【独自】ステーキの「あさくま」の子会社が債権放棄を要請、多重リースも発覚

 ステーキ店を展開する(株)あさくま(TSR企業コード:400359235、愛知県、JASDAQ)の子会社が突然、「休眠」を通知し、取引先とトラブルになっていることがわかった。
 子会社は取引先に債権放棄を要請したが、多重リースやリース物件の所在不明など、ズサンな経営も発覚。親会社のあさくまのコンプライアンスとともにガバナンス(企業統治)も問われる事態に発展している。

 休眠を通知したあさくまの子会社は、日本料理やすし店を展開する(株)竹若(TSR企業コード:292657242、東京都)。2020年2月にあさくまが竹若の株式すべてを1億5000万円で取得し、子会社化した。だが、買収とほぼ同時に新型コロナウイルス感染が拡大、竹若の経営はスタートからつまずいた。  2021年3月、あさくまは竹若への投資に関し、当初の回収計画を大きく変更することを発表。のれん減損として、4億7125万円を計上した。

突然の債権者集会と債権放棄要請

 こうしたなか21年4月13日、竹若は取引先に「債権者集会の開催について」と題する通知書を送付した。
  通知書は、「あさくまの傘下に入り、1年ほど経ちましたが、力及ばす2021年4月30日をもって、会社を休眠する」という内容で、4月20日に都内で債権者集会を開催することを通告している。さらに、説明より先に「ご来場の際には、同封の債権放棄通知書にご捺印の上、ご持参いただけますようお願い申しあげます」と、債権者には受け入れがたい文章も記載されていた。
 東京商工リサーチ(TSR)は通知書を独自入手した。4月16日、通知書を送付した意図や通知書の内容の真偽を竹若に取材した。取材を申し込む電話には、あさくま東京事務所の従業員が対応した。
 「竹若の方は今、おりません。出たり入ったりの様子で、あさくまの東京事務所に同居はしているが、竹若と電話回線は別です」と答え、竹若の担当者とは接触できなかった。
 あさくま本社に取材すると、「弁護士を入れずに私的整理に入る旨の連絡を受けている。説明会(集会)の内容についてはJASDAQの開示基準には当てはまらないと考える。開示する予定も今のところない」と回答した。

多重リースを公表し紛糾した債権者集会

 竹若の債権者集会は、当初予定していた4月20日から、21日に延期された。また、会場も都内から、神奈川県内のあさくまの店舗に変更された。
 4月21日、債権者集会に参加した債権者のひとりがTSRの取材に応じた。その債権者によると、あさくまの店舗での集会には債権者約60名が出席した。
 集会では、あさくまの親会社である(株)テンポスホールディングス(TSR企業コード:310606071、東京都、JASDAQ)、あさくま、竹若の各社長らが登壇、テンポスHDが集会を取り仕切った。
 冒頭、テンポスHD、あさくま、竹若の各社長らが竹若の休眠について謝罪した。その上で、新型コロナの影響であさくまが買収後、いずれの店舗も赤字で取引先への支払いが滞り、正規の額を支払う能力がないと説明。竹若の資産を現金化後、債権額に応じて債権者に案分し、残った債権を放棄してもらうスキームが示された。
 テンポスHDによる竹若の資産査定では、資産合計1億9139万円に対し、負債合計は12億3021万円で、負債が資産を10億3882万円超過しているという。
 負債のうち、あさくまが竹若に貸し付けた8億1000万円を債権放棄し、税金など優先弁済を控除した弁済原資は877万円しか残らない。これで債権者への弁済率は4.33%を見込むと説明した。
 また、竹若は破産などの法的清算や解散でなく、法人を残す「休眠」にすると説明した。
 集会は途中まで淡々と進行したが、質疑応答に移ると雰囲気が一変した。
 リース会社の担当者は、「竹若の閉店した店舗にリースを入れているが、すでに店舗は第三者が使用し、旧店舗の設備などは無償譲渡したと説明された。私どものリース物件はどうなっているのか」と説明を求めた。
竹若側は、テンポスHDやあさくまはリース物件を管理しておらず、すべて「竹若が管理していた」と、終始繰り返した。ただ、竹若側が閉店した店舗を調査すると、「ダブルリースやオーバーリース」などの多重リースがあったと明かし、一気に集会は紛糾した。

 債権者集会で、多重リースや所在のわからないリースの存在が明らかになり、債権放棄の要請どころではなくなった。
 リース会社は、リース物件の所在などリスト化を求め、竹若側も応じることで集会は終了した。
 竹若は、私的整理による休眠を目指すが、リースの問題で透明性のある法的手続きを要望する債権者も出てきた。
 新型コロナ感染拡大の直前の買収で、そもそも出発から波乱含みだった。業績不振は新型コロナの影響も大きいが、親会社であるあさくまの対応に不快感を示す債権者もいる。
 安易に通知書一枚で債権放棄を要請する無責任さだけでなく、乏しい情報開示など上場会社としての姿勢も問われている。
 本件について、あさくまにメールで質問したが、期日までに回答はなかった。

あさくま

‌子会社への債権放棄を要請したあさくま

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年4月23日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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