが横付けしている。火をつけたばかりのタバコを捨て、ウイリーするほど一気にアクセルを吹かす。

「直也、おまえ、この野郎! 止まらないとパクるぞ!!!」

警察は俺の名前を知っていて、スピーカーで連呼する。それでも蛇行を続けてパト
カーを自分にひきつけ、前を行く本隊を守る。

「てめぇこの野郎! 止まれっつってんだろ!」

ガツンガツン!

警察はとうとうパトカーの鼻先でバイクのケツを突いてきた。

「なにすんだ! クソ!」

さらにスピードを上げるのだが、向こうも抜群に運転がうまくて速い。横付けしてきたパトカーの助手席の窓が降り、そこからヌッと棒が伸びてくる。バイクのホイールに突っ込む気だ。もちろん突っ込まれてしまえば、次の瞬間に俺は空を飛び、バイクは火花を散らしながら道を滑っていくだろう。

「殺す気かよ! おらあああ!」

ギアを一段落とし、アクセルを全開にしてさらに加速する。スピードを上げると左右に流れる景色が、速すぎて壁のようにみえる。狭まった視界のなか、針の穴を通すようにアクセル全開で切り込んでいく。徐々にバックミラーの中の覆面が小さくなる。なんとか振り切ったようだ。

「クラウンだったから助かった……」

たまに警察は、国産車最速の日産スカイラインGT―Rを投入してくることがあった。クラウンも充分速いが、GT―Rは次元が違う。そうなると大げさではなく死を覚悟しなければならなかった。

“ケツマク”として責任を果たせなかったこともあった。俺を抜き去っていった覆面が、逃げていく本隊に突っ込んでいく。蜘蛛の子を散らすように本隊がバラバラに散っていくのが見える。

「ああ、ごめん!!!」

なぜ世間様に著しい迷惑をかけ、こんなくだらない命の張り方をするのか。当時の俺の耳には、そんな至極真っ当なお説教は届かなかった。自分でもどうしようもない、腹の底からほとばしる激情に支配され、夜な夜な爆走を繰り返した。“ケツマク”の責任を果たして本隊へ追いつき、仲間たちと勝利を叫ぶとき、俺は狂ったように笑った。狂気的なスピードとスリルのなかで味わう快感は、何物にも代えがたい毒性があった。

あいつはいつも“ケツマク”で仲間たちのことを守ってる――。11代目総長のタツヤ君が自身の引退と後継者を発表したのは、2000年の夏の終わりだった。

総長を決める際には、投票制を敷いているチームもある。基準はざっと、

  • 暴走への出席率
  • 喧嘩で怯まない度胸と根性
  • 運転技術
  • 吹かしの上手さ
  • 仲間を思いやる気持ちの強さ

といったあたりだ。スペクター天白支部の場合は、11代目総長タツヤ君の一存だっ
た。仲間たちからの異論もなく、俺は12代目の総長に抜擢された。

17歳の冬に訪れた転機

17歳の冬の入り口。タツヤ君の家に、仲間たちとたむろしていた。タバコを吹かしながら馬鹿話で盛り上がっていたとき、ふと俺は時間が止まったような感覚に陥った。

仲間たちは喋り続けているのだが、何も聞こえない口パク状態。ふと差し込むように、もう一人の自分が俺に囁いた。

(こんなことしてていいのか?)

気心の知れた仲間たちとバカやっている毎日は、たしかに居心地はいい。しかし、ずっとこのままではダメなんじゃないか。

「おい、どーした? ボーっとして」

「ん? あ、いや。うん」

とはいえ、辞めてどうする? 何をして生きていけばいいのか? しばらくの間、物思いに耽ることが増えた。やがてひとつの思いに至った。

(役者にでもなるか)

なるかといってなれるものではない。ただ思いついただけだ。『ファイト・クラブ』とか『アメリカン・ヒストリーⅩ』『うなぎ』など、映画がもともと好きで、役者というものにぼんやりと憧れのようなものを抱いていた。

後日。俺は暴走のあとに、カツに言った。

「もう引退するわ」

「え、なんで!?」

「やりたいこと見つけたから」

暴走族はおよそ16歳で免許を取って、2年ほどで辞めるのが通例だ。先代の総長を務めたタツヤ君もそうだった。17歳の終わりが見えてきた俺にとってはタイミングも合っていた。

引退を宣言してから2週間後、引退暴走が催された。俺のために名古屋市内のさまざまなチームから400台近くが集まってくれた。

「名古屋駅の噴水ん所から酒屋のとこ曲がって、真っすぐ行って。国際センター前を通って、真っすぐ行って、東山のバスレーンのほうに進め。いつもの、わかってんな!?」

「はい!」

「気合入れていくから! 夜露死苦!」

総長として、いや総長になる前から“ケツマク”ばかりをやってきたが、引退暴走では先頭とケツを行ったり来たりした。しかし先頭を走っていても、どうしても後ろの様子が心配になった。俺はスピードを落とし、ケツマクに戻った。400台近くが走っているため、本隊と1キロ弱離れた。1台だけでゴロゴロと流していると、やけに感傷的な気分になった。

(もう走ることはねーんだなぁ)

未練ではなく、ただ寂しかった。戻る気はないし、第一これだけのセレモニーを開催してもらって撤回などできるわけがない。今日で本当に終わり。だからこそ寂しくなった。

仲間たちのもとへ合流すると、

「ご苦労さま」
「お疲れさま」

という声とともに花束を渡された。

右手でアクセルを開きながら、左手いっぱいに抱えた。

まるで花束が走っているようだった。

▲特攻する噺家/瀧川鯉斗